日本で初めて法曹の世界に飛び込んだ三淵嘉子さんをモデルに、主人公・いのつめとも(伊藤沙莉)が困難な時代に立ち向かい、道なき道を切り開いてゆく姿を描く、連続テレビ小説「虎に翼」。4月の放送開始以来、SNSやWEBで大きな共感と感動の声が集まっている。

第9週、一度は法曹の道をあきらめ、愛する夫、兄を戦争に奪われ、父をも亡くした寅子が、新しい日本国憲法を胸に、力を振り絞って立ち上がるまでが描かれた。
そして第10週(6月3日~)から物語の舞台は戦後、“裁判官編”へ――。

ドラマの制作統括である尾崎裕和チーフ・プロデューサーに、これまでの反響をどう受け止めているか、また、後半の見どころなどを聞いた。


――SNSなどでも、視聴者の方からたくさんのプラスの声が届いているかと思います。どのように受け止められていますか?

本当にしっかり見ていただいて、私たちがこのドラマで描きたいと思っているテーマに反応してくださっているなと感じます。

脚本の吉田恵里香さんが描こうとしている、女性がこの社会で生きていく上での生きづらさであったり、苦労であったり――もちろんその中には喜びもあるのですが――それは多分、過去も現在も同じだと思うんです。

それを自分ごととして受け止めていらっしゃることが伝わるリアクションが多いので、とても嬉しいし、ありがたいですね。

――そういったリアクションも踏まえて、改めて、吉田さんの書かれる脚本の魅力をどこに感じていますか?

作品のテーマを表現するにあたり、何をどう描くべきか、ゼロベースで考えられているところですね。たとえば、朝ドラは子役から始まることが多いですが、「虎に翼」は伊藤沙莉さんの本役で始めました。それは、寅子の人生における最初のターニングポイントが、女学生時代に法律と出会うところだからです。であれば幼少期は必要ない、と。「虎に翼」という物語にとって何が大事なのか、イチから思考して脚本を作り上げています。

――第9週で終戦を迎えましたが、戦争をどう描くかという面で、「虎に翼」ならでは、吉田さんならではの部分はありましたか?

「虎に翼」ならでは、ということではないかもしれませんが、印象的に感じたのは、玉音放送のシーンがないことでしょうか。

物語が戦争をまたぐ作品にはよく出てくるシーンですが、物語を検討する中で、なくてもいいよねということになりました。寅子にとって重要なのは、戦争が終わったあとの日本国憲法。

「この戦争が個々の人間にとってどんなものであったのか」ということをしっかり描きたいから、自然と個人の物語に注目していく。だからみんなでラジオの玉音放送を聞くシーンではなく、花江や寅子など、それぞれのところに戦死の知らせが届くような場面の方にフォーカスを当てる結果になったのかなと思っています。

――第9週までの放送で、演出や俳優さんのお芝居で、想定以上のシーンになったなと思われた場面はありましたか?

放送が近いせいもあるのですが、第8週から第9週で描かれた、優三(仲野太賀)と寅子の河原でのシーンでしょうか。

伊藤さんと仲野さんは別のドラマでも共演されていて、非常に深い信頼関係があるんですよね。もちろん物語の流れがあってのことですが、お互いすべてを“出し切った”シーンになっていると感じたので、そこはすごく印象に残っています。

本番中にモニターを見ながら、伊藤さんと仲野さんのマネージャーさんが両方とも泣いていらしたのも、印象深い理由の一つかもしれません。僕も心では泣いていました(笑)。

――第10週から舞台が戦後に移り、新しい登場人物の発表もありました。後半の見どころ、キーパーソンについてはいかがでしょうか?

人生の新たなスタートということで、寅子が裁判官になるまでの過程を描くことも含めて、“裁判官編”に入っていきます。がっつり“お仕事”――リーガル・エンターテインメントとして、 職場で寅子がどう闘っていくかを描きたいなと。

第10週からのキーパーソンで言うと、沢村一樹さんが演じるどうよりやす、そして滝藤賢一さんが演じるがわこうろうの2人は後半の重要人物です。

2人とも仕事に対して非常に誠実なのですが、久藤はダンディーで、あまりにジェントルマンであるがゆえに周囲からやや浮いている。多岐川は、モチーフにしている方自体に面白いエピソードがたくさんあることもあって、ある種エキセントリックに見えてしまうキャラクター。

他にも、同じ裁判官の同僚として岡田将生さん演じる星航一という人物も出てきますし、寅子は次々と新しい人々に出会っていきます。寅子が本格的に法律と向き合う中で、そういった新しい法曹界の面々とどう対峙し、どう闘って乗り越えていくかというところは、大きな見どころかなと。

一方で、これまで寅子と過ごし、一度は離れ離れになってしまった人たちの人生が、もう一度交錯していきます。今まで見ていただいた方も、より楽しめるものになると思うので、引き続き、期待して見ていただけると幸いです。