新・介護百人一首

寝たきりの
母が眺むる
空は海
雲は白波
鳥は船なり

愛知県磯村 紀咲子 75歳)

兵庫県 山本光範
愛知県 内田陽菜
愛知県 匿名希望
兵庫県 四元義朗
愛知県 白井楓梛

詞書

病院の九階の個室で母が窓から見る景色は空だけ。ある日「船が見える」との つぶやきに私も母の横で寝て同じ目線で見ると、なるほど、空は海でした。

感想コメントをいただきました

茂木健一郎

身体の自由がきかなくても、また、そうだからこそ、心は自由に想像をめぐらせることができる。お母さまのご様子を見守っている作者の中で、そのような着想が生まれたこと自体がすばらしいことだと思います。見える世界は物理的には限られていても、精神的には無限の広がりを持っている。しかも、空を海に見立て、雲を白波と想像し、空を行く鳥が船であるとイメージする文学的飛躍がある。一読して忘れがたい歌です。

茂木健一郎

1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。