ああ、そうか。
佐伯直はずっと、そう思いながら青野くんと接してきたのか。

生まれたときから君は「表」で、俺は「裏」。

ううううう、せつない。せつなすぎるぞ!
そんな佐伯の気持ちを青野くんが真正面から受け止めながら、お互いの胸の内を全部さらけ出した第19話「君として」は、「青のオーケストラ」という物語の中でも屈指の感動回。いや、原作を読んでいたときから、アニメ化されたら絶対に泣けるとわかっていたけど! 覚悟をしたうえで見ていて、それでも涙が止まらなかったけど!!
前回も書いたように、「青オケ」を青野くんと佐伯をめぐる人間ドラマととらえるならば、今回がクライマックスともいえるでしょうね。
ああ、いい最終回だっ……(←違います!
まず先に、今回のストーリーを振り返っておきましょうか。


電話で話をしていた律子(声:加隈亜衣)に「あいつとケンカしてくる」と宣言して、家を飛び出した青野(声:千葉翔也)。青野は佐伯(声:土屋神葉)を呼び出し、人気のない夜の公園で彼と向き合った。あの日の夜、佐伯が打ち明けた事実を、青野は許すことができないと告げる。「ごめん」という謝罪の言葉を繰り返し口にする佐伯に対して、青野は自分の気持ちを包み隠さずに伝えた。佐伯との演奏が楽しかったこと。自分に無いものを持っている佐伯を妬んでいたこと……。それらのさまざまな感情を裏切られたように感じていた青野は、改めて佐伯の本音を聞こうとする。「お前は、どう思っているんだ?」と。

「『青野龍仁の息子』としてしゃべるな。『佐伯直』として、俺の前に立って話せ!」と訴える青野に、佐伯は涙を浮かべながら「俺は…! 君とヴァイオリンが弾きたい!!」と言葉を絞り出した。

翌朝、部活のために学校を訪れた律子は、聴き覚えのあるヴァイオリンの音色を耳にして、音楽室へと急ぐ。そこには、一緒にヴァイオリンを弾く青野と佐伯の姿があった。
そしてオーケストラ部では、鮎川先生(声:小野大輔)の指揮のもと、ドヴォルザーク「交響曲第9番『新世界より』第4楽章」の合奏練習が始まる。


このあらすじでは大事なところが拾えていない気がするほど、今回は濃密なドラマが展開していました。特に、前半の「夜の公園」のシーンは、佐伯の子ども時代の回想を含んでいるものの、実質、青野くんと佐伯の2人芝居。千葉翔也さんと土屋神葉さんの渾身の名演で、それぞれが抱えていた“ぐちゃぐちゃした思い”が見事に昇華していく過程が描かれていて。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

佐伯が持たざるを得なかった、青野くんへの複雑な思い。ゆえに、ただ「ごめん」としか言えないでいる佐伯に、青野くんは「お前、何に対して謝ってんの?」と問いかけます。そして出てきた言葉が……。

俺が…、「佐伯直」として、ここにいること。……君と、血の繋がりがあること。母さんが俺を産んだこと。ごめんなさい…。

違う! 絶対に違うよ、佐伯くんっ!! そんなこと、思っちゃダメだ! と、私は叫びそうになりましたよ。だから、青野くんがそれらを全部拒絶したうえで、佐伯から本音を引き出して、結果として佐伯を救ってくれたから、本当によかった。お互いの心の奥底に持っていた「一緒に、楽しくヴァイオリンを弾きたい」というシンプルな思いが共有できて、よかった。どんな過去の経緯があっても、今、身近にいる人たちとの繋がりを大切にする。それって、むちゃくちゃ大事なことですよね!

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

佐伯が青野くんに対して逃げずに向き合ったように、青野くんもまた佐伯に「ひどいこと言ってごめん」と言えたこともよかったし、佐伯が「君は何も悪くないよ」と返したことに「お前だってそうだろ?」と伝えられたこともよかった。ああ、今回は「よかった」ばっかり言ってますね、私。でも、本当によかったんだもん。

ついでに言えば、子どものころの佐伯もめっちゃかわいくて、よかった(笑)。幼少期の佐伯の声は石見舞菜香さんで、少年声というよりも女の子声だったから、可愛さが倍増。ベンとマリーの兄妹のやり取りを見て、まだ見ぬ(青野くんという)兄弟に思いを馳せているところとか、当時の佐伯の気持ちが伝わってきて。この回想場面で、青野龍仁(演奏担当は、ヒラリー・ハーンさん)が弾く「24のカプリース」がずっと流れていたのも、印象的でした。そして、メガネを外したときの佐伯が、何だか超絶イケメンだった! 作画スタッフ、絶対狙っていますよね!?(笑)

どうして彼が母親と離れて日本で祖母と暮らすようになったのか、その詳しい理由は、実は阿久井先生の原作漫画でも明かされていないけれど、いつか佐伯直を主人公としたスピンオフ作品が誕生することがあれば、描かれたりするのかな。そのときは、ぜひ、この作画で……♡

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

話が逸れてしまったけれど、そんな「青野と佐伯の物語」が、今回の前半。後半は、2人の関係が落ち着いてからの定期演奏会に向けての物語になります。おお、緩急自在な演出だ! 1話で2度おいしい展開ですね。

青野くんと佐伯が合奏する姿を見て、笑顔を浮かべるりっちゃん。心の中で「きょうは学校に来るって言ってたし、別に心配してなかったけど」と思いつつも、やっぱりうれしくなってしまうのは、言葉にはしていないけれど見事なツンデレっぷりですね(笑)。2人が何かを説明することもなく、それでも態度から和解していることを感じ取って、「ま、男子の世界はよくわかんないけど!」とさらりと受け流してくれる。その気遣いは、青野くんにとっても佐伯にとっても、きっと心地よかったはずです。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

そして始まる、合奏練習。定期演奏会のメイン曲となるドヴォルザークの「新世界より」、その第4楽章の練習がスタートしました。いきなりの蒸気機関車登場にびっくりした方もいるかもしれませんが、蒸気機関車は、この曲が生み出されたときの重要なモチーフ。ドヴォルザークが筋金入りの「鉄ヲタ」であること(駅に通って機関車の車体番号まで記録していたとか)は、クラシック音楽好きにはよく知られたエピソードですね。そのあたりを、浅沼晋太郎さんが演じている羽鳥先輩がきっちりと、軽妙に解説してくれていました。これ、クラシック・ファン以外にも、すごくわかりやすかったと思うんだ。

配信公開されている【青のオーケストラ 聴きドコロ♪】でも、この曲がピックアップされています。

♪ドヴォルザーク「交響曲第9番『新世界より』第4楽章」
演奏:洗足学園フィルハーモニー管弦楽団
指揮:吉田行地(指揮)

アニメでも描写されている、ヴァイオリンから火花が散るイメージは、石炭が投げ込まれたボイラーのイメージか、はたまた鉄路を駆ける車輪からのイメージか……。いずれにしても、疾走感が半端ないですね。この第4楽章は「アレグロ・コンフォーコ」(速く、炎のように情熱的に)と表記されていますが、最後の青野くんと佐伯のセリフ「炎のようにはげしく!!!」は、それにちなんだものになっていました。調子を崩し、合奏練習でミスを繰り返していた佐伯も完全復活。第2プルトの「表と裏」を決める再オーディションに向けて、2人の演奏は……。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

さて物語は、いよいよ定期演奏会モード! というところなのですが、次回、9月10日放送の第20話「夏の居場所」は、青春回というか、ここ数回とはやや違ったテイストのエピソードが描かれていきます。あらすじは、こんな感じ。


夏休みまっただ中。オーケストラ部員たちは、定期演奏会に向けて、熱心に練習に取り組んでいた。青野たち1年生の初舞台となる“定演”は、3年生にとっては引退公演となる。部長の立石真理(声:小原好美)は、部活動と勉強に明け暮れる「最後の夏」に、充実感と少しの寂しさを感じていた。
そして、部活休みの日曜の夜に、花火大会が開催された。金魚すくい、かき氷、射的、そして花火……。青野、律子、佐伯、ハル(声:佐藤未奈子)、山田(声:古川慎)の5人は、つかの間の夏を楽しむ。


第15話で、りっちゃんがハルちゃんに行くことを相談していた花火大会が、ここで紹介されるわけですね。青春回、とは書いたけれど、そこに先々に繋がっていくエピソードも含まれているので、この回も見逃せず。個人的に大好きな山田くんのセリフも予告編に登場していたので、中学時代の山田くんと佐伯の出会いも描かれていくのでしょう。そして、りっちゃんとハルちゃんの浴衣姿も!

第19話「君として」の再放送は、Eテレ 9/7(木曜)午後7:20~7:45。
見逃し配信は、NHKプラスで9/10(日曜)午後5:25 まで。
https://plus.nhk.jp/watch/st/e1_2023090319882

追記
改めて考えてみると、「青のオーケストラ」も残り5回。えっ、あと5回しかないの? 花火大会があって、再オーディションがあって、それから定期演奏会があって……。定期演奏会とか、原作漫画では230ページ以上も描かれていますからね(今回の第19話が、原作だと46ページ分くらい)!  だ、大丈夫なんでしょうか……。いや、大丈夫でしょう。最終回まで、一気に駆け抜けてくれるはず!

文/銅本一谷

カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。

☆これまでの感想記事は、ここに(https://steranet.jp/list/category/stera_aniken )。