演奏会当日の楽器・機材搬入。
1、2年生にとっては、単なる重労働なんだけど、これが最後の部活動になる3年生にとっては特別の思いがあって。音楽系の部活を経験したことのある人間にとっては、なんてリアル描写なんだろう、と。この「あるある」だけで小一時間ほど語れそうですよ(笑)。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

なんだろう、「部活動感」と言えばいいのかな? あのときの、あの一瞬にしかなかった(でも、確かにそこにあった)空気感がすごく伝わってきて。簡単にまとめてしまえば「開演前、さまざまな立場にいる人たち、各人の胸に去来する想いを点描していく25分」ということになるんだけれど、それを演奏が始まる前に見せ切っちゃった!

そんな第22話「贈る言葉」ですが、鮎川先生と武田先生の高校時代のエピソードも描かれています。これまで登場シーンは少ないものの、折にふれて青野くんを癒やしてくれる存在だった武田先生。一度は柔道に挫折して、オーケストラ部に入って同学年の鮎川と出会い、その後再び柔道の世界に戻って、最終的に体育教師となった彼のバックボーンが、ここで明かされるわけですね!
青野くんに目をかけてくれた武田先生もまた、かつては自分の足元しか見えていない時期があった。そんなとき楽器の音を聴いて、オケ部に思い切って飛び込み、常に誰かが隣にいる世界を経験して……。

自分の経験から得たものは、惜しみなく差し出してやりたいと思うのが、僕の思いですかねえ。

こんな先生がいてくれるのって、ありがたいことだな……。
その気持ちを持っているからこそ、おそらく青野くんだけでなくて、同じように苦悩を抱えている子どもたちにも、ちゃんと寄り添ってくれるのだろうなと思いました。実際、りっちゃんにはヴァイオリンを使わせてくれていたわけだし。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

原作読破組のファンの皆さんはおわかりだと思いますが、武田先生の高校時代の物語は、原作では第39曲「遠鳴り」として、定期演奏会の休憩時間に置かれていたんですよ。しかも第35曲「贈る言葉」の内容は、実は定演前日の出来事として登場していました。それを今回のような形にまとめたのは、アニメならでは工夫だと思うのですが、おそらく最終回へと至る描き方からの逆算なのでしょうね。なので今回も、アニメ・オリジナルの表現がかなりあったような気がします。

おっと、最初から長くなってしまった……。第22話のあらすじは、こんな感じでした。


海幕高校シンフォニックオーケストラ部の定期演奏会、当日。部員たちは自分たちの手で、会場となるホールに楽器や機材の搬入を行う。この演奏会が最後の舞台となる3年生たちは、舞台袖に並べられる楽器ケースを見て、寂しさを感じていた。
一方、開場を待つ観客の中には、青野(声:千葉翔也)と律子(声:加隈亜衣)の中学時代の恩師である武田先生(声:金子隼人)の姿が。青野の母(声:斎藤千和)に声をかけられた彼は、演奏会の指揮者である鮎川先生(声:小野大輔)と同級生だった高校時代、ともに部活に打ち込んでいた日々のことを語り始めた。

開場を控えるステージでは、本番前のミーティングで、オケ部の部員たちに向けた3年生の挨拶が始まった。コンサートマスターの原田(声:榎木淳弥)は、長い時間、大好きな音楽に浸れた喜びとともに、強豪校ゆえの重圧に押しつぶされそうだったという気持ちを正直に明かす。そして部長の立石(声:小原好美)は、鮎川先生の厳しい指導に何度も落ち込みながらも先生が自分たちを大切にしてくれていたことに感謝して、涙が止まらなくなった。
そして部員たち一同は大きな円陣を組み、「一音一会!」と声を合わせる。


高校時代の、鮎川くんと武田くん(笑)。ビジュアルも、ちゃんと高校生でしたね。この2人の出会いと、一緒に過ごした3年間にもいろいろなドラマがあって。結局、武田先生が柔道に復帰して「最後までやり切った」と思えるようになったのは、鮎川にかけられた言葉があったから。そして体育教師になって、青野くんの担任になって……。あれ、ということは、青野くんやりっちゃんの人生にも、鮎川先生が間接的に影響していたわけなのか(もちろん、彼らはまだ気づいていないけれど)。うーん、なんか、人生って「縁の糸」ですね。
で、高校生の鮎川の声も、小野大輔さんが演じていたのだけれど、「小野D」はやっぱり「小野D」だった!(笑) イケボ過ぎる高校生で、きっと高校時代は「原田マジック」以上の「鮎川マジック」が、女子たちに対して炸裂していたと思われ……。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

そして原田先輩。コンサートマスターとしての挨拶は、かなりの長ゼリフでしたが、榎木淳弥さんの見事な演技(セリフの途中で喜怒哀楽の感情変化が明確に伝わる、まさに変幻自在!)もあって、ものすごい説得力を持っていました。オケ全体に気配りができる爽やか系イケメンで、男女問わずに人を魅了する「原田マジック」の持ち主。いい人キャラとして描かれているけれど、自分が抱えていた葛藤も偽らざる本音もみんなの前で見せていて。ゆえに、より人としての深みが感じられました。それもまた「原田マジック」なのかもしれない(笑)。
ちなみに、原作漫画で描かれていた「演奏会の後半で語られる、2年生・羽鳥との過去話」もアニメ化されるのかしら? だと、いいな。原田先輩の本質がより表現されているから、さらに原田ファンが増えること間違いなしです。
そんな原田先輩が口にした言葉は。

音楽は、聴く人がいないと成り立たない。

「音楽は『想い』を誰かに伝えるもの」ということは、「青のオーケストラ」の作品の大きなテーマだと思うけれど、その想いを受け取って、また別の誰かに渡していく、というイメージの具現化は、次回以降できっちり映像化されていくはず。

そして立石部長が感情を爆発させながら「贈る言葉」を語っていたとき、BGMとして流れていたのは、オープニングテーマ曲であるNovelbright「Cantabile」のインスト・バージョン。うわぁぁぁ、ここで来たかー! こんなん、泣くやん。
そのうえで鮎川先生は。

今… 自分の中にある想いや感情は… 思う存分きょうの演奏に乗せろ!

定期演奏会、ついに開演です! 10月1日放送の第23話「定期演奏会」のあらすじを簡単に紹介しますと。


定期演奏会は、ビゼーの「カルメン」で幕を開けた。オーケストラ部に入部して本格的な演奏を始めた律子にとって、人前での演奏は、未知の世界への挑戦となる。中学時代に同級生と対立して、保健室登校をしていたころ。武田先生から借りた、ヴァイオリンとの出会い。そんな律子のこれまでの歩みが、彼女が奏でる音に重なって――。

ハル(声:佐藤未奈子)の出番となったのは、チャイコフスキーの組曲「くるみ割り人形」の「花のワルツ」。そして、コンマスの原田やチェロの高橋(声:青木瑠璃子)ら3年生が中心となった弦楽アンサンブルによる、ヴィヴァルディの「四季」より「春」と「夏」。それぞれが音楽とともに過ごした時間、悩みや葛藤、心の交流の全てを音にのせて、演奏会は進んでいく。


豪華な演奏プログラム。そして、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」は、最終回に控えているわけですね。
それにしても。
定演での演奏だけで2回も使って、50分という時間が間延びしないの? と考える方がいらっしゃるかもしれません。でも、絶対にそんなことはなくて。逆に足りないくらいで、特急進行になるかもしれないと予想しています。だってプログラムをそのまま演奏したら、劇場用アニメが1本できるくらいの時間になりますからね。原作漫画だと、実に200ページ超。何度も言うようだけれど、そこで濃密なドラマが繰り広げられているんだから。それを50分で……。考えただけでもクラクラしてきますが、残り2回をただ楽しむのみ。定期演奏会の観客席に一緒に座った気分になって、オケ部のメンバーが奏でる音楽に身を委ねましょう。

次回予告で流れたセリフを、あえて全書きしてみますね。

これは ある少女の物語

不思議だ あの頃のあたしたち 何一つ合わなかったのにね

見ててね 先生 私 走り続けるから

上から順に、ハルちゃん、高橋翼先輩、りっちゃんのセリフ。ハルちゃんが演奏に参加した「花のワルツ」、原田先輩&翼先輩の「四季」より春&夏、りっちゃんの「カルメン」の演奏の際には、それぞれ濃密で鮮烈な印象を残す物語が繰り広げられているから(しかも、これまで描かれてきたドラマが全部伏線になっているんです!)、必見ですよ。
全部が見どころなんだけど、個人的には、ハルちゃんがあの先輩から「想い」を受け取って、音を紡ぐことで華麗な花を咲かせていくシーンがアニメで見られると思うと、もうね、うれしすぎる!!! と書いたからって、べ、別にハルちゃん推しってわけじゃないんだからねっ!(←思いダダ漏れ

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

それよりも、あまりにも濃密すぎて本当に25分に収まるのかな?、と余計な心配もしてしまいますが(だって作画スタッフの消費カロリーがめちゃくちゃ膨大になりそうなんだもん……)、前回のような「音楽に重ねて描かれるイメージの広がり」を見せられたら、これは期待するしかないでしょう!

見逃したら、絶対に後悔すると思うよ?

▼第22話「贈る言葉」の、再放送・見逃し配信はこちら▼
【再放送】Eテレ 9/28(木曜)午後7:20~7:45
NHKプラス見逃し配信】10/1(日曜)午後5:25 まで

文/銅本一谷

カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。

☆これまでの感想記事は、ここに(https://steranet.jp/list/category/stera_aniken )。