列車の窓から外を眺めるのが好きです。とりわけ長距離列車の車窓からの眺めは、次々と新しい風景が展開し、見飽きることがありません。指定席は必ず窓側を予約。読みたい本を取り出すと、あとは読書をするか、窓の外を眺めるか、そのどちらかです。

新潟県から富山県にかけて海沿いを走るかつてのJR北陸本線*の車窓からの眺めには、帰省のたびに目を奪われました。すぐ目の前は日本海。真冬には荒波が打ち寄せ、烈風が吹きすさび、彼方かなたには灰色の空が広がります。それが夏になるとうそのように穏やかになって、青い海原に日の光がキラキラと輝くのです。同じ日本海がこんなにも違う表情を見せることに、自然のすごさを感じたものです。

JR高山本線の山あいの区間も絶景です。深い渓谷に沿って列車は走ります。両側には山がそびえ、車窓から下を眺めると遥か遠くに谷川が流れています。水の色は深いあおみどり色。橋を渡りトンネルを抜けると、また別の絶景が現れます。緑がまぶしい夏の山も、雪をかぶった水墨画のような冬の山も、そのどちらも見たさに、富山局勤務のころの名古屋出張では高山本線をよく利用したものです。

そしてこの6月の「ラジオ深夜便のつどい」では、新幹線と在来線で佐賀に向かいました。久しぶりの長距離列車の車窓には多彩な風景が広がりました。都会の巨大なオフィスビル。びっしりと連なる家々の屋根。大きなショッピングモールに駐車場。河川敷のグラウンドでは野球をしている人たち。こんもりとした緑は鎮守の森でしょうか。学校や体育館。銀色に光る工場。送電線の鉄塔が遠くに見え、水を張った田んぼには雲が映っています。

眺めているうち、ある思いが私の中に湧き上がってきました。それは「あの風景の中には人間の営みがある」ということ。今この瞬間も、無数の人たちがこの風景の中で暮らしています。そこにはどんな物語があるのでしょうか……。考え始めてちょっと気が遠くなってきたころ、おや、気がつけばそろそろ目的の駅。さて、降りるとしますか。

(まつい・はるのぶ 第1・3月曜担当)

現在は「日本海ひすいライン」と「あいの風とやま鉄道線」(ともに第三セクター)となっている。

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2024年9月号に掲載されたものです。

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