浅田次郎さんの最新長編小説『母の待つ里』をドラマ化。岩手県・遠野の美しい里山の風景を舞台に、都会で働き、人生の区切りを迎え、または迎えようとする男女3人が、ある「ふるさと」を通じて、次なる人生の道しるべを見いだしていく姿を描くミステリアス・ファンタジーだ。

出演者には、中井貴一さん、松嶋菜々子さん、佐々木蔵之介さん、宮本信子さんといった豪華俳優陣がそろう。脚本は、草彅剛さん主演の宮城発地域ドラマ「ペペロンチーノ」などで知られる一色伸幸さんが務める。

約1か月間、キャストとスタッフ陣が岩手県・遠野に滞在して撮影した本作。ドラマの見どころや、ドラマに込めた思いなどについて、制作統括の高城朝子さんに話を聞いた。


縁がつないだ奇跡的なキャスティング

高城さんは、ドラマ化のきっかけは、今回の監督の一人・阿部修英さんが浅田次郎さんから「読んでみてよ」と原作小説を受け取ったことだったと教えてくれた。

阿部さんは、かつてNHKの「中国王朝 英雄たちの伝説」シリーズなどで、中国への造詣ぞうけいが深い浅田次郎さんと何度もタッグを組んだ、ドキュメンタリー畑の監督。実はドラマを手掛けるのは今回が初めてだという。それでも小説を読み、「これは面白いからぜひ映像化したい!」と熱望した。

「はじめに登場する、中井貴一さん演じる松永徹という男性は、自分の故郷に帰るのが40年ぶりとはいえ、記憶が曖昧あいまいすぎて母親の名前すら思い出せません。『記憶喪失?』と思わせるところから物語が始まります。ファンタジー的な要素があるのだけど、母との関係性や会話、故郷の様子はリアリティがある、そういった部分に面白さを感じて惹かれたと、阿部監督は話していました」(高城さん

また、今回の豪華なキャスティングは、原作を読んだ時に浮かんだ高城さんのイメージが、縁あって実現したものだという。

「メインキャストの4人は、原作を読んでいる時に、頭の中に浮かんできた方々でした。実は中井貴一さんと佐々木蔵之介さんは、『中国王朝 英雄たちの伝説』シリーズにご出演していただいたことがあり、さらに中井さんは、浅田作品によくご出演されてもいます。

松嶋菜々子さんは、私が担当している『アナザーストーリーズ』(NHK BS)のMCとしてご出演されているというご縁がありました。私が真っ先にイメージしたお三方と、過去にお仕事のつながりがあったことに、強いご縁を感じています。

宮本信子さんは、私自身は過去のお仕事でのつながりはなかったのですが、もう一人の制作統括である訓覇くるべ圭さんが、宮本さんがご出演されていた連続テレビ小説『あまちゃん』の制作統括だったという縁がありました。そのつながりで脚本をお送りしたところ、『やってみたい』とお返事をいただきました。このようにして奇跡的な豪華キャスティングが決まったんです」(高城さん


まるで異世界に来たかのような遠野ロケ

本作の撮影は、今年4月に約1か月間にわたって岩手県・遠野で行われた。当初は東京近郊でロケ地を探したものの、やはり遠野の“本物感”にはかなわなかったという高城さん。

「東京近郊にも古民家などはあるのですが、周囲に集合住宅や電線などがどうしても入ってしまう、ということがありました。でも遠野に来ると、列車を降りた瞬間、まるで異世界に来たかのような雰囲気が感じられました。

また、風の音、鳥のさえずり、虫の鳴き声、波の音などの音も違いました。日本の原風景そのままの映像はもちろんのこと、音声さんが時間を見つけて収録したたくさんの音が素晴すばらしく、劇中でたくさん使っているので、ぜひテレビの音量を上げて、音も楽しんでいただきたいです」(高城さん

長期の遠野ロケでは、キャスト陣の人柄がかい見えることが多かったという。実は遠野は「ジンギスカンの街」と言われるほど、ラム肉が名物。撮影中に、まだラム肉を食べていないスタッフがいることを知った中井さんは、昼休みに自ら肉を調達して、焼肉を振る舞った。

「中井さんが地元で評判の精肉店を調べて、ラム肉70本と、美味おいしい豚肉を買ってこられて、振る舞ってくださいました。キャスト、スタッフみんなで七輪で焼いて食べ、すごくいい思い出になりました! また、中井さんは、スタッフが砂利道で機材を運んでいる時に、手伝ってくださいました。

撮影は4月だったのですが、結構暑かったんです。そんな中、宮本信子さんが、『暑いからみんなにも水分をとってもらって』『あの人がしんどそうだけど大丈夫かしら?』などと、スタッフ全員に水を用意して、私たちの体調を気遣ってくださったこともありましたね。こういうことの積み重ねで、キャストとスタッフの“ファミリー”感が醸成されていったのかもしれません。」(高城さん


豪華キャスト陣の演技のぶつかり合いに注目

遠野という土地に滞在して撮影することで、原作が描き出す“ふるさと”を丁寧に映像化した本作。リアルな環境は、俳優陣の熱演を引き出すことにもプラスに働いた。

「遠野のような原風景を見ると、実際に自分がそこで生まれ育ったわけではないのに、どこか懐かしい気持ちになります。そんな環境の中で、豪華キャスト陣のみなさんが、すごい演技のぶつかり合いをしてくださいました。一対一のシーンは、緊張感あふれる舞台の会話劇を見ているようでした。

きっとドラマをご覧になるみなさんも、登場人物が駅に降り立った瞬間から、一緒に里帰りするような、リアルな気分を味わえると思います」(高城さん

ストーリー展開は原作を丁寧になぞって進んでいくが、ドラマオリジナルの要素があるのも楽しみの一つ。その筆頭に挙げられるのが、登場人物たちを故郷の実家へといざなってくれる柴犬のアルゴスだ。

「のこちゃんという俳優犬なのですが、この子がすごくいい仕事をしてくれました! 『日本で一番忙しい柴犬』と言われている超売れっ子さん。のこちゃんも、豪華俳優陣のうちの1匹で、キーパーソンならぬ、キードッグでもあるので、ぜひ注目してみてください!」(高城さん


特集ドラマ「母の待つ里」(全4話)

第1・2話:9月21日(土) NHK BS 午後9:00~10:29
第3・最終話:9月28日(土) NHK BS 午後9:00~10:29

【物語のあらすじ】
仕事人間の松永徹(中井貴一)にとって、それは40年ぶりの里帰りだった。おぼろげな記憶をたよりに実家にたどり着くと、母(宮本信子)は笑顔で迎えてくれた。嬉々として世話を焼いてくれる母、懐かしい家、懐かしい料理に、徹は安らぎを感じる。しかし何故だか、母の“名前”だけが思い出せない…。
一方、古賀夏生(松嶋菜々子)も久しぶりの「里帰り」をする。夏生が向かった先も、「同じ母」が待つ家。
そして、妻を失った室田精一(佐々木蔵之介)も、居場所を求めて「同じ母」が待つ「ふるさと」へ向かう……。

原作:浅田次郎 『母の待つ里』
脚本:一色伸幸
音楽:渡邊崇
文楽人形監修:桐竹勘十郎
出演:中井貴一、松嶋菜々子、佐々木蔵之介、満島真之介、坂井真紀、鶴見辰吾、根岸季衣、伊武雅刀、中島ひろ子、五頭岳夫、松浦祐也、菜葉菜、矢柴俊博、入山法子、大西礼芳、永田凜、のこ、宮本信子、 [文楽場面]桐竹勘十郎ほか

プロデューサー:石井永二(テレビマンユニオン)
ゼネラルプロデューサー:杉田浩光(テレビマンユニオン)
制作統括:高城朝子(テレビマンユニオン)、訓覇圭(NHK)
演出:森義隆
企画・演出:阿部修英(テレビマンユニオン)

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兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。