「ラジオ深夜便」芳野潔アンカーエッセー「涙のナポリタン」

表題の歌は、T字路s（ティージロス）が2020年に発表したアルバムの収録曲です。T字路sは、ギター・ボーカルの伊東妙子さんとベースの篠田智仁さんによるデュオ。去年12月から今年1月にかけて放送された「深夜便のうた」『夜も朝も午後も』を歌っていたのでご存じのリスナーも多いのではないでしょうか。

4月から放送されたNHK「みんなのうた」では、五つの赤い風船が55年前に発表した名曲『遠い世界に』をカバー。パワフルな歌声を聞かせてくれます。

先日、妻とナポリタンを食べに出かけました。喫茶店でもイタ飯屋（古い！）でもありません。以前から気になっていたナポリタン専門店です。ビルの狭い階段を2階に上がると、細長い店内はカウンター席が9席とテーブル席が4つ。メニューはナポリタンとサラダのみで、目玉焼きやコロッケなど10種類のトッピングを選ぶことができます。鉄板にのせられたナポリタンからは、ケチャップの甘酸っぱい香りが立ち上り、麺にはたまねぎ、ピーマン、ウインナーとおなじみの食材が絡み合っています。

私が子どものころ（昭和30年代）、スパゲッティといえばナポリタンかミートソース、さらに学校給食で出されていたソフト麺でした。ナポリタンは、ケチャップが手に入りやすくなったことで一般家庭にも広まったそうで、同時に喫茶店の軽食メニューの定番にもなりました。昭和の薫りが漂うナポリタンですが、スパゲッティがパスタと呼ばれるようになった今でも、現役で活躍を続ける人気メニューです。

店頭に並ぶ食材の種類は日々増えていて、飲食店には見慣れないメニューが次々に登場しています。食い意地の張っている私としては少しでも多くの未知の味覚を試したいと思っているのですが、気持ちとは裏腹に食欲も好奇心も衰えてきています。最近はむしろ慣れ親しんだ味に惹ひかれることが多くなっているのです。マリトッツォ^（注）も美味おいしいけれど、シュークリームの方が好きかなあ。

（注）パンに生クリームをたっぷり挟んだイタリアの伝統菓子。2年ほど前からコンビニでも取り扱われるなど、全国的なブームとなっている。

（よしの・きよし第1・3水曜担当）

最新のエッセーは月刊誌『ラジオ深夜便』1月号でご覧いただけます。