「紅白歌合戦」は類いまれなる放送文化の画像
「第72回NHK紅白歌合戦」のテーマは「Colorful~カラフル~」。司会は、俳優の大泉洋と川口春奈、和久田麻由子アナウンサーが務める。

毎年おお晦日みそかに放送される「紅白歌合戦」がNHKの看板番組の一つであることは、多くの人が同意するところだろう。

視聴率は一つの目安にすぎないけれども、年間最高の数字となることも多い国民的番組。たのしみにされている方も多いのではないか。

「歌は世につれ世は歌につれ」とも言う。すぐれた歌の魅力は変わらないものの、「紅白歌合戦」のあり方も、時代とともに変遷してきている。

1951年のお正月にラジオで放送されたのが記念すべき第1回。1953年の大晦日に第4回がテレビ放送されて以来、現在のかたちが定着した。

私が物心ついたころには、「紅白」はすっかり大晦日の風物詩になっていた。これまでの最高視聴率は1963年の81.4パーセントであり、私が10歳になった1972年の第23回の放送では、再び80.6パーセントと大台を記録している。この年の紅組司会は佐良直美さん、白組司会は宮田輝さん、総合司会は山川静夫さんだった。

「紅白歌合戦」のあり方は進化を続けているが、一つの「元型」が昭和の高度経済成長期にあったことは間違いないだろう。

当時、同日に民放で放送されていた「日本レコード大賞」の受賞者が、「紅白」の会場に移動するのが一つのだいだった。司会が、「ことしのレコード大賞を受賞された○○さんがかけつけてくださいました!」とアナウンスする臨場感がたまらなかった。

そのような時代の記憶は、今日の「紅白歌合戦」に受け継がれ、未来へとつながっていくことだろう。

放送文化という視点から「紅白歌合戦」を見ると、あれだけの出場歌手の歌唱をさまざまな演出でライブで進行していく、その総合力は驚異的である。

私は、一度、「紅白歌合戦」の審査員をつとめさせていただいたことがある。その際、番組の進行を目の当たりにした。

一つの「奇跡」としか言いようがない、見事な舞台だった。カメラワークで切れ目なくつなげていく一方で、カメラに映っていないところでもさまざまなスタッフが動き、装置をかえたり、小道具を整えたりしているのだ。

都市伝説かもしれないけれど、例年会場となってきたNHKホールに入るお客さんと同じ数、あるいはそれ以上のスタッフや関係者が舞台裏で働いているとも聞く。進行台本をつくったり、リハーサルをしたりする手間とエネルギーを想像すると、頭が下がる。

ことし(2021年)は改修工事中のNHKホールを離れて、49年ぶりに別会場である東京国際フォーラムから生中継されるとのこと。「奇跡の動態保存」とも言うべき「紅白歌合戦」の舞台がどのようなものになるか、今から楽しみだ。

出場歌手も発表され、それぞれのファンの方は心待ちにしていることだろう。私個人としては、紅組はYOASOBI、白組は布袋寅泰さんに注目したい。

自分がふだん聞いている、あるいは推している歌手以外にも、今の日本の音楽シーンをかんするステージが観られることが「紅白」の魅力。

年に一度、大晦日に、世代やジェンダー、ふだんの生活を超えて、日本そして世界の視聴者が最高のエンタメ経験を共有できる「紅白歌合戦」に、ことしも注目したい。

この類いまれなる放送文化が、末永く「動態保存」されるよう願わずにはいられない。

(NHKウイークリーステラ 2021年12月31日号より)

1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。