現在『Season2』が放送中の『大奥』(NHK総合)は、反響の大きさや支持する声の多さなどから、夏の話題をさらった『VIVANT』(TBS系)と並ぶ2023年を代表するドラマと言っていいでしょう。

ただ、ネット上の称賛が今年トップクラスである一方で、「どんな作品なのか」「どこが魅力なのか」を俯瞰的に解説したコラムは、それほど見かけません。

ここでは終盤に向かう今、あらためて「どんな見どころがあるのか」「他の作品とは何が違うのか」を掘り下げていきます。

今作に限らずドラマの『大奥』と言えば、「女性同士の強烈なバトルを前面に押し出して描く」のが定番でしたが、“男女逆転”大奥の当作はそれだけではありません。女性同士のバトルに限らず、周囲の男女を含めた、熱くまっすぐな関係性や生き様を描くことで視聴者を引きつけています。

実際、『Season2』の「医療編」では、『Season1』で力強く世をけん引した8代将軍・徳川吉宗(冨永愛)の遺志を引き継いだ田沼意次(松下奈緒)や若き医師たちが、悪人の陰謀などに苦しめられながらも、男女逆転の世を生んだ疫病「赤面疱瘡」撲滅の道を切り拓く様子が描かれました(以下、物語のネタバレがあります)。


ドラマ化スペシャリストによる脚色

なかでも『Season2』で視聴者の心を揺さぶったのは、平賀源内(鈴木杏)、青沼(村雨辰剛)の非情な最期。一橋治済(仲間由紀恵)の暗躍で男たちに乱暴され、梅毒をうつされた源内と、人痘接種で人々を救いながらもあらぬ罪を着せられて死罪となる青沼の姿が涙を誘いました。

ただ、そんな理不尽や非情だけで終わらないのが今作の魅力。源内は絶望するも、命を削るように旅に出て、人痘接種につながるきっかけをつかみ、意次は源内の奮闘に応えるべく、女子が蘭学を学ぶことの禁が解かれるよう動きました。さらに黒木良順(玉置玲央)らが青沼の遺志を継いで人痘接種の研究を続行。母・治済の悪事を知って立ち上がった11代将軍・家斉(中村蒼)とともに赤面疱瘡を撲滅し、「医療編」を感動のフィナーレにつなげました。

理不尽の連続と非情な最期ばかりではなく、それを大きな“振り”にして感動の結末につなげる脚本の巧みさこそが『大奥』最大の魅力と言っていいでしょう。『西洋骨董洋菓子店』『きのう何食べた?』などで知られる漫画家・よしながふみさんの原作が素晴らしいのはもちろん、そのベースを守りつつ、映像化に合わせて人間ドラマの比重を高める森下佳子さんの脚色が冴え渡っています。

森下さんは『世界の中心で、愛をさけぶ』『白夜行』『JIN-仁-』『とんび』『天皇の料理番』『義母と娘のブルース』(すべてTBS系)でも原作小説や漫画の脚色で称賛を集めた業界トップのスペシャリスト。思い入れの強い原作ファンを満足させるだけの技術を持った脚本家であり、『大奥』の成功は、よしながふみ+森下佳子のコンビが実現したことが大きいのです。


異例の「1年で2シーズン」を実現

次にふれておきたいのは、脚本のみならず他の面も含めて、なぜこれだけのクオリティで制作できたのか。

やはり最大の理由は、民放各局ではなくNHKの制作だったからでしょう。よしながふみさんの壮大な物語を民放各局のドラマ枠で放送するのは、予算、キャスティング、美術や衣装、スポンサー対応などのさまざまな点で難しいところがあります。

TBSは2010年~2012年に同じ、よしながふみさんの漫画を実写化しました。しかし、2010年に水野祐之進(二宮和也)と徳川吉宗(柴咲コウ)の時代を描いた映画。2012年に万里小路有功(堺雅人)と徳川家光(多部未華子)の時代を描いた連ドラ。さらに同年、右衛門佐(堺雅人)と徳川綱吉(菅野美穂)の時代を描いた映画を公開・放送しましたが、それ以降の物語は手がけていません。そもそもTBS版の連ドラは有功と家光の時代のみであり、特に予算、視聴率獲得、スポンサー理解などの点で難しさがうかがえます。

また、民放各局では1話完結型の刑事・医療・法律・グルメドラマなどを除けば、「1年で2シーズンの連ドラを放送する」のは、ほぼ不可能。まずスタッフとキャストの確保が難しい上に、撮影スケジュールもNHKほどゆとりがなく、常にギリギリの状態で制作しているため、「Season2は早くて2~3年後、遅ければ5年以上後」になりがちです。

それは『JIN-仁-』(2009年→2011年)、『半沢直樹』(2013年→2020年)、『下町ロケット』(2015年→2018年)、『きのう何食べた?』(2019年→2023年)などを見てもわかるでしょう。人気作であるほど、「できるだけ早く続編が見たい」という視聴者が多いだけに、それが実現できるNHKの優位性が表れています。

これを書いている当日、ネット上で「スポンサーの意向や視聴率に縛られず、こういう作品が作れる放送局が1つくらいあってもいいと、個人的には思います」というコメントを見かけました。少なくとも『大奥』を見ている人にとって、NHKのイメージアップにつながる作品になっているのは間違いなさそうです。


“将軍女優”が競い合うように熱演

『大奥』は『Season1』の放送時から、日本唯一の年間ドラマであり、60年の歴史を持つ大河ドラマの作品よりも、「大河ドラマらしい」という声があがっていました。確かに、「江戸時代の大半を描き、時の将軍や実力者たちがリレーしていく」というプロジェクトのスケールは大河ドラマの過去作をしのぐものがあります。

そんなスケールの大きいプロジェクトだからこそ、気合が入り、いつも以上に迫真の演技を見せるのが俳優の性。なかでも歴代将軍を演じた3代・家光役の堀田真由さん、5代・綱吉役の仲里依紗さん、8代・吉宗役の冨永愛さん、9代・家重役の三浦透子さん、10代・家治役の高田夏帆さん、13代・家定役の愛希れいかさんは、これまでに見せたことのないような鬼気迫る演技を競い合うように見せて視聴者を引きつけました。

さらに、龍(後の田沼意次)役の當真あみさん、柳沢吉保役の倉科カナさん、平賀源内役の鈴木杏さん、田沼意次役の松下奈緒さん、御台役の蓮佛美沙子さん、お志賀の方(滝沢)役の佐津川愛美さん、阿部正弘役の瀧内公美さんらを含めて、出演女優たちが次々に“自己ベスト”のような演技を連発しています。

今作には、民放各局のゴールデン・プライム帯では主演を務めるとは限らない彼女たちの能力を引き出すようなスケールや、脚本・演出があるのでしょう。

なかでも一橋治済を演じた仲間由紀恵さんの悪役ぶりは、「むしろ突き抜けていて痛快」というレベルでした。10代・家治や、その子などに毒を盛って殺したほか、田沼意次や松平定信(安達祐実)らを失脚させてしまう。

さらに、「退屈しのぎ」という理由で孫たちに手をかけて間引きし、息子の11代将軍・家斉(中村蒼)にも毒を盛ったが、子を奪われた母たちの逆襲を受けて無残な死を遂げる……このように「悪を徹底的に悪として描く」というシーンが物語に緊迫感を生んでいます。


サイコパスも受け継がれた

しかも、そのサイコパスのような気質は、治済から子の家斉を経て孫の12代将軍・家慶(髙嶋政伸)に受け継がれました。7日放送の第16話では、娘で13代将軍の家定を性的虐待し、それが叶わなくなったら毒を盛るなど、悪の限りを尽くすキャラクターとして描かれています。

それに限らず、熱い思いや志なども含めて、長い年月を扱った作品だからこそ、「良くも悪くも脈々と受け継がれていくものを描いている」ところも、また『大奥』の魅力でしょう。

14日に放送される第17話の注目は、家定の正室として薩摩から迎えられたたねあつ(福士蒼汰)。さらに開国や攘夷などの動きが加速する中、勝海舟(味方良介)、和宮(岸井ゆきの)、一橋慶喜(大東駿介)、西郷隆盛(原田泰造)らが登場して、「幕末編」は江戸城無血開城に向かっていくのでしょう。

このスタッフとキャストなら、最後の最後まで史実をベースにしつつ男女逆転の物語を違和感なく成立させ、「もしかしたらこちらが本当の歴史なのかもしれない」と本気で思わせてくれるのではないでしょうか。

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。