今年、74歳になります。若いですね、と言われると悪くない気分です。スーツにネクタイという仕事でもないので、いつもカジュアルな服装。職場の若い人と同じシャツだったり、ということもあります。若いですねの言葉の裏には、年寄りが選択する服じゃないですね、という意味もあるのでしょうか。
若づくりにしていても、身体はしっかり高齢者。駅の階段の上り下り、以前は軽やかにステップを踏んでいたのに、今じゃ手すりにいつでもつかまれるよう慎重になっています。若いころに流行した細身のジーンズ、まだイケるとはいてみたら包帯巻かれたミイラみたいに下半身が動かない。当然、階段なんて上れない。丈の短いTシャツを着ると腰が冷えて具合が悪くなる。そうです、もう若くはないのです。そんなことは、わかっています。
今年の正月、料理愛好家・平野レミさんと能登半島を訪ねるロケ番組に出演しました。ふだんはスタジオでの撮影ですから、私は調理台の前に立って、カメラには正面か横顔が映されるというスタイル。後ろ姿が映されることはめったにありません。ロケ撮影の場合は、カメラが全方位から狙ってきます。そのことをすっかり忘れていました。
いざ放送本番。オープニングは金沢の近江町市場を訪ねる場面。目に飛び込んできたのが、猫背で歩く私の姿。もともと猫背気味ではありましたが、横からの姿を撮影されると何ともみじめな気分に。「おじいちゃんだ……」。さらに、背後から映される場面。後頭部の渦巻き付近が、まさに映画『十戒』で海が割れるような具合に地肌が見えているのです。そういえば以前ネットに、私がスタジオで正面向きにお辞儀をしている写真が掲載されました。上から強力な照明が当たっているので薄毛の部分の地肌が透けるように現れていて、残念な気分になったことがありました。
若いですね、というおだての言葉は聞き流そう。ここに老いの死角が潜んでいるように思います。猫背や薄毛は当たり前、健康が一番なのさ。のびのびと老いを生きていくぞ。
(ごとう・しげよし 第1・3・5土曜 担当)
※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年3月号に掲載されたものです。
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