NHK財団の国際制作部は、NHKワールドJAPANで放送するため、国内番組の英語化を担当しています。

今回は、Eテレで放送し、NHK for Schoolに掲載されている「はりきり体育ノ介」を英語化。番組は運動が苦手なサイボーグ「体育ノ介」が、一流アスリートのお手本によって、体育ができるようになっていくというもの。さかあがりやとび箱など、小学校の体育で習う運動をマスターしていきます。


「体育ノ介」は「Fizz Edward」?

英語化最初の難題は、主人公の名前「体育ノ介」でした。日本語の名前は漢字の組み合わせで、ある程度自由度が高いけれど、英語では決まった名前の中から音の響きなどを考慮して選ぶしかありません。

そこで「体育」を指すPhys Ed(フィズ・エド、Physical Educationの略)から考えたのが「Fizz Edward(フィズ・エドワード)」。PhysとFizzは、発音は同じですがスペルが違います。Physが「身体的な」という意味であるのに対し、Fizzは炭酸などの「泡」の意味で、軽やかなイメージとなります。これは体育ノ介にぴったり!

それに続くEdwardは男の子の名前で、愛称としてEdと呼ぶこともあります。愛称を「Fizz Ed」とすると、体育の「Phys Ed」と同じ響きになります。そこで、体育ノ介を造った博士に、場面に応じて「Fizz Ed(フィズ・エド)」と愛称で呼ばせることにしました。

博士と体育ノ介。

「体当たり」の英訳作業

さて、この番組ならではの難しさは、身体に関する語句の英訳でした。例えば、日本語の「足」を、英語ではfoot(足首より下の部分)とleg(足首より上からももの付け根まで)で区別します。

いずれも中学生で習う言葉ですが、アクションの中で出てくると悩ましい。「さかあがり」の回では、「蹴り足は鉄棒の真下か少し前!」「片足を振り上げもう一方は地面を蹴る!」という説明があります。この「足」はfootなのかlegなのか?映像に合わせて体を動かすと、蹴るときにはfootを使っていることが分かります。そして振り上げるのは足全体だからleg。まさに体当たりの英訳になりました。そしてできた英訳は以下のとおりです。

 「Place the foot of the leg you'll push off on right below or slightly in front of the bar. Swing the other leg up into the air and push off on the foot below the bar.」

さかあがり
とび箱

同じように、「手」もhandとarmを区別します。「ブレイキン」の回では「手を前に伸ばすと同時にキック!」という説明があります。ここでは実際に伸ばすのは「腕」なので、「Extend your arms as you kick.」 としました。

このように元の言葉のイメージをしっかりと理解していくと、その言語に適した英語表現が生まれてきます。頭と体のよい運動となりました。

やる気を引き出すポジティブな表現

番組は、体を動かす楽しさと同時に、出来なかったことができるようになる喜びを伝えてくれます。日本語では前向きな表現が使われていることに気づきました。

例えば、博士は体育ノ介がなぜできないかを説明する時には「『できないポイント』分析!」と言います。この言葉は、これらのポイントを理解し改善したら出来るようになる、と思わせてくれます。そこで英語も前向きな表現を大切に「『できないポイント』分析」は、これをクリアすれば上達できるポイントという意味で「Analyze Improvement Points」としました。

番組のラストでは、子どもたちがタブレットでお手本の映像を見ながら練習するシーンも出てきます。学校の授業というより、博士と体育ノ介のノリノリなテンションに引っぱられて、運動を楽しんでいるように見えます。英語版制作を通じて、世界中のこどもたちが "Fizz Ed (体育ノ介)"と一緒に元気で体を動かしてくれること期待したいです。

「はりきり体育ノ介」の英語版「Fit With the Doctor’s Cyborg」は、こちらのNHKワールドJAPANのサイトでご覧いただけます。

取材・文/NHK財団 国際事業本部 羽吹 香里(英語版制作プロデューサー)
プロデューサーとして、英語ネイティブの和英翻訳のプロや制作者との調整、音響効果、収録、字幕、テロップ入れなどのスタジオ業務など全般をまとめ、番組を完成させています。それらは、NHKワールドJAPANで放送、または国際コンクールに出品されています。