8月31日(土)にスタートした土曜ドラマ「Shrink―精神科医ヨワイ―」。雑誌『グランドジャンプ』(集英社)で連載中の同名漫画が原作で、心の悩みを抱えて苦しい思いをしている人や、彼らを支える周囲の人たちの共感を得ている作品だ。
映像化にあたり、のんびり屋だが優秀な精神科開業医・弱井幸之助を演じるのは中村倫也。医師を演じるのは本作が初めてとなる。また、ひと言多いが思いやりにあふれた看護師・雨宮有里を土屋太鳳が演じる。都会の片隅にある「新宿ひだまりクリニック」を舞台に、どのようなドラマが繰り広げられるのか。2人に話を聞いた。
弱井は「一人も命を無駄にする人を出したくない」という信念で行動している
――それぞれが演じられた役はどのようなキャラクターですか。また、自分と似ているところや、共感できるところはありますか?
中村 弱井って、どんな人なんですかね……。精神科医としての場面はいっぱい出てくるけど、パーソナルな部分は片鱗しか出てこないんですよ。だからよくわからない。でも、彼自身は大事なものをちゃんと持ちながら、模索しつつ精神科医として向き合っていると思うんです。
精神科医としてのリアル、「こんな医者がいてくれたらいいな」という、いい意味での創作の部分、弱井という人間のスタンスやモットー、なぜここまで一人ひとりの患者にお節介とも取れるような関わり方をしているのか……。演じる上では、目線の配り方、声の出し方、相槌まで、そんなさじ加減をずっと模索しながら撮影していました。
弱井はおそらく、「一人も命を無駄にする人を出したくない」というところが大事で、その信念をできる限り具現化するために行動している人。もうちょっと彼が自分自身のことをしゃべってくれたらわかるんですけど、そういうところはしっかりと筋が通っていて、まっすぐ立とうとしているところは見て取れます。
人に寄り添える、支えになれるような存在として、ただそこに根を張って立とうとしている感じは、僕も演じていてすてきだなって思いました。
土屋 弱井先生は、とても長いセリフがたくさんあるけれど、私が演じる看護師の雨宮は突然話し出すキャラクターなので、その塩梅が難しかったです。ドラマを観ている人は弱井先生に質問を投げかけることはできないけど、横にいる私にはできる。視聴者のみなさんとの橋渡し的な役割を担う、とてもいい役だなと感じました。
――ドラマの主な舞台となる「新宿ひだまりクリニック」は、庭がある一軒家で、病院名どおり、まさにひだまりのような空間ですね。
中村 あれ、リアルに存在するお宅を借りて撮影させてもらったんです。照明で狙って木漏れ日を作らなくても、木漏れ日のある場所を制作部が見つけてきてくれたという。いい仕事したね、って思いました(笑)。
土屋 あのお宅は、月に1回、地域のコミュニティーの場になっていて、音楽を演奏する場所になったりするそうです。その地域の方々にとって、弱井先生みたいな存在の場所なのかなと思いながら演じていました。
――中村さんは、今回が初の医師役ということで、精神医学に関する本を10冊も読んだそうですね。演じてみて精神医療について知る機会になりましたか?
中村 お医者さんは本当に大変だな、と感じました。でも、そこから先の精神医療とは何か、というところは、ひと言では到底語れないので、ドラマを観てほしい、としか言えないですね。
でも、ひと言で言えないからこそ、ドラマを作る意義があると思うんです。精神医療をテーマにしたこのドラマを観た人が、それぞれの中で育んで、ちょっとでも心に残るものがあればと感じています。
――土屋さんはこのドラマが、演技や演出について改めて考える機会になったそうですね。
土屋 ドラマの中で、雨宮は、精神医療や弱井先生のことをほとんど何も知らない状態で働き始めます。演じるにあたっては、そんな雨宮が弱井先生からどんな影響を受けていくのか、患者さんとはどういう立ち位置でいるのか、果たすべき役割は何なのか……と考えていった時、私自身、ちょっとわからないところがあると感じたんです。
でも、逆にわからないという感覚もすごく大事だと気づきました。雨宮自身が、わからないなりにいろいろ学んでいくように、私自身も学びたいし、お芝居ではこうやっていきたい、こういう現場に出会っていきたい、という思いに改めて気付かされました。
自分の幸せを大切にして、心の中に土台を持っておくことが大事
――お二人とも、仕事もプライベートもかなりご多忙だと思うのですが、ストレスを抱え込まないような気分転換法やリフレッシュ法はありますか?
土屋 私の気分転換はお風呂や料理かな。俳優って、演じる上でつらいことがあったり、ハプニングがあったりすると、そこが取り上げられがちですよね。それに、演じる役は、何かが欠けていたり、何かを抱えている場合が多いから、演じる自分も幸せになっちゃいけないんじゃないかっていう思考に入ってしまう時があるんです。プライベートが幸せだと、いいお仕事ができないのでは?と思ってしまうというか……。
でも、そうではなく、いかにして自分の感情の“層”を作るか、ということこそが大事なんじゃないかと、最近すごく思うんです。私には家族がそばにいてくれる。その幸せを大切にして、心の中に土台を持っておくことが大事なのかな、と感じています。
中村 僕はたぶん、現場で人とモノを作ること自体がすっごい気分転換になっているんです。だから、仕事で補えちゃってるんですよね。現場で、みんなですったもんだありながら、頭悩ましながらも作ってるのがすごく楽しいし、生きがいに近い何かになっています。
食べることも気分転換にはなるけど、生きるために食べるのが根本なわけで。食べなきゃ死にますからね(笑)。気分転換する必要がない理由は何なんだろうって改めて考えると、仕事も、家にいる時も、どんな時もたぶん違った楽しさがあるからなんだろうなと思います。
――このドラマをご覧になっている人、そしてこれからご覧になる方にメッセージをお願いします。
中村 精神医療のことを知ってもらうことが大事、ということをベースに、役柄に挑んで作品を作りました。誰かにとってこういうことを知る機会になれば、この作品の存在する意義があるなと思います。
土屋 自分や周りの人、大切な人たちが抱える不安なものに対して、とても温かく、凛とした光を当ててくれる作品になっています。だから、その不安から脱出できるきっかけになれば、そして誰かに寄り添えるようなきっかけになったらうれしいです。
土曜ドラマ「Shrink―精神科医ヨワイ―」(全3回)
毎週土曜 総合 午後10:00〜10:49
毎週土曜 BSP4K 午前9:25〜10:14
弱井幸之助(中村倫也)は、新宿の下町の路地裏で小さな精神科医院を経営している。弱井は、患者たちの声を丁寧に聞き、症状に根気よく向き合うことで、他の医者が見抜けなかった病名を探り当て、どの患者にも希望を与えてくれる。患者は弱井に出会うことで、“自分なりの生きやすい生き方”に巡り会うのだ。
初めて精神科で働くことになった看護師・雨宮有里(土屋太鳳)は、患者と真剣に向き合う弱井の姿を見つめ続けることで、精神科診療の奥深さに魅了されていく。しかし、弱井は、雨宮が知らない悲壮な過去を抱えていた――。
原作:『Shrink~精神科医ヨワイ~』七海仁(原作)、 月子(漫画)
脚本:大山淳子
音楽:富貴晴美
音楽プロデュース:福島節
演出:中江和仁
出演:中村倫也、土屋太鳳、井桁弘恵、三浦貴大、竹財輝之助、酒井若菜ほか
制作統括:阿利極(AX-ON)、樋口俊一(NHK)
プロデューサー:齋藤大輔、久保田傑(オフィス・シロウズ)