皆さん、こんにちは。NHK放送博物館・館長の川村です。
新緑の5月。ことしの大型連休は久々に旅行を楽しんだり、遠出したりと有意義に過ごされた方も多いのでは? 東京・港区愛宕山の放送博物館にもたくさんの方にお越しいただきました。
今後も懐かしい放送機器の展示をはじめ、番組の企画展等を予定していますので、ぜひ、ご来館ください。スタッフ一同、心よりお待ちしております。
詳しくは、リニューアルしたこちらの公式HPで!
さて、今回の「放送百年秘話」は、放送博物館に「お宝」として展示されている 放送黎明期のラジオ受信機の話です。最近のオーディオ機器とは一味も二味も違う、レトロなラジオ受信機の魅力をたっぷりとご紹介しましょう!
日本でラジオ放送が始まった1925年(大正14年)当初、受信機は大変高価なものでした。その時代に比較的安価な受信機として普及したのは、ゲルマニウムなどの鉱石を電波の受信に利用した「鉱石ラジオ」でした。
そのひとつがこちらの「JOAKさぐり式鉱石ラジオ」です↓。
ラジオの前面には「JOAK」の銘板が張られていて、日本のラジオ放送の歴史がここから始まったことを感じさせます。
「鉱石ラジオ」は電源を必要とせず、ダイヤルを回して周波数を合わせて上の写真の左にあるようなレシーバーで聞くという簡単な受信機です。機能優先ながら、機械らしい美しいデザインですね。比較的安価といっても、当時学校の教員の初任給が30円の時代に、このラジオは25円! まだ庶民にとっては高根の花でした。
一方、こちらは当時の最高級品のひとつだった真空管式ラジオ、「ラジオラAR-812型 スーパーヘテロダイン受信機」(1925年アメリカ)です↓。
こちらは鉱石ラジオとは違い、蓄電池を電源に音を増幅させてスピーカーから放送を聞けるようになっています。鉱石ラジオは一人でしか聞くことができませんでしたが、スピーカーを使うことで大勢で同時に聴くことができるようになりました。こちらは受信感度が格段に優れており、当時の東京で家が2軒買えるといわれたほどの超高級品。全体のデザインも電気製品というよりも高級家具のようなたたずまいです。
では、同じ時代に作られたラジオをもう一台↓。
こちらはガラスケースに入っているラジオです。展示のためにガラスケースに入れたわけではありません! 今から約100年前に発売された時からこの状態なのです。「クリヤーフィールドDN型」(1925年アメリカ)というこのラジオ、規則正しく配置されたダイヤルや透明ケースから見える真空管、円筒形のコイルケースなど装飾の粋を極めたデザインは今でも十分通用する美しさです。
続いては、歴史上のある偉人が実際に使っていたラジオをご紹介しましょう!
これは第29代内閣総理大臣・犬養毅が実際に使用していたラジオです↓
当館では通称「犬養ラジオ」と呼んでいるこのラジオ(「3球 エリミネーター受信機」1931年)はキットをくみ上げた手作り品です。この時代、キットを購入して自分でラジオを手作りするのは珍しいことではありませんでした。
全体的に必要な機能に徹したシンプルな作りですが、チューニングダイヤルの装飾は大変凝ったデザインで美術品のようです。
さて、そんな手作りラジオの中にはとてもユニークなものもあるんですよ↓。
これもキットを組み立てたもの(「交流式4球ラジオ」1936年)ですが、こちらはスピーカーのカバーに麻雀牌やトロフィー、野球ボールなど(なぜかテーマがバラバラ?)ユニークな絵柄が印刷されています。当時の人の遊び心が感じられると同時に、ラジオがインテリアの一つだったことがわかります。またこの頃はラジオの上部が曲線を描くデザインが流行の最先端でした。
最後にもうひとつ、こだわりのラジオを紹介しましょう。
もうこうなるとラジオだか何だかよくわかりませんが、立派なラジオです(「交流式5球ラジオ」1935年)↓。
教会を模したキャビネットに必要な機能が収められています。やはりキットを組み立てた手作りのラジオですが、凝りに凝ったキャビネットのデザインから作者のこだわりが伝わってきますね。
さて、世紀を超えたラジオの魅力、伝わりましたでしょうか?
物足りない? そんな方は、ぜひNHK放送博物館にいらしてください。当館には約500点のラジオ受信機が収蔵されています。その多くは一般の方から寄贈いただいた貴重な資料。放送の歴史を今に伝える産業遺産であると同時に、寄贈していただいた方々のさまざまな思いを未来に継いでいく財産でもあります。
放送博物館ではこうした貴重な財産を放送の100年の歴史を伝える証人として大切に保存・収蔵し、その一部を展示して皆さまをお待ちしております。
コラム「放送百年秘話」は、月刊誌『ラジオ深夜便』にも連載します。
第2回は、6月号(5月18日 定価420円)に掲載。こちらもどうぞお楽しみに!
▼6月号の掲載予定はこちらから
https://radio.nhk-sc.or.jp/j_next.html
(NHK放送博物館)
https://www.nhk.or.jp/museum/index.html
(アクセス)
https://www.nhk.or.jp/museum/sp/access/index.html