新年度編成がスタートして2週間が経過した。
NHKは新体制として、『ニュース7』を和久田麻由子アナ、『クローズアップ現代』を桑子真帆アナ、『ニュースウオッチ9』を林田理沙アナ体制とした。

これを週刊誌のネット記事が大きく取り上げた。
“女子アナ黄金リレー”で“本気のNHK”は、“平日夜のチャンネルをNHKに固定する狙い”があるというのである。

では本当に報道3番組は、視聴率が向上したのか。
データから見えるニュース・報道番組の現実に迫る。


個人視聴率の推移

まず3番組の個人視聴率を、新編成前後で確認してみよう。
ネット記事によると、出産で育休に入っていた和久田アナは「わずか1年での職場復帰」を果たした。「とにかくNHKは和久田アナをニュース7に引っ張り出すことを最優先に考えた」そうだが、そんな事情とは関係なく『ニュース7』の個人視聴率は全く上がっていない。

新編成直前1か月の個人視聴率平均は4.4%。
直後の2週間平均(月~木限定)は4.27%なので、むしろ数字は下がっている(以上はスイッチメディア関東地区データによる/なお直前1か月についてはWBC中継と重なった3日間を除外)。

では『クロ現』はどうだろう。
記事によれば「彼女(和久田アナ)と並ぶ不動のエース」とされる桑子アナが、それまでと同じく担当している。
直前1か月平均が2.5%、直後2週間が2.8%なので、こちらは1割ほど上昇した。ただし、これが“女子アナ黄金リレー”の効果と断定するのは難しい。
そもそも直前の『ニュース7』が下がっているので、要因は『クロ現』の側にあると考えるのが普通だろう

最後に『ニュースウオッチ9』。
直前1か月平均は3.41%だったが、直後2週間は3.52%と微増した。ただし同番組は、田中正良記者・青井実アナ・山内泉アナの3人がメインキャスターを務めていたが、新編成では山内アナから林田アナに交代している。
キャスターの3分の1が代わったことが微増の要因と考えるのは、少し無理がある。
ましてや“女子アナ黄金リレー”効果という割に、『クロ現』から『ウオッチ9』までは1時間空いている。もともと3番組をすべて見る人は多くないので、牽強付会な考え方と言わざるを得ない。


男女年層別個人視聴率での変化

別のデータで検討してみよう。
男女年層別個人視聴率の直前1か月平均を1として、直後2週間を指数化してみた。ここから見える変化は、『ニュース7』と『クロ現』で顕著だ。

『ニュース7』では、若年層の落ち込みが浮かび上がる。
T層(男女13~19歳)が34%減、F1(女性20~34歳)が4割の減少、Z世代(男女25歳以下)や小中高大生で2割前後の落ち込みだ。
一方で視聴者の大多数を占める50歳以上はと言えば、3層(男女50~64歳)が1~2%減、4層(男女65歳以上)も3%減だがほぼ横ばいだ。
これが個人全体の微減につながったのである。

『クロ現』の変化は激しい。
まず目につくのはT層とM1(男性20~34歳)が5割ほど数字を上げた点。春の到来と共に、若い男性がにわかに桑子アナに萌え始めたのだろうか。
それは少し考えにくいので、同番組がワンテーマ深掘り型を前提にすると、新編成で扱ったテーマに要因があると考えられる。

実はもう1点。
『クロ現』は新編成の2週間で、F1~3(女性20~64歳)でも2割前後上昇していた。やはりその世代にヒットするテーマがあったと考えられる。


特定層別個人視聴率での変化

特定層の変化をみると、番組テーマとの関係が見えやすくなる。

ニュース報道番組は、基本的に政治・経済・社会に関心の高い人たちが多く見る。ところがこれらの典型的な層は、新編成前後で大きく変化していない。

変化が顕著なのは一部特定層だった。
一番激しいのは、男コア層の「芸能人タレントに興味あり」層。何と新編成前後で3倍近く数字が上昇していた。女コア層の同層も1.6倍。もともと数字が低いことが変化率の大きさにつながっているのだが、ネットメディアで話題のテーマを扱った回に同層が反応した可能性が高い。

『クロ現』には他にもポイントがあった。
ほぼ毎日YouTubeを見る層が数字を大きく上げていた点だ。どうやら「芸能人タレントに興味あり」層と同じ事情がありそうだ。


『クロ現』特定層の個人視聴率

では『クロ現』の変化を詳しく見てみよう。

グラフでまず目に付くのは、F3(女性50~64歳)の個人視聴率と個人全体の数字との連動性が高い点。そして同層の数字は、改編前は乱高下していたが、新編成後は高いところで比較的安定している点だ。

番組テーマとの関係も興味深い。
改編前で傑出していたのは、「急増する心不全」を扱った回。自分事として興味を持った年配の女性が多かったようだ。
一方で改編後で高かったのは、亡くなった「坂本龍一」の回、「ChatGPT」の回、そして「投資と倹約で暮らすFIRE生活」の回だった。
改編前は時事問題を扱った回が多かったが、同層の数字はいまいち。ところが改編後は、メディアで話題のテーマを深掘りした回に注目が集まり、平均値を押し上げていた。

「ほぼ毎日YouTube視聴」層や「芸能人に興味ありの男コア」層でも傾向は似ていた。
時事問題の回が多い改編前の数字はぱっとしないが。ネットでも盛り上がった「坂本龍一」「ChatGPT」などの回は高くなった。
つまり『クロ現』は、扱った回により数字が大きく変動する層がいて、彼ら彼女らによって個人全体が動いていたのである。


ニュース報道番組はキャスターだけでは決まらない

以上から言えることはシンプルだ。
ワンテーマの『クロ現』は、何を扱うかで視聴率が変動する。改編後に数字が上がっているのは、“女子アナ黄金リレー”効果ではなく、多くの視聴者に関心のあるテーマが並んだからだった。

一方『ニュース7』『ウオッチ9』は番組の性格が異なる。
その日の多様な出来事をとりあげるので、ニュース次第で見られ方が変わり、大事件・大事故の際には視聴率が大きく上昇する。

では人気キャスターで視聴率は上がるのか。
残念ながら、ネット記事いうところの「不動のエース」和久田アナとなった『ニュース7』は微減だった。

実はこれにはカラクリがある。
個人視聴率は下がったが、同番組の占有率は逆に上がっていた。つまり3月より4月は、7時に自宅でテレビを見ている人が減っていた。コロナもおさまり新年度がスタートしたことで、出社率が高まり夜出かける人も増えた。これが個人視聴率微減の原因のようだ。

逆に『ウオッチ9』は、個人視聴率が上がった。
性年齢別の個人視聴率では、F1やM1~3のように『ニュース7』で数字が下がった分を『ウオッチ9』で挽回しているケースが目立つ。
生活時間の変化が視聴率変化のより大きな要因だった可能性がある。

以上“女子アナ黄金リレー”効果は、データからは実証できない。
ニュース報道番組は、まずは何を扱っているか、そして視聴者の知りたいことを的確に伝えられているかが肝要だ。
ニュースに独自の視点でコメントをつける本物のニュースキャスターがいるのなら話は別だが、進行役で独自にコメントしないキャスターが誰かでは、視聴率は簡単には動かない。

エビデンスなしにイメージだけで論評するは、言論者として厳に慎まなければならない。

愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。「次世代メディア研究所」主宰。著作には「放送十五講」(2011年/共著)、「メディアの将来を探る」(2014年/共著)。