「青のオーケストラ」 
毎週日曜 Eテレ 午後5:00~5:25
再放送 毎週木曜 Eテレ 午後7:20~7:45

※放送予定は変更になる場合があります。
【番組HP】https://www.nhk.jp/p/ts/3LMR2P87LQ/


ハルは言葉を飲み込みすぎ!! もっと……

そう口にしながらも「違う! この言い方は違う気がする!」と自己反省して、自分の正直な気持ちを打ち明け始める、りっちゃん。

私、ハルにずっと謝りたいことがあったの。

そしてハルちゃんも、自分が持っていた負の感情を全部さらけ出して。

逃げてごめんなさい!!
大嫌い……、こんな自分……

夜の公園で会話する2人の言葉を聞いていて、私は胸が痛くなりました。心の奥底に何か大きなものが突き刺さって、滂沱の涙があふれてくる。
その「何か」の正体が何なのか、自分でもよくわからなくて、私は今回の文章を書き始めるのに、かなり時間を要しました。ほら、「神回」とか「泣いた!」とかで終わってしまえば楽なんだけれど、心が揺さぶらる感動の源がどこにあったのかなぁ、と考え始めたら、これを言語化するのが難しくて。

というわけで、第8話「G線上のアリア」は、りっちゃんとハルちゃんの心情が、それぞれ丁寧に綴られて、その先に光が見えてくる展開でした。楽曲の名前がサブタイトルになったのは、初めてじゃない? まずは、物語の流れをおさらいしてみましょうか。


自分をいじめていた中学時代の同級生・篠崎(声:篠崎紗弓)を街で見かけた日から、過去のつらい体験を思い出して登校できなくなったハル(声:佐藤未奈子)は、部活も休み続けていた。ハルのことを心配する律子(声:加隈亜衣)は、練習中も気になってしまい、ミスを繰り返して、立花(声:Lynn)の叱責を受けてしまう。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

海幕高校オーケストラ部が毎年夏に開催する定期演奏会へのカウントダウンが始まる中、律子は「高校に行ってオケ部に入ったら、一緒にヴァイオリンを演奏しよう」という中学時代の約束を思い浮かべて、練習終了後にハルの家へ向かった。そして途中で出会ったハルと公園を訪れ、そこで自分の気持ちを語り始める。


原作発表時から「涙なくして読めない」と話題になっていた、りっちゃんとハルちゃんが互いの気持ちをぶつけ合う感動の場面が、今回のメインでしたね。
相手に感謝し、思い遣る気持ちが強すぎるゆえに、どこか遠慮して一歩を踏み出せないままでいた、りっちゃんとハルちゃん。もちろん、これまでも「親友」と言えるような間柄ではあったのだけれど、薄皮に覆われているかのような、でも確実に存在している、わだかまりのようなものがあって。それがなくなったとき、2人の結びつきはさらに強くなっていく。そして、誰かのために演奏することで、初めて自分のことを好きになれたハルちゃん……。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

私は、りっちゃんは真っすぐで強い子だと思っていたけれど、りっちゃんは「強い」んじゃなくて、ハルちゃんとヴァイオリンに支えられていたから「負けなかった」だけなんだね。それはなんとなく感じていたことなんだけれど、声優さんたちが圧倒的な説得力で演じてくれたからこそ、より深く突き刺さったのだと思う。加隈さん、佐藤さんに、心からありがとう。

ちなみに、今回のセリフの中で、私が感じた最高のパワーワードは……。
「りっちゃんは友達いっぱいいるじゃん!!」と感情を露わにしたハルちゃんに対して、「うん」と肯定しつつも、りっちゃんが言う、

でも、ハルは私にとって1人だけだよ。

ああ、これは……。(´;ω;`)ブワッ。

ここから2人の関係は新しいステージに進んでいくのでしょう。だからといって、これで全てが解決したわけじゃなくて。
特に、初心者であるりっちゃんの演奏レベルを含めて、定期演奏会に向けてクリアしなくてはならない課題は山のようにある。だから、がんばれ。あえて、がんばれ!! りっちゃんとハルちゃんに、心からのエールを送ります。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

改めて考えると。
かなり重たいと感じる部分も、しっかりと描かれていた25分でしたね。
りっちゃんがハルちゃんを助けていた、というだけではなくて、ハルちゃんが抱いた感謝の気持ちがりっちゃんの居場所を作ってくれていたという重層的な構造。さらに、助けること、逃げることが必ずしも救いになっていなかった、という厳しい現実……。だからこそ、第2話「秋音律子」と同様に、黒背景で文字だけのクレジットで「G線上のアリア」が流れるエンディングには、音楽が人の心に訴えかける無限の力を感じました。

♪バッハ「G線上のアリア」
演奏:小川恭子

ああ、2人の頬をつたう涙が美しいな……。
なお、「G線上のアリア」という曲名は通称で、J・S・バッハが作曲した「管弦楽組曲第3番ニ長調」(BWV1068)の第2曲「Air」(エール、アリア)を、ヴァイオリニストのアウグスト・ウィルヘルミがヴァイオリン独奏のために編曲したものを指します。ウィルヘルミが編曲に際してニ長調からハ長調への移調を行い、4本あるヴァイオリンの弦のうちのG線のみで演奏できることから、こう呼ばれるようになったとのこと。

ところで……。
立花さん、相変わらず言葉がキツくて、態度がブレないですね。うわの空で練習しているりっちゃんに向けた怒りは、ある意味、正しい。それでも、いろんな人がいて、いろんな思いがあって、それが重なって一つの音を奏でていくのが、オーケストラなんだよね。
と思っていたところで、次回、6月4日に放送される第9話「先輩」では、定期演奏会に向けて、新たな物語が動き始める予感。


夏の定期演奏会まで2か月を切った。そのメイン曲となる、ドヴォルザーク交響曲第9番「新世界より」の演奏メンバーは、部内のオーディションで選ばれ、学年とは関係なく実力で席順が決まる。コンサートマスターの原田(声:榎木淳弥)をはじめ、各パートのパートリーダーたちが参加する幹部会で、その詳細が話し合われていた。その間の練習は、次期パートリーダー候補の2年生たちが仕切ることになるが、青野(声:千葉翔也)たち1年生の前に、見慣れぬ先輩が現れる。それは、たまにしか部活に顔を見せない2年生の羽鳥(声:浅沼晋太郎)だった。ヴァイオリンを手にした羽鳥は、いきなりコンマス席に座って……。


©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

定期演奏会に向けての本格始動ということで、これまで画面には登場していてもセリフのなかった個性豊かなオーケストラ部員たちが一気に喋り始めることになりそうですね。ああ、ようやく羽鳥役の浅沼さんの声が聞けるよ……。すでに第8話の最後の次回予告で、たくさん喋っていたけど(笑)。まだ発表されていないキャストが誰になるのか、それも楽しみです。

第8話「G線上のアリア」の再放送は、Eテレ 6/1(木曜)午後7:20~7:45。
見逃し配信は、NHKプラスで6/4(日曜)午後5:25 まで。
https://plus.nhk.jp/watch/st/e1_2023052829292

追記
ハルちゃんの演奏を担当しているのは、ヴァイオリストの小川恭子さん。第84回日本音楽コンクール第1位、桐朋学園大学を首席で卒業して同大学の大学院へ、という経歴は、青野くんの演奏を担当する東亮汰さんと、まったく同じですね。(小川さんのほうが少し先輩)で、青野くんのヴァイオリン演奏シーンは、東さんが演奏する動きを撮影してアニメに描き起こされた(だから、東さんの演奏するときのポーズや癖が、そのまま青野くんの動きに反映されている)ものだから、今回のハルちゃんが演奏する姿は、たぶん小川さんの演奏する動きが再現されているのではないかと思います。そんなところも、チェックしていただければ。

カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。

☆これまでの感想記事は、ここに(https://steranet.jp/list/category/stera_aniken )。