『月刊ラジオ深夜便』で連載中の、NHK放送文化研究所主任研究員・塩田雄大の「気になる日本語」。今回は「接近するのは何ですか?」より、「近づく」と「近寄る」の2つの似たことばをどのように使い分けるかを紹介します。

この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年5月号(4/18発売)より抜粋して紹介しています。


「近づく」と「近寄る」はどう違う?

「近づく」と「近寄る」。一見同じ意味に思えるこの2つ、皆さんはどう使い分けているでしょうか。

結論を言ってしまいますと、どちらも接近するという意味においては同じですが、微妙な違いがあります。まず、「近づく」は、接近するものが人間でも動物でも、あるいは時期や時間であっても、いろいろなものに使うことができます。それに対して、「近寄る」はそんなに広い範囲では使えません。

より具体的に言うと、その接近するものが人間や動物のように、ある程度の意志を持っているものに限られるのです。例えば「白い犬がこちらに近づいてきた/白い犬がこちらに近寄ってきた」。どちらも違和感はないですね。では乗り物の場合。「黒い車が近づいてきた/黒い車が近寄ってきた」。

前者は問題ありません。しかし、後者は人によっては違和感を覚えるかもしれません。車は意志を持っていませんが、ここではやや擬人的に表現されている。車そのものというより、焦点はそれを運転している、もしくはそこに乗っている人間に当たっています。人が車に乗って接近してきているという意識があると受け入れられるようです。


意志がないと気味悪さも

このように、主語が人間や動物の場合は「近づく」「近寄る」のどちらも使えます。しかし「近寄る」は、主語が人間や動物、あるいは人間が乗っている乗り物以外だとちょっと使いにくい。例えば「タイムリミットが近づいてきた」という文。これを「タイムリミットが近寄ってきた」とは普通は言いません。

例えば……(近寄ると恐ろしげなものも……)

【プロフィール】
しおだ・たけひろ

NHK入局後、1997年からNHK放送文化研究所でことばについての調査・研究をおこなっている。

※この記事は2025年2月14日放送「気になる日本語」を再構成したものです。


同じような意味のことばでも、われわれは無意識にニュアンスの違いを認識していると言う塩田さん。解説の続きは月刊誌『ラジオ深夜便』5月号をご覧ください。

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