いよいよ放送開始が間近に迫った大河ドラマ「光る君へ」。“1000年のベストセラー”『源氏物語』の作者・紫式部を主人公に平安時代中期を描くこの作品で、主演を務めるのが吉高由里子。撮影に入って半年を経た彼女が語った、紫式部への思いや平安時代の魅力、作品への思い......。彼女の言葉をきいて、ますますドラマへの期待は高まる!
●平安神宮でのクランクインは胸が高鳴って
――2023年5月のクランクインは京都の平安神宮での撮影でしたが、その時の印象は?
平安神宮でスタートが切られるなんて願ってもないことだったので、すごくうれしかったですね。そのシーンは歩いているだけだったのですが、役衣裳を着て平安神宮を歩くだけでもちょっとした興奮というか、胸が高鳴るような高揚感がありました。緊張からくる不安、もう始まるのかという気持ち、いろいろな思いを噛み締めていました。
――以前、連続テレビ小説「花子とアン」のヒロインも務められましたが、今回は大河ドラマの主演。気持ちなどに違いがありますか。
「花子とアン」は、ほぼ10年前なんですよね……。あのときは、なんか怖いものなしというか、何もわかっていなくて(笑)。「花子とアン」のときは、みんな本当に仲良くて家族みたいになって、終わっちゃうのが寂しすぎたんです。
だから今回、さらに長く密度が濃い時間を過ごすので、「これが終わったら、私、どうなっちゃうんだろう?」と気が気じゃないですね。ものすごい寂しさを感じるのか、それとも安堵のほうが強くなるのか……。後者なら年齢的にも大人になっているなと思うけれど、終わってみないとわからないですね。
――大河ドラマの魅力をどんなところに感じていますか?
「これは本当にセットの中?」というぐらい、スタッフのプロフェッショナルなお仕事をすぐ近くで見せていただいています。例えばスタジオの中に池ができていたり、家のセットもあっという間に変わったり、見たこともない小道具や御簾もあったり、視界が毎日新鮮で楽しいですね、日々、「この時代に自分が生きていたらどう過ごしたのかな?」と妄想するのが楽しみというか。セットの中に池があるのと、スタジオに馬がいたことは、今まででいちばん大きな驚きでした(笑)。
それに大河の現場って本当に大掛かりで、シーン一つ一つの撮影を「こんなに!」っていうぐらい丁寧に仕上げるんですよ。撮影中にスタッフが「ちょっとすみません」と走ってきて、後ろのほうの「そこまで見えるの!?」みたいな葉っぱを濡らし始めたり。すごく丁寧に作っていますね。舞台が平安時代というのもあって、衣装もすごく鮮やかで画面がとてもきれい。私も大きな画面で見るのが楽しみです。
――大河ドラマの主演として心がけていることはありますか?
こんなに大人数のキャストが出ている作品に出演することが今後あるかどうかもわからないですし、一度もお会いできないでクランクアップされる方もいらっしゃるので、自分と関わる方はできるだけ巻き込んで、楽しんでいきたいなぁという気持ちでいます。座長としてというより、ちゃんと人に甘えるところは甘えて(笑)、この作品にみんなで没頭できたらなと思っています。
――紫式部を演じる上で苦労したエピソードや努力したことはありますか?
これからどんどん増えていくと思うんですけど、やっぱり右手に筆を持って文字を書くシーンは苦労していますし、緊張しますね。私は左利きなので……。最初からさらさら書けるわけじゃないし、手が震えてしまうこともあるので、書くシーンの撮影前には30分くらい時間をいただいて、何度も練習してから本番に入っています。やはり文字を扱う人が主人公で、文字が主役とも言えるドラマでもあるので、すごく丁寧に練習と撮影に臨んでいます。
●平安時代と現代で同じこと、違うこと
――平安時代を生きるまひろを演じて驚いたことや、逆に「ここは今と同じだな」と感じるところはありますか。
まひろの実家には窓がない(笑)。ドアも、壁もない(笑)。すごく冬は寒かったけれど夏は涼しかったのかな、とも想像しました。そして、御簾1枚で隔てられているだけなので、プライバシーとか大丈夫かなあと思いましたね。
あとは乙丸さん(矢部太郎)。彼はまひろ付きの従者なのですが、どこに行くときもあとをついてくるんです(笑)。(下級貴族で貧しくても)まひろは“姫”だから従者がいるわけで、「姫は姫で大変だな」と思いました。好き勝手にどこへでも行けるわけじゃないんですよね。
同じだなと思ったのは、やっぱり人が人を好きになっていく過程とか、浮いたり沈んだりする感情の起伏とか、恋の噂話とか。そういうところは変わらないのかなという感じがします。もしかしたら、物事に対する感性は現代人のほうが鈍く、疎くなっているのかもしれないという気もするのですが、心の感じ方や思考回路は通ずるというか、同じ人間だなと感じながら演じていますね。
――ドラマの中の男性陣の生き方はどのように映っていますか?
身分って大事だな、と思いました。生まれた家の格が低いと将来の可能性が限られてしまう時代、それは女性も男性もすごく苦しいし、社会の階段を昇っていきたい男の人たちにとっては、なんとも歯がゆかったろうなというふうに感じました。ひとりの人生の可能性がすごく限定された時代ですよね。
恋愛よりも、政治的な駆け引きのほうがとても大変だったんだろうなとも思います。裏切ったり裏切られたり、のし上がったり、切り捨てられたり、いっぱいあったんだろうなと思うと「男もつらいよ」ですよね。それから当時は占いが信じられていた時代じゃないですか。呪詛しますとか、除霊するとか。すごいなと。
一方で「えっ、そうなの?」と思ったのが、(当時は婿入り婚が基本なので)お金を出すのは全部妻の家だということ。それでいて男性は嫡妻(正妻)も妾も持てるって……。「やりたい放題だな!」と感じましたけど(笑)、そんなイメージです。
●紫式部は「罪な女」。なんだかずるいですよね
――紫式部という人の印象を教えてください。そして撮影を通して印象が変わったところはありますか?
(作品が)これだけ世界中の人に知られているのに、彼女自身のことはよくわからないという摩訶不思議な存在だなと思っていました。当時の日記や記録から推測したり、想像したりするしかないようですね。よく清少納言と対比されますが、実際にはどうだったのかな?『源氏物語』からの印象だと、人の噂だったり色恋だったり、じっくりと人を観察していたのかなという気もします。
ちなみに私、出演発表があってから、人に「光源氏は誰なの?」ってよく聞かれて、そのたびに
「いや、違うの。『源氏物語』を書いた人の話なんだよ!」
と説明しているんですが、その事実は太文字で伝えていただけたらと思っています(笑)。
――撮影前、紫式部ゆかりの地をお訪ねになりましたか?
脚本の大石静さん、制作統括の内田ゆきチーフ・プロデューサーと、京都周辺の紫式部ゆかりの地だろうと言われるところは一緒に回りましたね。その中で、本当にここで『源氏物語』の一部を書いていたのかな……と感じたのは、廬山寺でした。
でも、なんだかずるいですよね。確実なことがわからないから、いろんなことを想像してしまう。「罪な女だな~」と思うんですけど(笑)。亡くなってから1000年も経っているのに「どんな人だったんだろう?」と、「光る君へ」を見てくださった視聴者の方やいろんな人に思われたり、想像されたりするわけで、それだけ魅力的な人だったんだろうなと思います。
――紫式部があれだけの長編の物語を書き上げられたエネルギーの源はどこにあると思いますか?
文章を書くことで自分と会話できていたのかな、と思うんですよね。書いているときに自分の心がやっと見える、感じられるというか。「じゃないと、あんなの書けないよな」と思ったりします。あとは道長に(当時高価だった)紙をもらって書いたという説もあって、だとすると道長の力もあるのかなと。書き上げて彼に読んでほしいという気持ちもあったかもしれないし、恩返しの気持ちもあったかもしれないですね。
●大石静さんは私に何をさせようとしているの?(笑)
――大石静さんの脚本の印象を聞かせてください。
非常にパワフルで情熱的で、一行一行のインパクトが強い。一行読んで次の一行を読んだら、前の行と全く逆の気持ちを言っていたりとか、感情の起伏がものすごく情熱的に描かれているなと思いました。まひろも大人なようで子どもの部分もあったり、甘えたいのに甘えられない葛藤もあったり。ずっと肩に力を入れて、自分を抑え込みながら若い時代――それは15歳から16、7歳ぐらいまでですが――を過ごしていたように思います。
今(取材時)は、道長と恋に落ちて、受け入れられない現実の中で葛藤するところを撮っていて、20代はこれからですね。大石さんがよく使う「万感の思い」という言葉があるのですが、道長と会うシーンはこの言葉をいつも頭に思い浮かべながら演じています。結構“大胆”なセリフもあって、「大石さんは、私に何をさせようとしてるの?」と少し怯えながら、新しく届く脚本を読んでいます(笑)。
あとスピード感のあるラブシーンの描き方はすごいなって思います。「このセリフ、どう言えばいいんだろう?」と大いに悩みましたが(笑)。そういう「ぶつかり稽古をしてる?」というぐらいのテンポ感がある反面、急に優しく撫でるような時間の流れになったり、文字だけで時間の速さが変わって見えるところが面白いなと感じています。
大石さんの描くラブストーリーの素晴らしさはもちろんですが、戦がほとんどない分、逆に人の腹の底にあるもの、政治的な人間の魂胆というか、そういう人間味を感じ取れるドラマになっていると感じるので、きっと面白く見ていただけると思います。
●“ソウルメイト”道長がどう出世していくのか楽しみ
――道長を演じている柄本佑さんとは、現場ではいかがですか。
以前、大石さん脚本のドラマでご一緒したことがあったので、最初から「戦友感」があって、そこに居てくれるだけですごく安心するというか頼もしいというか。この「光る君へ」でまた巡り合うことができてよかったなと思っています。
お互いに1日中泣いていたりする撮影もあったし、ワンカットが6ページぐらいあるシーンでは「ここは劇場だ! 2人で舞台をやっている気持ちになろう!」と声を掛け合ったり。また夏の暑い日のロケで、ずっと土を掘るシーンも大変で。当時はスコップなんてないから一生懸命手で土を掘っていたのですが、「暑いけど、頑張ろう!」と励まし合っていました。シリアスなシーンやラブシーンとかの前でもフラットに会話してくれるので、緊張しないというか、リラックスできますね。
――道長には、どんな印象をお持ちですか?
「いやあ、賢いねぇ」と思います。最初のころは、もっとのんびりした人のような印象なんですが、ちゃんと客観的に人や周りを見ていて視野の広い男だな、と。ここからどう成り上がって、出世の階段を昇っていくのかすごく楽しみにしています。脚本を読んでいても、政治権力をめぐる争いが描かれる内裏パートを読んでいるほうがストーリーを客観的に見られるので面白いですね。
――最後に、吉高さんお薦めのドラマのポイントを教えていただけますか?
画面がすごく優しいんですよ。例えば、色使い。淡色がすごく繊細ですし、色合わせで「その色でそう組み合わせるんだ」と感心する衣装もいっぱいあって、「五感に敏感な時代」というか、目で見るもの、聞こえる音、においとか、そよぐ風とか、人が心を揺さぶられるものが日常風景の中にいっぱいあるんだなと改めて思いました。
そんな風景や想いを歌に詠んで、また楽しんで、みたいな。何と言ったらいいのかな? つながっていく連鎖していくアートなのか、娯楽なのか、今だったら本当に見落としてしまいそうな小さな幸せをうまく活かして、それが作品として残っているのかなと思ったりします。
このドラマにはそういう繊細さがあるから、私は本当に画面で見るが楽しみなんですよ。女性の十二単だけじゃなくて、男性陣の衣裳もすごくきれいなのでぜひご覧ください。
大河ドラマ「光る君へ」
第1回「約束の月」(初回15分拡大)
1/7(日)総合 午後8:00〜9:00
NHK BS・BSP4K 午後6:00〜7:00
BSP4K 午後0:15〜1:15
【作】大石 静 【音楽】冬野ユミ