8月7日、東京・渋谷のNHK放送センターで土曜ドラマ「Shrinkシュリンク―精神科医ヨワイ―」の試写会が行われ、出演者の中村倫也さん、土屋太鳳さん、演出の中江和仁さんが出席した。

本作は、雑誌『グランドジャンプ』(集英社)で連載中の同名漫画が原作。

のんびり屋だが優秀な精神科開業医・よわこうすけ(中村倫也)と、一言多いが思いやりにあふれた看護師・あまみや(土屋太鳳)が、弱井が営む「新宿ひだまりクリニック」を訪れる患者たちに丁寧に向き合いながら、それぞれが自分らしい生き方を見つける手助けをしていく物語だ。

会見冒頭で、中村さんはこのドラマを「作る意義のあるドラマ」と表現。

「毎朝起きたらニュースをチェックするのが日課なのですが、連日、悲しいニュースが多く、なんとも言えない気持ちになります。本作は精神医療というものを題材にしていて、今この世の中で、作る意義のあるドラマだなと実感しております。ドラマを通して、まずは(精神医療について)知ってもらうことが大事なのかなと思っています」(中村さん

そして演出の中江和仁さんは、自身の近しい人が何人か、心に病を抱えて死を選んだことがあると語る。本作に込めた思いについて、

「土屋さん演じる雨宮が『私があの時に知っていれば何かできたんじゃないか、 助けられたんじゃないか』ということを語る場面があるのですが、私も同じことをずっと思っていました。その思いがこの作品を作る一番の理由。このお二人が非常に温かい雰囲気を作ってくださったので、幅広い方々に見ていただける作品になったかなと思っております」(中江さん

第1話を見た感想を問われた中村さんは、「自分は主演だけど主演じゃない」と言う。

「この企画をいただいて、原作を読んだときに思ったのは、この漫画を多くの人に知ってもらいたいということ。そのために実写化という形でドラマを作り、間口を広げて届けるのはすごく意義のあることなんじゃないかなと思いました。

主人公は弱井ではなく、病と、それに向き合う患者さんです。それらが(物語の)真ん中に来ているのは、ある種新鮮ですし、そこにフォーカスしてほしかったので、うれしかったですね。だから(クレジットで)自分の名前が一番上に来ているのは、不思議な感じがします」(中村さん

一方、土屋さんは「自分の作品を見るのが苦手」と話す。

「緊張するんですよ。反省ばかり出てきちゃって。でも、そういった不安も緊張も、倫也さんが演じる弱井先生が温かく、りんとしたまなざしで包み込んでくれたので、この作品はたくさんの方の心を温かくするのではないかなと感じました」(土屋さん

また、互いの印象について、中村さんは土屋さんを「細かいことに気がつく人で、モノ作りする上でしっかり一つ一つを気にかけながら作る方」とコメント。土屋さんは中村さんを「現場の空気と作品の空気をふわっと重ねて、溶け込むように役に入っていく方」と表現した。そして、

「たぶん倫也さんだったら、作品の空気を壊すこともできるんでしょうけど、壊さないようにその場に座って、シーチキンのおにぎりを食べ、突然歌いだすという(笑)。私はちょっと世代が違うので、何の歌かほぼ理解できてなかったんですけど、楽しいんだろうなっていうのは伝わってきました(笑)」(土屋さん

と、現場の楽しい雰囲気を振り返った。

今回、医師を初めて演じるという中村さん。ふだん、台本以外で活字を読むことは少ないが、分厚い専門書を10冊も読んで現場に臨んだという。

「精神科医の役なので、リアリティーを言葉に乗せられるよう勉強したんですけど、きりがなくて。精神科医は短い診察時間で患者に病名をつけ、治療していきます。しかも、命に関わる医療ですから判断が難しいし、人によってケースも違悩んでってきます。微妙なものを見極めていくのは責任重大です。

今まで僕は、医師の役をやったことがなかったので、以前『どんな役を演じてみたいですか』と質問された時に、『やったことがないので、医者ですかね』って答えていたんです。でも、簡単に言っちゃダメだったなと思いました。本当に責任重大なので。

このドラマはフィクションですが、実際の医師の方が見てくれるかもしれない。そう考えたら中途半端な準備はできないじゃないですか。医師の大変さのへんりんを少しだけ見ることができたかもしれません」(中村さん

土屋さんも、精神科の病院で働く看護師を演じ、感じるところがあったという。

「よく母に、『自立と孤立は違う』と言われていたんです。助けを求めたり、寄り添ったりするのはどちらも難しい。家族だからこそ難しい場合もあります。でも、歯が痛くなったら歯医者さんに行けば、痛い部分を抜いたり、削ったりしてくれますよね。心もそれと同じなんだな、と。心にもそういった時間や場所がもっと増えたらいいのに、と感じました」(土屋さん

また、演じる上で意識したことはあるかと問われた中村さんは、医師としての「患者との距離感」を挙げた。

「弱井先生は、患者さんと一緒に外に出ることもあって、こんな先生がいたらいいんですけど、なかなかいない。僕個人としては、目の前でつらそうにして、心境を打ち明けている人や、つらい状況を見たら、やっぱり心が引き寄せられてしまいます。

ただ、弱井は医師としての立ち位置に居続けなきゃいけない。精神科医としての弱井はどうあればいいんだろうとずっと考え、そのバランスを常に探していた気がします。

でも、これは答えを見つけちゃダメだなと思いました。『こうやるべき』だとか、『こうしなきゃいけない』と決めちゃうと、そこで止まってしまうので。人や状況に合わせて、どれがベストかなっていうのを探していましたね」(中村さん

土屋さんは、雨宮を演じつつ、視聴者と作品の架け橋になることを意識していたという。

「見てくださっている方々の疑問は弱井先生に直接聞くことはできないけど、雨宮が『なんで?』って聞けば、弱井先生は答えてくれる。だから、私は架け橋になるつもりで臨ませていただきました」(土屋さん

中村さんと土屋さんが丁寧に向き合ってつくり上げたドラマ「Shrinkシュリンク​―精神科医ヨワイ―」、8月31日(土)からの放送を楽しみに待ちたい。


土曜ドラマ「Shrinkシュリンク―精神科医ヨワイ―」(全3回)

2024年8月31日(土)スタート
毎週土曜 総合 午後10:00〜10:49/BSP4K 午前9:25〜10:14

【物語のあらすじ】
弱井幸之助(中村倫也)は、新宿の下町の路地裏で小さな精神科医院を経営している。弱井は、患者たちの声を丁寧に聞き、症状に根気よく向き合うことで、他の医者が見抜けなかった病名を探り当て、どの患者にも希望を与えてくれる。患者は弱井に出会うことで、“自分なりの生きやすい生き方”に巡り会うのだ。

初めて精神科で働くことになった看護師・雨宮有里(土屋太鳳)は、患者と真剣に向き合う弱井の姿を見つめ続けることで、精神科診療の奥深さにられていく。しかし、弱井は、雨宮が知らない悲壮な過去を抱えていた――。

原作:『Shrink~精神科医ヨワイ~』原作/七海仁 漫画/月子
脚本:大山淳子
音楽:富貴晴美
音楽プロデュース:福島節
演出:中江和仁
出演:中村倫也、土屋太鳳、井桁弘恵、三浦貴大、竹財輝之助、酒井若菜ほか
制作統括:阿利極(AX-ON)、樋口俊一(NHK)
プロデューサー:齋藤大輔、久保田傑(オフィス・シロウズ)

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。