最新のエッセーは月刊誌『ラジオ深夜便』9月号で。
今年で96歳、6人のひ孫がいる義母は、腰を痛めたことで介護度が上がり、わが家からそう遠くない高齢者施設に引っ越したばかりです。
そんな大おばあちゃんに会うために次男夫婦が、ひ孫の一人、5歳の娘を連れてやって来ました。コロナ下に建てられた施設は感染症対策のため外階段から廊下のようなベランダを伝って部屋に入れるようになっています。ただし、人数は3人まで、面会時間は20分以内という制約は残っています。
「あら〜よく 来たわねー!」。大おばあちゃんのいつもより高い声に迎え入れられて、孫夫婦とひ孫は部屋の中へ。私たち夫婦(小さいジィジとバァバ)は窓の外で、まるで動物園でパンダ親子を見学するように写真をカシャカシャ。
孫夫婦が近況を尋ねると、頭がしっかりしている義母は暮らしぶりの一部始終を冗談も交えて話します。まあ、その饒舌さといったら、会えなかった空白を一気に埋めてしまおうとするかのよう。初めはモジモジしていたひ孫もすぐに慣れて、首から下げて持ってきたお気に入りの双眼鏡を覗きながら部屋をぐるりっと。窓の外に見える花々の名前を言ったりしてお茶目な姿を見せ始めます。
しかし、容赦なくタイムリミットが。最後に、外にいる私のスマホに向かって全員でポーズ!「大おばあちゃん元気でね〜!」「ありがとう! また来てね〜」と、凝縮された団らんを終えたのでした。
私が生まれた昭和28年当時の平均寿命は、男性が61.9歳、女性が65.7歳。曽祖父母とひ孫が会うなんて珍しかった。私が覚えているのも祖父母から……白髪交じりの髭の痛さ、血管の浮いた手のひんやり感、胡坐の中の安堵感。ぼんやりとしたあのぬくもりは忘れられません。知らず知らずに老いとは何かも教わった気がします。
孫娘もこの日を忘れずにいてくれるかな? 私たち夫婦にとっても久しぶりだった幼子のふっくらとした頰や手のぬくもりは愛おしく、忘れるはずのないひとときでした。
(くどう・さぶろう 第1・3火曜担当)
※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2023年7月号に掲載されたものです。
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