9月1日(日)より放送開始のBS時代劇「おいち不思議がたり」で、主人公のおいちを演じる葵わかなさん。無念のうちに亡くなっていった者たちの「声」が聞こえ、「姿」が見えるという特別な力を持つおいちは、悩みながらも誰かのために行動を起こし始める。

原作は、あさのあつこさんの同名小説シリーズ。時代劇でありながら、ファンタジーやミステリーの要素もあり、また、少女が自らの力で人生を踏み出そうとする青春ストーリーでもある。葵さんがどういう気持ちでおいちを演じたかなど、出演にまつわる話を聞いた。

【物語のあらすじ】
江戸・深川の長屋で診療所を営むしょうあん(玉木宏)の一人娘・おいち(葵わかな)は、父を手伝いながら、医師になることを夢みている。
そんなおいちは、無念のうちに亡くなっていった者たちの「声」を聴き、「姿」が見える特別な力を持っていた。とある事件がきっかけで、おいちは岡っ引きの親分・仙五郎(高嶋政宏)とともに人間の闇に迫り、謎を解いていくことに……。

私もおいちと同じで、いろいろ考えてしまうタイプ

――本作の原作はあさのあつこさんの小説です。葵さんはあさのさんの作品を、小さい頃からよく読んでいたとお聞きしました。

あさのさんの本は、児童館にも学校の図書室にもたくさんありました。身近にあったので、今回、あさのさんの小説の主人公を演じることが決まってすごくうれしかったです。

出演が決まってからこの作品も読んだのですが、時代ものだけど、すごく読みやすかったです。まだ世間をよく知らないおいちという女の子が、自分の不思議な力を使おうと決め、いろいろな人と触れ合うことによって、挫折がありつつも、少しずつ進んでいく姿に感情移入できましたし、おいちに対してすごく愛情も出てきました。

――葵さんは現在26歳ですが、10代後半のおいちと同じ年齢の頃には、既に芸能界で活躍されていました。おいちを演じるにあたって、何か感じたことはありましたか?

昔の女性は結婚するのが早いですよね。だからこそ、そのくらいの年齢でも“大人”になってしまう環境に置かれていることから、随分しっかりしていると感じます。ドラマではおいちの幼なじみも出てきますが、周りの子たちも、自分や自分の行動にすごく自覚や責任を持っているように映りました。今と当時の10代後半は全然違っているので、その差は強く感じましたね。

――おいちと葵さんの共通する部分や、自分にはないけれど、いいなと思うところはありますか?

おいちは、はつらつとしていますよね。私もはつらつとしているタイプだと思うので、そこは共通点かもしれません。ただ、不思議な力があるのは、自分では想像できない部分だったので、初めは悩みました。

おいちは不思議な力で何かを感じた時、感じとったことや相手の気持ちをすごく丁寧に追いかけていく印象があります。私も結構いろいろと考えてしまうタイプなので、そういう部分は私もよくわかりましたし、おいちなりの心情や、おいちゆえの繊細さをしっかりと表現したいと思いました。


「毒も身の内だ。腹をくくれ」は刺さりました

――父・松庵を演じる玉木宏さんとは初共演でしたね。

玉木さんは、穏やかで優しくて、大自然のよう。松庵先生を演じていたからというのもありますが、「まさに松庵先生みたいな人!」と思いました。穏やかな一方、ぶれない何かがあるのですが、でも、それによって誰かを傷つけることはなく、ブレなさと柔らかさの両方を持ち合わせている人でした。

玉木さんの頭や心はいったいどうなっているの? と考えてしまうほど。こんなに穏やかですてきな人はなかなかいないです。

――松庵は、要所要所で説得力のある“名言”を連発する役どころでもあります。松庵のセリフで、印象に残ったものはありますか?

「毒も身の内だ。腹をくくれ」というセリフがあるのですが、「確かに!」と、私にすごく刺さりました。

自分がいいことだと思っていても、誰かにとってはそうじゃないということはたくさんあります。ただ、一度やると決めたんだったら、たとえ誰かが不幸になるとしても、それも全部含めた上で「やる」って決めて進んでいけよ、ということだと私は認識しています。毒の部分も飲み込むというのは強さであり、優しさでもある。今も心に残っています。


「年の離れたバディ」仙五朗親分

――おいちは、髙嶋政宏さん演じる岡っ引きの仙五朗親分と出会い、さまざまな謎を追うことになります。髙嶋さんとの共演はいかがでしたか?

髙嶋さんはまっすぐで、淀みのないところがかっこいいですし、その淀みのなさがすごみにも感じられました。一方で、初めて会う人に対してもすごく優しい方。おいちと仙五朗親分もこんな感じでコミュニケーションを取っていったのかなと、髙嶋さんに重ね合わせていましたし、年の離れたバディという関係性もいいなと感じました。

――おいちは不思議な力によって、目に見えないものが見えたり、声が聞こえたりします。そのことに悩みながらも、事件や謎をなんとかしようと奮闘する姿は、あまり人に踏み込まない風潮が強い現代だけに、かえって新鮮に見えます。

おいちと松庵は長屋で暮らしていて、長屋の人たちは、お互いに助け合って生きています。でもそういう関係性って、現代ではなかなかないですよね。助け合いをじかに感じることがほぼなくなってきていますが、 誰かの心を治せるのは結局のところ、誰かの心。この作品はそういった部分の大切さを伝えていると思うので、それがみなさんにも響いたらいいなと感じています。

――これからドラマを観る方にメッセージをお願いします。

不思議な力や医療などの要素だけでなく、さらには事件が起き、その謎を追っていくミステリー要素と、時代劇というジャンルに収まらない、盛りだくさんのストーリーになっています。

なので、初めて時代劇を観る方にとっても観やすい作品になっていると思います。私がこのドラマの好きなところの一つに、事件の複雑さがあるのですが、観ながら次を予想する楽しみもありますね。

一方で、心が温かくなったり、苦しくなったりする場面もあり、心と心のつながりといったすてきなテーマも隠されているので、ぜひ楽しんで観ていただけたらと思っています。

あおい・わかな
1998年生まれ。2009年に女優デビュー。以降、ドラマ、映画、舞台、ナレーションなど幅広く活動。’17年には連続テレビ小説「わろてんか」(NHK)で、ヒロイン・藤岡てん役を演じた。’19年にミュージカル『ロミオ&ジュリエット』で初舞台&初ミュージカルに挑み、舞台にも活躍の場を広げた。同年、第43回エランドール賞新人賞を受賞。最新作は、ドラマ「ブラックペアン シーズン2」(TBS系)、舞台『セツアンの善人』など。


BS時代劇「おいち不思議がたり」(全8回)

9月1日(日)スタート
毎週日曜 NHK BS/BSP4K 午後6:45〜7:28

原作:あさのあつこ『おいち不思議がたり』シリーズ
脚本:宮村優子
音楽:遠藤浩二
出演:葵わかな、工藤阿須加、財前直見、髙嶋政宏、玉木宏ほか
演出:岡田健ほか
制作統括:佐野元彦(NHKエンタープライズ)、磯智明(NHK)

BS時代劇「おいち不思議がたり」NHK公式サイトはこちら

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。