2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」とはまったく別の視点で、平安時代末期を描いたのが2012年大河ドラマ「平清盛」だ。その放送時に、NHKウイークリーステラにて人気を博した歴史コラム、「童門冬二のメディア瓦版」を特別に掲載!

雅仁親王は御所内における自身の扱われかたや性格もあって、生きる関心が次第に“庶民目線”になります。そして魅せられたのが“今様”でした。

今様というのは、「現在の流行」というイミです。平安末期のカラオケソングといっていいでしょう。

この時代は庶民にとって、“末法・末世”意識がもっとも高まったころです。末世というのは“この世の終わり”であり、“末法”というのは、“ホトケ様のいなくなった時代”ということです。

つまり“倫理(人のまもるべき道)”のなくなった世の中にあきれたホトケやカミが、日本を見捨てて、どこかへいってしまった、ということなのです。

ほんとうなら、こういう精神の漂流者たちを救うのが宗教の役割なのでしょうが、当時は宗教そのものが貴族の独占物であり、庶民には手のとどかないものでした。

まず第一に修行そのものが大変で、お経も漢字がズラリと並んで、庶民にはよめません。また比叡山などの勉学はきびしく時間やお金がかかります。そして、お坊さんの世界にも身分階級制がありました。

結局、庶民は身近なところで、自分たちのもっている資源を、庶民なりに生かす方法を探して、いろいろな工夫をしました。そのひとつが“今様”です。

イラスト/太田冬美

ぼくは今様を、
“権力に忘れられた人びとが、自分たちで生んだお経のようなもの”
だと思っています。若いころから好きで、いまもっている今様の本(『りょうじん秘抄』岩波文庫)はボロボロです。

『梁塵秘抄』は、雅仁親王(後白河天皇)が集めた歌謡集だ、といわれています。後世、北原白秋などの詩人にも大きな影響を与えました。酔うと路上でくちずさむ、ぼくの好きな歌謡をいくつかご紹介します。

仏は常にいませども、
うつつならぬぞあわれなる、
人の音せぬ暁に、
ほのかに夢に見えたま

遊びをせんとや生まれけむ、
戯れせんとや生まれけん、
遊ぶ子どもの声聞けば、
わが身さへこそゆるがるれ

わが子は二十になりぬらん
博打ばくちしてこそありくなれ、
国々のばくとうに、
さすがに子なれば憎かなし(略)

(NHKウイークリーステラ 2012年5月11日号より)

1927(昭和2)年、東京生まれ。東京都庁に勤め、広報室長、企画調整局長、政策室長などを歴任。退職後、作家活動に入り、歴史小説家としてあらゆる時代・人物をテーマに作品を発表する。