106歳の父・ほり​江​正まさ​夫さんの健康長寿を支えてきた料理研究家の堀江ひろ子さん(75歳)。生活習慣病とは無縁の健康長寿の秘訣は、毎日の食事だといいます。堀江家で実践されてきた、健康に役立つ食事の考え方や工夫を教えていただきました。
聞き手 後藤繁榮

体によいことを日課に

——お父様は106歳で、元気に暮らしていらっしゃるそうですね。

堀江 4、5年前までは毎日約1万歩を歩いていましたね。元軍人ということもあり、遺族の方とのおつきあいや戦争の体験を伝える講演会、趣味の旅行など、あちこちに出かけていました。今でこそ家の中でぽつぽつと歩くようになりましたけれど、それでも1日4千歩ほどは歩いているようです。

さすがに家の中ですから歩数計がカウントしないこともあるようで、父は歩くときに指で1、2、3とカウントして、50まで数えたら歩数計を振るというのを繰り返すんです。頭の運動にもなっていると思います。

昔からとても真面目な人で、歯科の先生からえん予防の発声法を教われば、毎食事前に「パ・タ・カ・ラ」という発声をしていますし、ストレッチをしたほうがよいと言われれば、布団の上で掛け声をかけながらストレッチをしています。本当に、その努力する姿に頭が下がります。

左上/堀江家では“長寿豆”と呼んでいる金時豆の甘煮は、正夫さんの大好物。右/自ら長寿豆を作る堀江正夫さん(2021年12月末撮影)。

夕食は家族そろって九人で

——健康長寿の秘訣は、食事にあるそうですね。

堀江 母は人に教えるほど料理が得意で、今でいう料理研究家の先駆けのような仕事をしていましたので、父はわりと早いうちから健康を意識して食事をしていましたね。

私が大学で栄養学を学んでいたころには、父にお弁当を作っていました。実は実習や撮影の残り物だったのですが(笑)、体に優しいものを選んでお弁当箱に詰めると、見事に幕の内弁当になって。生活習慣病を予防する食事も、実践していきたいと思います。

それと、わが家では家族みんなで食卓を囲むことも大事にしています。今は孫やひ孫を含めて9人で食事をします。一緒に食べると会話が弾んで笑顔が増えます。バランスのよい食事を心がけているので、「あれは嫌、これはいらない」というのはなし。好き嫌いを言わずに「一口は食べてね」というのがルールです。それは大人も子どもも一緒で、ひ孫の前では、「これはいらない」とは言いにくいでしょ。「ひいじい、残ってるよ」なんて言われて、頑張って食べたりしていますよ。

基本的には、父も家族と同じものを食べます。食べにくいものは包丁で細かく刻んだり、フードプロセッサーにかけてペースト状にしたりしますが、一緒に“おいしい”を共感しながら食べてもらうのがいいんです。

食事は家族みんなで食べるのが基本。6歳のひ孫との年齢差は100歳(2021年のクリスマスに撮影)。

孫との交流が元気の源

——具体的には、どういうものを食べるとよいのですか?

堀江 年をとってあまり動かないからといって食べないのはダメ。体に必要な栄養はいっぱいあります。植物性はもちろん、動物性のたんぱく質もきちんととらなければ筋肉が衰えますし、野菜が不足すれば便秘になりやすいですし。

食事のあとは、手分けをして後片づけをしたり、父と孫やひ孫が一緒にトランプをして遊んだりします。それは父の元気の源になると同時に、子どもたちにとっても父からいろいろ教われる機会でもあって。年をとっていくことを身近で見ていると、みんな優しくなりますね。

——健康を守るためにも、料理ができるといいですね。

堀江 料理は材料を吟味したり手順を考えたりと頭を使いますし、手先も動かすのでいいんですよ。自分のために作るのもいいですが、誰かのために料理を作って「ありがとう」「ごちそうさま」と感謝されたり、会話が増えたりと楽しみも増えます。これまで料理をしてこなかった方にも、ぜひチャレンジしていただきたいです。元気で生き生きと年を重ねていきたいですね。


堀江 ひろ子 (ほりえ・ひろこ)

1947(昭和22)年、元参議院議員の堀江正夫、料理研究家・堀江泰子(やすこ)の長女として生まれる。 日本女子大学家政学部食物学科に在籍中から母の助手を務め、料理研究家として活動の場を広げる。料理教室をはじめ、テレビ・書籍・企業のメニュー開発などでレシピを発表。身近な食材で誰にでも作れる再現性の高いレシピにファンが多い。著書に『100歳まで元気でボケない食事術』(主婦の友社)がある。

料理撮影/南雲保夫 構成/石田純子
(月刊誌『ラジオ深夜便 』2022年6月号より)

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