2021年度前期連続テレビ小説「おかえりモネ」は、今までの作品とはどこか質感が違うような気がする。画面から伝わってくる空気感のようなものが、「ドキュメンタリー」タッチに感じられるのだ。

舞台となっている宮城県せんぬま市、市に本当にそういう人たちがいて、描かれているような生活をしている印象がある。もちろん、ヒロインの永浦ももを演じる清原さんの美しさや、百音の同級生で漁師になった及川亮を演じる永瀬廉さんのかっこよさ、森林組合の山主の新田サヤカを演じる夏木マリさんの存在感などは現実的ではないけれど、しかし実在の人々のすぐそばにいる気がする。

実際、これまで私自身が東北で出会った数々の個性的な人たちの心のあり方、ふるまい、笑顔を思い返すと、「おかえりモネ」の画面の中にはその方々の面影が鮮やかに動いているように感じる。

気仙沼や登米のロケ地の風光、エキストラの方々の表情、画面全体から伝わってくるさまざまが、フィクションとしてのドラマであると同時に、近過去から現在、近未来を凝縮した同時進行の現実であるような、不思議な感触を見る者に与える。

このようなドラマの作り方はタイムリーだと思う。今や、誰もがスマートフォンで周囲の人や自分を撮影できる時代。各種のソーシャルメディアを通して、動画を共有したり鑑賞したりできるようになった。

脳が映像を受け止めるときの前提になる「文脈」が変わってきている。かつて、ブラウン管の向こうで演じる人たちは特別な存在で、ともすれば日常からかけ離れていた。今では、役者たちは依然として特別な存在ではあるものの、自分たちの日常とひとつながりの世界にいる。

こんな時代に、まるで同時進行のドキュメンタリーのような風合いで個性あふれる魅力的な人々の群像を描く「おかえりモネ」は、結果として東北の生活の息吹をいきいきと伝えることに成功している。

発生から10年を超える歳月がたった東日本大震災。決して忘れてはいけない「あの日」が、百音の記憶とその回想を通してよみがえる。

人間は、忘れられることがいちばんつらい。人々の命を守るためにも大切な「気象予報士」の勉強を続ける百音。これから、その活躍の舞台は東京にも広がり、遠くにありて思う「いのち」の消息が穏やかな日常の風景となって、人々の心の中に入り込んでいくことだろう。

(NHKウイークリーステラ 2021年7月16日号より)

1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。