まもなく『おとなりに銀河』がラストを迎える。
少女漫画家・久我一郎(佐野勇斗)が、流れ星の民の姫・五色しおり(八木莉可子)の棘に触れたことから始まるSFラブコメディだ。
昨春から始まった「夜ドラ」の中では、残念ながら個人視聴率はあまり良くない。
それでも特定の視聴者に、“しおりの棘”はしっかり刺さっている。ファンタジーを実写化した当ドラマは、ピュアな人々の心に届いているようだ。
75歳以上には???
まず年齢別の視聴率を見てみよう。
週平均を第7週まで追うと、大きく変化したのは高齢者の数字だ。
中でも75歳以上は、第1週の4回は2%近くが続いたが、翌週から半分ほどが脱落してしまった。
しおりの“棘に触れる=婚姻関係”といった、とっつきにくい壮大なラブ・ファンタジーは、やはり高齢者には馴染みにくいドラマだったようだ。
それでも個人全体は、2週以降で数字を大きく下げたわけではない。
若年層では安定して見続けられ、特に特定層では右肩上りとなり、全体の数字は堅調に推移した。
若年層で健闘!
男性を年齢別で見てみよう。
65歳以上は1~3週で数字を下げたものの、第4週で大きく上昇し、その後また下降している。
途中から見始めた人も少なくないが、やはり脱落者が大量に出ていた。
一方50歳未満の数字は安定している。
見始めた人の心をしっかり掴み続けた可能性がる。中でもMT(男性13~19歳)は、4話以降で右肩上りとなった。序盤と比べ後半は倍増している。恋愛初心者の物語は、やはり10代の男の子のピュアな心に刺さったようだ。
では女性はどうだろうか。
F3(女性65歳以上)は3話で大きく下がった。
どうやら男女とも高齢者では、初恋のラブ・ファンタジーに共感できないという方が少なくなかったようだ。
女子高生も同様に右肩下がりとなった。
ドラマはセリフも少なく、ゆったりとしたテンポで展開したが、女子高生にはじれったいと映ったのだろうか。「夜ドラ」は若者をターゲットとしているが、女子高生にヒットしなかったのは誤算だったと言えよう。
それでもMT同様、右肩上がりとなった層がいた。
F1(女性20~34歳)と、20~30代のOLだ。第1週こそ惨憺たる数字だが、2週以降じりじり数字を上げている。番宣が失敗しているか、第1週の展開が彼女たちには魅力的ではなかったのかも知れない。
次に向け、制作陣が反省すべき点だろう。
注目すべき特定層の数字
男女年層別だけでなく、特定層の数字を見ていくと面白い結果が出た。
女性の結婚感別の視聴率だ。
前半はいずれの層も同じような推移を見せた。
ところが20~30代で結婚願望のある女性は、5話で急伸し、その後も高止まりとなった。未婚女性や結婚願望のある全世代女性ではあまり変化がなかったことと比べ顕著な差と言えよう。
10代男性、20~30代女性、そして結婚願望のある同層。
こうした層にヒットした理由は、SNS上の声でも裏付けられる。
「一郎くんも五色さんも綺麗な涙だったなぁ」
「気持ちを確かめ合うピュアなシーンの美しさに泣いた」
「かわいらしくて、やさしいファンタジー。 夜はこの優しさが良いのですよ」
「発する言葉は限りなくシンプルなのに、役者さんの高い演技力と絶妙な演出で、どんどん引き込まれていく」
ドラマは確かにセリフが少ない。
代わりに主人公たちの顔のアップをたっぷり見せている。結果として、目が多くを語るドラマになった。
しおりの瞳はコロコロと動く。何色にも煌めく眼差しと感情があふれ出るような表情に、視聴者は初恋の甘酸っぱい感情に浸るのだろう。
これらに同機できる気持ちを持ちあわせた視聴者に刺さっていたのである。
「夜ドラ」の今後にむけて
最後に行動パターン別視聴率を見ておきたい。
YouTubeをほぼ毎日見る人々、SNSを1日2時間以上やる人、何事にもベストを尽くす前向きな女性コア層(13~49歳)だ。
「YouTubeほぼ毎日」層は、緩やかな右肩上りとなった。
少ないシーンでゆったりとした見せ方は、ショート動画を好みそうな同層にもマッチしたようだ。
次がSNSヘビーユーザー。
問題なのは第1週。なんと視聴率ゼロパーセントだ。「YouTubeほぼ毎日」層も、もっと言えば20~30代女性も、第1週が極端に低かった。放送前および第1週の番宣のあり方は、大いに見直すべきだろう。
そしてSNSヘビーユーザーの第5週。
前の週から一挙に4倍に跳ね上がった。婚姻関係の契りを解除するが、2人の気持ちはどうなるのかという、恋愛ドラマとしては一つの山場だった。
やはりSNSヘビーユーザーは、こうした展開に反応する。逆に言えば、第1週ゼロパーセントは、拡散力を持つ視聴者にリーチしなかったということだ。
NHKのドラマは初回がつまらないと言われがちだ。
序盤にキャッチーな展開・演出があれば、同ドラマはもっと見られた可能性がある。この辺りを演出陣は反省し、今後に活かした方がよさそうだ。
最後にベストを尽くす女性コア層。
やはり中盤から後半に、数字を大きく上げている。初恋に真剣に向き合い、自分と異なる個性と考えの人に触れることで自分の存在を確認する。そんな真面目な生き方に、同層は間違いなく魅せられている。
まち(小山紗愛)、ふみお(石塚陸翔)を交えた家族の物語もそうだが、相手を思いやる大切さを描いた同ドラマは、視聴者数は今一つだったが、視聴者層の質は濃かったと言えそうだ。
ピュアな人々が反応した同ドラマ。
役者の演技も演出も見るべき点が多かっただけに、序盤の構成や演出はもう一工夫欲しかった。
こうした質を維持しつつ、序盤をキャッチーにすれば、「夜ドラ」が目指す若年層開拓は着実に進んでいくと思われる。
今後の奮闘に期待したい。
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。「次世代メディア研究所」主宰。著作には「放送十五講」(2011年/共著)、「メディアの将来を探る」(2014年/共著)。