月刊誌『ラジオ深夜便』にて、2022年4月号より連載している「渡辺俊雄の映画が教えてくれたこと」をステラnetにて特別掲載。「ラジオ深夜便」の創設に携わり、現在「ラジオ深夜便」の「真夜中の映画ばなし」に出演中の渡辺俊雄が、こよなく愛するラジオと映画を熱く語る。

小学2年生のとき、世田谷から目黒へ引っ越すことになり、人生初めての転校を経験しました。新しい同級生は会社員の子が多く、教室の雰囲気も何となく上品で、付近には芸能人も多く住んでいました。

驚いたのは月曜日の朝礼で、校長先生が1人の少女と一緒に前に立ち「皆さん、松島トモ子さんはこれからお仕事に出かけられます。拍手でお送りしましょう!」とひと言。

すると彼女は一礼して黒いピカピカの車でさっそうと出かけたのです。その頃、松島トモ子といえば美空ひばりの再来と言われ、歌に芝居に大活躍の子役の大スター。映画好きの私にとっては『くらてん』の杉作で、4つ上の6年生でしたが、そのりんとした姿に憧れたものです。

実はこの頃、名子役と呼ばれる同い年の子どもたちが近隣から数多く輩出されていたのです。

映画『警察日記』『赤ひげ』の二木てるみ、『路傍の石』〈次郎物語〉の池田秀一をはじめ、風間杜夫、火野正平も近所の小中学校に通いながら子役として活躍していました。

彼らに共通しているのは、児童劇団出身だということ。戦後、あちこちに児童劇団が創設され、子どもの習い事として入団させる親も多く、その中から逸材が育っていったのです。私は「子役になるには児童劇団に入るのが近道なのか」と理解したものの、どうやって入団するのか分からないまま月日がたっていきました。

中学生になり、他のクラスに有名な子役がいるといううわさを聞き会いに行きました。それが栗原眞一君です。彼は小学生のときに学習雑誌の表紙を飾り、映画やテレビドラマにも出演していたというのです。

彼の教室をのぞくと、そこには眉目秀麗、いかにも賢そうなオーラを放つ美少年がいるではありませんか。なるほど、こういう少年が子役になるのかと納得、私の子役になるという野望ははかなくついえたのでした。

彼とは今でも交流があるのですが、子役時代のことを聞くと驚くことばかり。1957年の映画『智恵子抄』では、伝説の女優・原節子さんと共演しているというのです。ビデオで確かめてみると、確かに原節子さんが演じた智恵子の親戚の子ども役で同じ場面に映っているではありませんか。「すごいよ、栗ちゃん!」。

さらに最近、本人から教えてもらったのは、日本最初の全編フィルムによる連続テレビ映画〈ぽんぽこ物語〉にも、小鳩くるみ(現・わし)さんと共に主演しているというのです。しかも、奇跡的に原盤フィルムが発見されDVDが発売されたとのこと。早速入手して見てみると、童謡歌手としても大人気だった小鳩くるみを相手に堂々たる演技を見せているではありませんか。本人に詳しく聞いてみると、彼も芝居好きの父親に勧められて児童劇団に所属、やがてばってきされて映画やテレビに出演するようになったとのこと。

ただ、学業も優秀だった彼は、芸能界に残る選択はせず、大学を卒業すると地方公務員となり、定年まで地道に勤めあげました。これもまた栗ちゃんらしい見事な生き方だと思います。彼と会うといつも映画談議で盛り上がり、少年時代の思い出がよみがえります。昔も今も、私の最も身近な名子役は栗ちゃんなのです。

渡辺俊雄(わたなべ・としお)
1949(昭和24)年、東京生まれ。’72年NHKにアナウンサーとして入局。地方局に勤務後、’88年東京ラジオセンターへ。「ラジオ深夜便」の創設に携わったあと、アナウンス室を経て「衛星映画劇場」支配人に就任。「ラジオ深夜便」の「真夜中の映画ばなし」に出演中。

(月刊誌『ラジオ深夜便』2022年7月号より)

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