瀬名(有村架純)たちの奪還成功を描いた『どうする家康』第6話。
初回放送から1か月半、視聴者の注目度が最も高い回となった。

鍵を握ったのは3人の女優。
前半の上之郷城攻防戦で目を引いたのは女大鼠(松本まりか)。
そして後半の人質交換成立までで傑出したのは、巴(真矢ミキ)と瀬名(有村架純)だった。

視聴者はどのシーンに最も魅了されたのか。
視聴データに判定してもらいましょう。


まれに見る名シーンの連続

番組途中で番組から脱落した人の割合を示すデータが流出率。値が低いほど、より多くの視聴者が物語に夢中になっていることを示す。

インテージ社が関東約130万台のネット接続テレビで調べる同データによると、タイトル明けから最後までの平均値では、今回が圧倒的に低い値となっていた。
1~5話平均の2割ほど好成績となったのである。

前半途中からの上之郷城攻防戦から、早くも過去最高だった。
そして後半の人質交換が成立するまでの16分強にわたり、平均流出率が0.3%を下回ったのは近年の大河ドラマでも例がない名シーンの最長不倒記録だ。

かくも長時間にわたり視聴者を魅了できたのはなぜか。
実は普通のドラマで主役を務めるような実力派俳優が、短時間ながら圧倒的な存在感を示すシーンが頻出したからに他ならない。
その意味で『どうする家康』は、とてもぜいたくな作り方をしていると言えそうだ。


一段ロケットは松本まりか

前半で破壊力抜群だったのは、女大鼠を演じた松本まりか。

上之郷城攻防戦を成功に導いた立役者だ。
見張りの兵に色仕掛けをしたところで、流出率は早くも0.2%を切った。5話まででもこの水準に達したのは数えるほどしかない。
彼女のおみ足に惑わされたのは、見張り兵だけでなく、テレビを見ていた多くのお父さんたちだったようだ。

手に汗握る忍たちの潜入も、多くの視聴者を釘付けにした。
中でも人質になるのを避けるために鵜殿長照(野間口徹)が自害するシーン、彼の息子二人が飛び降りるが、足に鎖をひっかけて生け捕りに成功するシーンは、いずれも好成績となった。

いずれのシーンでも、松本まりかが絡んでいる。
しかもおまけで、作戦成功で服部軍団を見直そうとして、やはり下品さに嫌気がさした服部半蔵(山田孝之)のお尻をひっぱたくシーンは、本筋から外れてはいるものの秀逸だった。


大向こうの真矢ミキと表情勝負の有村架純

後半は一転して心の彩で勝負するシーンの連続だった。

まずは今川氏真(溝端淳平)と対峙した関口親子。
怒りに任せて親子を手打ちにしようとする氏真。その非道な命令に岡部元信(田中美央)は思わず躊躇する。その瞬間の流出率は0.201%。次がどうなるのか、視聴者は思わず固唾を飲んで見守った。

その岡部を氏真がどなりつけた瞬間。
巴が意を決して止めに入り、全ての責めを自分たちが受け入れると申し出た。大向こうをうならせる宝塚仕込みの名演技だ。

関口氏純(渡部篤郎)も覚悟を決めて、巴と共に氏真を説得しようとする。
視聴者は、自分ならその瞬間にどう振舞えるのか、思わず自省してしまう。荒れ狂う氏真と達観した関口夫妻の“人間の器の違い”が際立つ場面と言えよう。

ここで忘れてはならないのが瀬名(有村架純)の存在だ。
我が子と父母の危機に直面し、彼女の演技が絶妙だったからだ。

皆さんはお気づきだっただろうか。
感情があふれ出す一連のシーンでは登場人物の表情が重要だったが、瀬名の表情を映した瞬間だけ画面いっぱいの大写しが何度もあった。
無言ながら表情だけで得も言われぬ思いを表現した彼女が、セリフのある役者たちの演技をどれだけ引き立てただろうか。
この7分あまりが緊迫感を保ち続けたのは、要所要所で彼女の表情がどんなセリフより雄弁あったからではないだろうか。
絶妙な演出と言わざるを得ない。

この直後、視聴者の緊張感はピークを迎える。
鉄砲隊が登場し、川を挟んで両軍が対峙した。ところが石川数正(松重豊)を縛った縄は斬られた。この1分間、なんと平均流出率は0.2%を切った。
これまでの『どうする家康』で、視聴者の心が最も高まったシーンだった。

その緊迫感が瀬名と元康の笑顔で解放される。
ところが直後、その笑顔こそ父母の最後の言葉にあったものだったことがプレイバックで視聴者に示される。
心の彩を緻密に計算して見せ続けた第6話。神回と言っても良いくらいの緊迫感だった。

真矢ミキ・有村架純・松本まりかの誰がMVPだったのか。
その判断は視聴者に委ねたい。ただ1点言えることは、どの俳優も魅力的に見えるよう計算し尽された演出は、見事としか言いようがない。

この表現力がどこまで進化するのか。
次に期待したい。

愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。「次世代メディア研究所」主宰。著作には「放送十五講」(2011年/共著)、「メディアの将来を探る」(2014年/共著)。