FMシアター
「ヘルプマン—俺たちの介護物語—」
〜ひとは最後まで輝き続ける~シリーズ「日本の介護を考える」(全5回)

NHK-FM 午後10:00~10:50
9月3日(土) 第1回「ヘルプマン、覚醒!」
9月17日(土)第2回「希望は、あるか?」
9月24日(土)第3回「極楽へ、行こう!」
10月1日(土)第4回「告発」
10月8日(土)最終回「そして、夢へ」

いわゆる「2025年問題」まであと3年 。国民の4~5人に1人が後期高齢者(75歳)となり、認知症は約700万人と見込まれ、社会保障費の不足、医療・介護現場での人材不足などさまざまな問題が挙げられています。では実際にどうすればよいのか?

FMシアター「ヘルプマン」(全5回)では、くさか里樹さんの同名コミック・シリーズ(なんと18年で累計40巻)を原案にこれからの日本の介護について、FMシアター「初」となる連続5回シリーズで考えます。介護現場の方々が心がけるのが、サービスの利用者さんそれぞれに対する「個別ケア」。利用者さんが喜んでくれる顔を生きがいに皆さんは懸命に働いています。

しかしそれには時間も賃金もなかなか足りない。特別養護老人ホームを例にとれば、10人の利用者さんに対し、職員はひとりで対応しなければならない。「超高齢化社会」の日本の介護現場のマンパワーは欧米諸国の実に3分の1、しかも今、その数さえ削られようとしています……。私たちにできることを考えなければならない時代がすぐそこに来ています。

番組では「プロフェッショナル~仕事の流儀~」でもご出演された加藤忠相さん、鈴木真さんにも介護指導としてご参加いただき 、介護のリアルな世界を描きました。さあ、待ったなしのこの時代 、あなたなら、どう生きますか?

●ストーリー

介護に「夢」を持つ若き3人の介護士、恩田百太郎、神崎仁、小池桃代が「理想の介護」を目指し、介護のマニュアル化を進めるマンモス・ケア・グル ープと闘う連続5回シリーズ。

介護の現場は慢性的な人手不足……その問題を解消するため、社会福祉法人マンモス・ケアは食事・入浴・排せつの三大介護の「完全マニュアル介護」を推し進める……。食事・入浴は個別に対応せず、トイレ誘導拒否なら紙オムツ。しかし、それで利用者さんは幸せなのか? 利用者さんに喜んでもらわなければ、俺たちだってツマんねぇだろうが!?

デイケアで、特別養護老人ホームで、そして在宅介護の各現場で、若き3人の介護士は、家事・内職はじめ利用者さんの希望をかなえる「個別ケア」で「理想の介護」を目指す。ホストのヘルプから介護のヘルプマンへ。百太郎たちの介護物語が始まる。


●「ヘルプマン~俺たちの介護物語~」を拝聴して

【原作】 漫画家/くさか里樹
18年間、介護現場の方々と共に歩んできた漫画「ヘルプマン」シリーズをラジオで聴ける日が来るなんて夢のようです。漫画のキャラクターたちがまるで本当に生きているよう。制作、脚本、俳優の皆さんがたの、物語への愛情がひしひしと伝わってきて胸がいっぱいになりました。悪戦苦闘という側面も踏まえた上で、介護には、クリエイターやアーティストと同じ喜びがある。

世間が抱く介護の印象とは全く違って、ユーモアがあり、奥深い哲学がある。私が出会った介護現場のヘルプマンたちが口を揃えていう言葉「介護っておもしろい!」。

その感覚を、ラジオを聴いてくださる皆様と少しでも共有できますよう、心から願っています。

●キャスト紹介

恩田百太郎 役
浅利陽介

恩田百太郎
ホストクラブのヘルプから介護のヘルプマンへ。利用者さんの笑顔を見たいと、とかく「理想の介護」へ突っ走る!

浅利陽介さん メッセージ
脚本を新幹線の中で読んでいたのですが、登場するキャラクターの素直な思いと、介護を通した社会の不条理さがぶつかり合っていて、目頭が熱くなってしまい、人が通りすぎる度に台本で顔を隠していました。この作品をきっかけに自分の両親のことを考える機会をいただきました。実際に現場で働いている方からいろいろなお話を伺いましたが、両親には楽しく、健やかな日々を送ってもらいたいと感じました。

また、『介護 』は自分の【身近にある】ことだということに気がつくことができてよかったです。今はまだと思っていますが、今後お世話になるであろうことも視野に入れて、両親にあったサービスを探すために、まずは、もっと会話をしたいと思います。

神崎仁 役
渡部豪太

神崎仁
恩田百太郎の高校時代の同級生。ナンバーワン・ホストだったが、客の新居正美(かたせ梨乃)が認知症になったことで、介護の世界へ。マンモス・ケアで昇進を重ねるが、やがてその経営方針に疑問を持つように。

渡部豪太さん メッセージ
FMシアター「ヘルプマン」に参加して日本の介護業界の今を知るきっかけになりました。人の数だけ介護の形があって、互いにとって気持ち良く、心地よい「介護」って一体何なのか。介護「する側」と「される側」どちらの気持ちにも寄り添った温かい作品になったと思います。

浅利陽介さん演じる主人公・恩田百太郎の迷いながら自分なりの答えを見つけていく様子は聴き応えがありますし、色とりどりな高齢者演じるベテラン俳優の皆様の声で聴かせる存在感もお楽しみに。たくさんの人の想いが詰まったFMシアター「ヘルプマン」、この息づかいがぜひ多くの方の耳に届きますように。

小池桃代 役
瀧内公美

小池桃代
特養「あいらんど」や「はーとらんど」の主任を務めるベテラン職員。介護への思いは人一倍熱く、周囲からの信頼も絶大。

瀧内公美さん メッセージ
ことしのゴールデンウィークは「ヘルプマン」一色でした。お芝居のお稽古のようにみなさんと毎日集まって本読みをしながら、ああでもないこうでもないとお話をたくさんさせてもらった記憶があります。先輩方が教えてくださる介護体験や、介護指導でついてくださった鈴木さんのお話を頼りにみなさんと丁寧に作り上げました。脱線していくお話こそこの物語をお届けする"大切なこと" がたくさん詰まっていたのだと思っています。

演出の吉田さんの熱いご指導でひっぱっていただきながら、私が演じている小池桃代のキャラクターはときに吉田さんのようでいいんだと感じたことも覚えています。常に周りをみて声をかけてくださり、場を明るく楽しく導いてくださった浅利さんがいてこその「ヘルプマン」 でした。どんどん高まっていったチームワークの良さが声だけでお伝えするラジオドラマでもお届けできると信じています。最後のキャスト紹介までこだわって作りましたのでぜひ聞いてくださいね! よろしくお願いします!

新居正美 役
かたせ梨乃

新居正美
社会福祉法人マンモス・ケアの元・理事長だったが、認知症となり、今はマンモス・ケアの介護を受ける身に。元気だったころに導入した「完全マニュアル介護」が自身の首を絞めることに。しかし、新居の「 会議!会議ィ~!」という口癖には、大きな「謎」が隠されていた。

かたせ梨乃さん メッセージ
私自身両親の介護を始めて7年の月日が過ぎました。自分独りではできないことを助けていただき、現場の大変さも身をもって体験してまいりました。今回、正美さんというメッセンジャーを通して「何かを伝えられたらいいな」と思いながらマイクの前に立たせていただきました。

寺田事務長 役
小手伸也

寺田事務長
新居理事長(かたせ梨乃)退任後のマンモス・ケアの実権を握る。グループの利益を追求するため「完全マニュアル介護」を導入。

小手伸也さん メッセージ
今作「ヘルプマン」は FMシアターとしては初の連続5話という長編にして、老人介護という私たちの未来とは切っても切り離せない重大なテーマに切り込む意欲作です。

僕が2話目以降に演じます寺田理事長は、浅利さん演じる主人公百太郎たちの価値観とはことごとく対立し、その対決が終盤に向けての大きな見どころとなっていきますが、介護問題の現状を多角的に見れば、一見冷徹な寺田の視点もあながち間違いではないというところをしっかり意識しながら演じました。明るく前向きなドラマの展開を楽しみながらも、 皆様にとっていろいろな問題提起に思いを巡らせるキッカケとなれば幸いです。

もちろん、今回も1話目から本役(寺田)以外の登場人物も複数演じてまして、吉田監督の僕に対するむちゃぶり具合も史上最大となっております(笑)。そうしたラジオドラマならではの部分も含め、大いに楽しんでいただきたいです。ご期待ください!(第1回では介護職員・嘉島役、第2 回では東京都の職員役も……)

松尾一郎 役
高橋長英

松尾一郎
特養「はーとらんど」入居者。家事や内職など入居者自らが主体的に特養の運営に関わる「個別ケア」を提唱、その導入を経営に働きかける。

高橋長英さんメッセージ
いつもは少人数で出演者もせいぜい5、6名なのに、今回は5回連続で各回50分づつ、出演者も20名を越えるというかなり大がかりな創りのラジオドラマ。しかも内容も老人ホームを舞台にしたそこに入っている老人達とスタッフの話ということで、いつもとチョット勝手が違ってとまどいました。

自分の役も要介護いくつかの老人役というので、近未来の自分の現実の姿をつきつけられたようでとても他人事とは思えぬ、いつもと違うラジオ出演でした。でも老人ホームに入所している老人たちを演じる俳優さんたちが騒々しいほど熱のこもった演技合戦(?) をくりひろげたので、何だか「同窓会」をやってるようで、本当に充実した収録でした。できあがりが楽しみです。

宮園マチコ 役
市毛良枝

宮園マチコ
特養「はーとらんど」入居者。認知症。元美容師。女手ひとつで知樹(津田寛治)を育てた。松尾一郎をかつての恋人・タツさんと思い込んでいる。

市毛良枝さん メッセージ
母の介護で出会った認知症の皆さんは、事情を知らなければご病気とわからない方がほとんどでした。それでもいろいろ忘れてしまうんです。事件も起きてしまいます。マチコさんもそんなひとりです。この細やかな心情をお伝えするには力不足とあきらめていましたが、ラジオというすてきな媒体がありました。声と音だけでお届けし、お聞きくださる皆様の心の中に映像を描いていただけたら不可能ではないのではと希望が持てました。

井出さんの台本、吉田さんの演出、高橋長英さんはじめすてきな俳優仲間、スタッフの皆さんと共にマチコさんの人生をたどってみました。果たしてどうなっているのか……。わたしも聴くのが楽しみです。マチコさんが見つけた幸せな時間を、お聴きくださる皆さんに寄り添っていただけたらとてもうれしいです。

宮園知樹 役
津田寛治

宮園知樹
マチコのひとり息子。母が松尾一郎(高橋長英)を自分の恋人と思い込んでいることにいらだち、ふたりの仲を裂こうとする。

津田寛治さん メッセージ
介護がますます身近になってきた昨今、その第一線で活躍されているヘルパーの方々の奮闘記をリアルに描いたラジオドラマです。素晴らしいメンバーで物語を紡ぎました。是非お聴き下さい!

恩田美都子役/沢口所長役
片岡礼子

恩田美都子
恩田百太郎の母。祖母サダ(大方斐沙子)とともに弁当屋「おんだ」を切り盛りしている。片岡さんには他に、宮園明江(知樹の妻)、沢口所長(第4 回から登場)などさまざまな役をお願いしました。

片岡礼子さん メッセージ
主人公の恩田百太郎がカッコいいんです。熱いハートを持ち行動派でとにかく優しい。浅利陽介さんがその声を声の動きと共に体現してくださったので、私も夢中で母・美都子役を楽しませていただきました。エネルギーが眩しく現場を楽しませてくださる魅力の塊な方なんです。仁さん役の渡部豪太さん、桃代役の瀧内公美さんとの3人トリオも向かい合ってお芝居が目の前で展開されるのはコントのようで収録の間中、笑いに満たされてました。

この現場で貴重だったのが原作の時代と現代の介護をちゃんと監修してくださる方が現場にいらっしゃったこと。また、かたせ梨乃さんの介護のお話は私に大きなヒントをくださいました。小手伸也さんの深い声色、左時枝さんの夢みるような話し方、名取幸政さんの特徴あるお声! 小山剛志さんの響き! 渡部紗弓さんの音の魅力。そして!デビュー当時からの恩師であります大方斐沙子さんと親子役共演! もううれしくて! 冒頭のホストのお客役の声も含めてこの作品に首ったけです!

岡崎 役
藤本沙紀

岡崎
特養「はーとらんど」の介護職員。小池桃代(瀧内公美)のよき相棒……であるが故に、恩田百太郎(浅利陽介)と激しく反目し合うが、次第に介護の理想に目覚めるように。

藤本沙紀さん メッセージ
声のお仕事もやってみたいなと思っていたときにこのお話をいただきとてもうれしかったです、はじめてのラジオドラマ! 今回私は介護士の岡崎奈津美役を演じましたが自分はまだ介護にたいしてふわっとしたイメージしかなく、施設のシビアな現状やリアルな雰囲気を施設見学や介護士さんからのお話を通じて知り、共演者の方ともお話ししながらやらせていただきました。

この作品を通して、若い世代の方たちにも介護や介護士のことを知るきっかけになるんじゃないかなと思います。と、堅苦しい感じで書きましたが収録の現場は吉田監督のノリノリなテンションと大ベテランな役者の先輩たちでとてもとても刺激的で楽しかったです!!  浅利さん演じる恩田と岡崎のやりとりも皆様にくすっと笑っていただけたらなと思いますっ。

沢田千鶴子役/町田チヨ役
左時枝

沢田千鶴子・町田チヨ
沢田千鶴子は元・高校教師。プライドが高く、自分を子ども扱いする介護をことごとく拒絶する。左さんには在宅ケアを受ける町田チヨ役も。

左時枝さん メッセージ
「ヘルプマン」てなんなんだろうと首をひねりながら台本を読み続けました。思わず25年ほども前のことが私の胸の中でよみがえってきました。私の母のことですが、時間を見つけては母が入居していた施設に1週間に一度洗濯物を取りに行くことが決められていて、そこで母と話をしたり歌を唄ったりするのです。合間を見つけて近くのファミレスに行き、おいしいものを食べるのが習慣でした。途中信号で立ち止まったとき、当時私は、少し大きめのカメラを持っていたので、「お母さん」と声をかけるとまるで幼女のような笑顔を見て、思わず、「お母さん可愛い」と口から出てしまいました、その時の母から帰ってきた言葉は、「お母さんを写そうと思って、カメラを持ってきたあんたの気持ちがうれしい」と言ったのです。

時々思いもしない言葉を発するので、ノートに走り書きしていたことがあります。母は明治の生まれ、あの厳しい時代を8人も産み育て生活苦にも負けず、生きてきた人です。2人でいる時に、しみじみとつぶやいた言葉は、今でも忘れられません。「苦しかったことが、本当に苦しかったのか、楽しかったことが本当に楽しかったのか、今では分からん」と、当時まだ元気だった主人に母の言語録を聞かせたとき、主人は、「歳をとったら、神様に近づくんだね」と、このヘルプマンのドラマをお聴きになった方はきっと、懐かしく思い出されることがたくさんあるかもしれません、ね。左時枝でした。(沢田千鶴子は第1回、町田チヨは最終回で登場です)

●スタッフ紹介

脚色・井出真理さん

井出真理さん メッセージ
くさか里樹さんの漫画『ヘルプマン』を 、5回連続のFMシアターで作りたいと吉田ディレクターからお話をいただいたとき(今から4年前!)は、ちょうど身内が認知症の周辺症状で苦しんでいる最中でした。介護からは誰も逃げることができないのだと実感していて、だから「ぜひ、やらせてください!」とお答えしました。

しかし原作で描かれている高齢者の尊厳と、介護現場で働く人々の苦悩と喜びと、そして高齢者福祉政策の現実を、ラジオドラマでどう表現するか本当に難しく、悩みに悩みました。介護監修をお引き受けくださった加藤忠相さんと鈴木真さんに、何より感謝いたします。メインキャストの若き介護士・介護福祉士の3人がイキイキと素敵、そして、彼らが出会う人生の大先輩たちを演じてくださった皆さんが本当にすばらしく、収録の際、ずっと聴き入ってしまいました。皆で創り上げた作品が、やっとリスナーの皆さまのもとに届きます、ぜひおつきあいくださいませ!!

介護指導・加藤忠相さん

加藤忠相さん メッセージ
介護職をはじめて数年経ったころにはじめて読んだ『ヘルプマン!』。当時からリアルが盛り込まれた作品で、あっという間に単行本を買いそろえた記憶があります。熱血な百太郎のストレートな人間力、切れ者で用意周到な仁の戦略……。いつでも痛快な記憶と共によみがえります。

しかし『 ヘルプマン!』の魅力は2人の主人公の魅力に留まらず、現場で苦悩しながら、もがきながら、それでも前を向こうとするその他大勢のヘルプマンたちです。正直に言います、ラジオドラマなめていました。声だけでのお芝居で伝わるのか?と。はじめてスタジオで演者の皆さんと時間を共有したとき、僕は笑いながら全身が震えました。そして全ての回で泣きました。

見事なはまり役をすさまじい集中力で演じていた浅利陽介さん、渡部豪太さんはもちろんなのですが、原作と同じく全てのキャストの演技に本当に感動しました。日本中のヘルプマンに聴いてほしいと心から思います。そして、介護監修としてこの作品に関わらせていただけたことに心から感謝しています。

介護指導・鈴木真さん

鈴木真さん メッセージ
ヘルプマンは、介護の現実をありのままに描いてくれています。言葉では表せない家族の介護職員の心の葛藤、制度へのいらだちなど、理想だけではやっていけない現実がそこにはあり、その中で奮闘する介護職員たち。そこにヘルプマンは、工夫やひらめき、熱い思いからの行動で、一筋の希望を見せてくれます。介護の世界に20年以上いますが、なぜいられるのかといったらヘルプマン同様に、現実に介護の世界は心熱くさせられ、気持ちが動く瞬間があるからです。そんな介護の世界にいる仲間たちはかっこよいのです。

このラジオドラマでは、制作の方々や演者のみなさんがその介護の現実とすてきな瞬間を切り取って表現してくださっています。今、介護で疲れてしまっている方には元気を与えてくれるものになり、また介護の世界を知らない方には、介護はただ身体介護をする肉体労働ではなく、感情豊かな感情労働という奥深い世界を知ってもらえたらと思います。