連続テレビ小説は、公共放送NHKとしての「看板」の一つであろう。1961年から放送が始まり、第103作の「おちょやん」では、大阪を舞台に少女が女優を目指して成長していく様子を描いた。

私としては、明治から昭和にかけて活躍した喜劇役者、曾我廼家十吾をほうふつとさせる須賀廼家千之助を演じた「ほっしゃん。」こと、星田英利さんの存在感が気になった。主役もいいけれども、脇にいるちょっと変わった雰囲気の人にひかれるのである。

いわゆる“朝ドラ”は、時計代わりに見る人も多いと言われる。つまりはそれだけ「視聴習慣」が根づいているのだ。NHKの「顔」であり続けているのはすごいことだと思う。長年にわたり、一作ごとにNHKの東京と大阪で交互に制作し続けてきていて、そのようなノウハウがいわば「動態保存」されているのは貴重である。

私自身、2014年度前期に放送された「花子とアン」の最後の3回に、出版社社長「門倉幸之介」役で出演させていただいた経験がある。中園ミホさんによる脚本を覚えて、柳川強さんの演出で一生懸命演じた。その際、“朝ドラ”の制作で受け継がれた文化を感じることができた。

放送当日、冷や汗をかきながら自分の演技を見終わると、続いて「あさイチ」が始まった。当時、司会の有働由美子アナウンサーに対して、NHK解説委員をされていた柳澤秀夫さんが、開口一番「茂木さんの演技、棒読みでしたね」と言われた。恥ずかしくて顔が真っ赤になった。一方、中園ミホさんは、「茂木さんの演技、良かったですよ。まるで笠智衆さんみたいでした」とやさしいメッセージをくださった。

柳澤解説委員と、中園ミホさんのお言葉のどちらを信じるべきか。もっとも、その後、ドラマ出演のオファーは一切ない。

NHKの大切な伝統である“朝ドラ”であるが、時代の流れとともにいかに視聴者に愛され続けるかが課題だろう。“朝ドラ”の主役になることの多い「女性」の生き方も、時代とともに変わってきている。仕事はもちろん、恋愛、家庭、子育てにがんばるヒロイン像は定番だが、非典型的な生き方をしている女性像も見てみたいと思う。例えば、数学者やプログラマー、政治家として活躍するヒロインはどうだろう。

ところで、息の長い視聴習慣を育むという意味でもNHKにチャレンジしていただきたいのは、何年も同じ地域や家族、仲間の人生を追うタイプのドラマシリーズである。英国のBBCが1985年から放送し続けている「イーストエンダーズ」、ITVが1960年から放送し続けている「コロネーション・ストリート」は、人生の波乱万丈や絆といった持続可能なテーマを追いながら、その時々の世相や社会問題も扱ってきた。

半期で作品が変わる“朝ドラ”もいいけれど、10年や20年続くドラマも見てみたい。作品ごとに視聴習慣を立ち上げるのも大変である。テレビ離れが言われる今、フジテレビの「北の国から」のような世代を超えて長年愛される息の長いNHKのドラマシリーズを見てみたいと思う。

(NHKウイークリーステラ 2021年5月21日号より)

1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。