取れたての野菜を束ねた野菜のブーケ(ベジブーケ)のデザイナーとして活動するやまさんは千葉県いん西ざい市で年間250品種を栽培する野菜の生産者でもあります。小山さんに野菜のブーケを作り始めたきっかけや、ふるさとの畑で育てる野菜の魅力についてお話をうかがいました。
聞き手/関根香里

すべてが宝物に見えるふるさとの暮らしの中で

――野菜のブーケはどのようなきっかけで生まれたアイデアだったのですか?

小山 以前は東京でお花屋さんをしていましたが、子どもができたのがきっかけで地元に戻り、夫が農業をすることになりました。こちらは緑が豊かですから、お散歩すれば小枝が拾えるし、部屋に花を飾りたいなというときは庭先から摘んでくればいい。東京は何でもありそうですが、お金がないと買えません。

でも自然がたくさんある場所なら自分で育てたり、工夫したり、手と時間と知恵を使えばいろんなものに変化する素材がたくさんあります。もうすべてが宝物に見えましたね。例えば朝露にぬれてきらきらした野菜。なんてきれいなものが畑にあるんだろう。これを多くの人に見てもらいたい。そのために私ができることは何だろうと考えたときに、お花のように野菜も束ねてブーケにしたらどうだろうと気付いたのが始まりです。

ベジブーケを作る際には、発注者の方の意向を大切にするそう。このウエディングアレンジメントに込めた思いは"実りある人生の始まりに。

――具体的にはどのようにしてブーケを作るんですか。

小山 まず朝、野菜を収穫します。そしてお客様のご要望に合わせて、たくさんの野菜の中から特にきれいで色鮮やかなものを選んで、花と同じように水揚げをします。そして食用の竹串やお野菜専用のテープなどで束にします。季節を感じていただけるように、旬の野菜で作りますね。今はハーブがとてもきれいなので、香りがふわっと湧き立つブーケができますよ。

パブリカやたかのつめ、月桂樹(げっけいじゅ)などをあしらった生命力あふれるブーケ。シナモンバジルを使うなど、香りにもこだわっている。

野菜作り、ブーケ作りはみんなの力の集大成

――ブーケの素材になるお野菜も作っていらっしゃいます。

小山 野菜を作るのはとても手間がかかります。培養土も手作りしているので、まずそれに5年。そして種をまいても芽が出るまで何日もかかって、実際に収穫できるのは何か月も先ですが、取れたて野菜は本当に美しいです。また仲間と一緒に野菜のブーケを広める活動も行っています。一人の力は微々たるものですが、小さい力でも何人分も集まると大きな力なり、いいものを作るという目標もかなえられる。仲間一人一人が個性豊かな野菜のようで、私がブーケでいえば下のキュッと束ねている部分であったらいいな、という気持ちです。

お祝いのスタンド花や、会場や店舗の装飾なども手がける。

――今後の目標は?

小山 これからもチームワークを大切にみんな仲良く楽しく働くことですね。その結果いい野菜ができてきれいなブーケができて、それに共感する方がどんどん増えていろんな輪が広がって、笑顔が増えればいいなと思っています。

ブーケの素材になるのは、小山さんや仲間が有てた手作り野菜。自然が生む美しさを生かしている。
農業の師でもある、お父様(下の写真右)とともに畑の成長を見守り、お母様(写真手前)や仲間と―緒に野菜の出荷作業を行う。

撮影/徳永徹 構成/後藤直子


小山 美千代 (こやま・みちよ)

1969(昭和44)年、千葉県生まれ。幼少よりフラワーアレンジメント、華道を学ぶ。東京・日本橋でのフラワーショップ経営を経て、出産を機に夫とともに実家である「伊藤苗木」で就農。2006(平成18)年よりべジブーケの制作を始める。2013年「美干代デザイン株式会社」を設立。

※この記事は、2021年11月23日放送「ふるさとの魅力 野菜のブーケに込めて」を再構成したものです。
(月刊誌『ラジオ深夜便』2022年3月号より)

購入・定期購読はこちら
12月号のおすすめ記事👇
▼前しか向かない、だから元気! 池畑慎之介
▼闘う現代美術家 村上隆の世界
▼毎日が終活 菊田あや子
▼深い呼吸で心を穏やかに 本間生夫 ほか