ふとテレビをつけると、「ドキュメント72時間」が再放送されていました。同番組は、取材対象として決めた場所に3日間密着するドキュメンタリーです。
同じ場所を利用する人の、さまざまな人間模様がかいま見えるのが魅力です。一つのテーマをじっくり掘るのではなく、それぞれの人生に、ほんの少しずつ耳を傾けるのです。
この日のタイトルは、「海外送金所から愛をこめて」。東京都新宿区の大久保にある海外送金所に関わる人々にカメラを向けていました。大久保は、日本最大級の多国籍地区。新宿区の資料では、大久保に暮らす住人の2~3割が外国人となっています。
ラーメン店のアルバイトで生活費を稼ぎ、故郷の母に仕送りをするネパールからの留学生。女性は自由に使えるお金が少ないから、私が送ったお金を使ってもらうのだと語っていました。8年前(収録時)にコンゴから来日したシングルファーザーは、息子に送金をしていました。日本での生活が落ち着いたため、息子を日本に呼び寄せるとのことでした。
他にも、家賃に困っている友人に送金するブルキナファソの男性。技能実習生として「もやし工場」で働いていたインドネシアの男性。母の介護費用を仕送りするインドネシアの女性。アメリカで暮らす妻子に送金するジンバブエの男性。30分にも満たない短い番組で、10人以上の外国人利用者の声が紹介されていました。送る人、その金額、そして送金相手から、十人十色の生活が透けて見えます。
取材対象の多くが、アジア系の方々でした(次いで、日本人とアフリカ系)。送金所で働くスタッフも、アジア系が増えていると紹介されていました。スタッフの一人は、日本の男性アイドルが好きで、日本語を学んで日本に働きに来たそうです。
メディアには、いろいろな力があります。テレビに長時間接すると、テレビの伝える(ときに偏った)現実認識が育ちます。これを「培養効果」と言います。
例えば、日本で暮らす、あるいは日本を訪れる外国人の多くはアジア系ですが、日本のテレビ広告に登場する外国人の6~8割が白人となっています。ハリウッド映画では、実際のアジア系住人の人口と比べて、アジア系俳優の露出が少ないというデータもあります。こうしたメディアに接触し続けると、「外国人といえば白人」といったように、実際の社会とは違う人口比イメージを持つこともあるでしょう。
メディアには、「間接接触」をサポートする役割もあります。これは、例えば外国人と直接的には知り合っていなくても、テレビや新聞などのメディアで外国人についてのエピソードに接することで、その集団に対するイメージを作り上げる手助けをするということです。そして「間接接触」は、その報道のしかたによって、人々の偏見をぬぐい去ったり、親しみを感じさせたりする力もあります。
今回の再放送では、ミャンマーに送金する男性の姿も映されていました。現在、軍事クーデターによって混乱が続く国で、生活をする人がいる。理不尽な体制に、個人にできることは限られる――。歯がゆい思いとも「間接接触」させられる場面でした。
(NHKウイークリーステラ 2021年7月2日号より)
1981年、兵庫県生まれ。評論家、ラジオパーソナリティー。NPO法人・ストップいじめ!ナビ代表、社会調査支援機構チキラボ代表。TBSラジオ〈荻上チキ・Session-22〉(現・〈荻上チキ・Session〉)が、2015年度、2016年度ギャラクシー賞(DJパーソナリティ賞、ラジオ部門大賞)を受賞。近著に、『みらいめがね』(暮しの手帖社)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『すべての新聞は「偏って」いる』(扶桑社)など。