小菅正夫さん(76歳)は、30年ほど前、閉園の危機にあった北海道の旭川市旭山動物園の園長に就任。動物本来の動きを見せる「行動展示」で、日本でも有数の人気動物園に復活させました。幼いころから、さまざまな生き物とともに暮らしてきた小菅さんが、動物の本質などについて語ります。
聞き手/柘植恵水この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2024年11月号(10/18発売)より抜粋して紹介しています。
動物も人もわくわくする「行動展示」
――旭山動物園では、“ペンギンの散歩”や“ダイブするホッキョクグマ”など、動物が生き生きと活動する姿を見せる、新しい「行動展示」を始めたのですね。
小菅 従来の動物園は「分類学的展示」で、図鑑を見るのと変わらないんです。それよりも、例えば野生のオランウータンがボルネオの密林で実際にするような動きが見たいし、動物たちもそのほうが楽しいですよね。それでオランウータンが空中散歩をできる塔を作りました。
彼らが自然の中で木を渡って移動するのは、“食べ物を探して取りに行くため”です。例えば、向こう側の塔に大好きな果物を置いておけば、オランウータンが綱を伝って塔を渡る。そして果物を食べたら、また帰ってくるわけです。
――目の前でオランウータンが塔を登り、綱をさっそうと渡っていくのを見ると、お客さんはわくわくしますね。
小菅 塔や綱はおりの外なので、初めて見たお客さんは、オランウータンが綱を伝って逃げているように見えたんです。でも、オランウータンは絶対下には降りない。なぜなら、どのくらいの高さから落ちたら死ぬのかをちゃんと知っているからです。
――この行動展示は、その後日本中の動物園に広まりました。
小菅 今までは動物園の動物って、「いつ行っても寝てるよね」とか「なんかやる気がないよね」という残念な評価ばかりでした。それがこの展示のおかげで、「動物が生き生きしてるよね」ってお客さんが喜んでくれるようになったんです。それは彼らが動物園の中でも、野生本来の行動をしているから。その褒め言葉が本当にうれしかったです。
群れは動物たちの学校
――今は札幌市の円山動物園でアドバイザーになられて、ゾウの出産にも成功されました。
小菅 僕は動物園人生の中で、動物が命をつなぐ繁殖に懸命に取り組んできました。ホッキョクグマや鳥もたくさん繁殖させました。そしてミャンマーで繁殖用のゾウを選ぶときも、自分の責任で選ぼうと思い、すでに決まっていた4頭のうちの2頭を替えてもらったんです。性格のいい雄と雌を選んだ。それはもう直感ですね。そのチェンジしたペアに、今回赤ちゃんが誕生したんですよ。
※この記事は2024年7月11日放送 「子ども科学電話相談40周年~動物園とともに歩んで」を再構成したものです。
「動物を尊敬する」と語る小菅さん。生き物大好きの“少年時代”、獣医になったいきさつや動物への思いあふれるメッセージなど……。お話の続きは月刊誌『ラジオ深夜便』11月号をご覧ください。
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