花岡(岩田剛典)の郷里の友、轟太一。初登場時こそ「男と女がわかりあえるはずがない!」と主張してとも(伊藤沙莉)たち女子部メンバーから煙たがられていましたが、ほどなく評価は一転。暑苦しいところもあるけれど、ド直球で裏表がない轟は、寅子たちとも、志を同じくする“戦友”としての絆で結ばれていきました。

轟役の戸塚純貴さんに、役作りで気を付けたことや、花岡との関係性をどう捉えているのかなどを伺いました。


日常会話ではありえない声量でしゃべろうというのは、最初から意識していました

――明律大学法学部のメンバーの中でも、ひときわ個性的な轟ですが、戸塚さんは轟をどんな人物だと思われますか?

寅子たちと出会ったころの轟は、「男は男らしく、女は女らしく」という、当時としてはわかりやすい価値観を持っていました。それが男尊女卑に見える部分もありますが、実は轟の中ではもっと絶対的な、“男だから・女だから”を超えた、人としての正義があるんです。

曲がったことが大嫌いで、もしそういう言動をしたら男女関係なく怒るし、正そうとする。そこはある意味、平等なんですよね。台本をいただいてすぐ、かなり愛せるキャラクターだなと感じましたし、演じがいがある役だなとも思いました。

――寅子たち女子部メンバーについて、轟なりの褒め言葉として“男らしい”と表現するシーンもありました。轟のいう“男らしさ”とは、どんなものだと考えていますか?

裏表がないこと、己の信念を曲げないこと、誰に対しても誠意をもって接すること……などでしょうか。だから轟の言う“男らしさ”って、実は性別にはあんまり関係ないものなんですよね。自分でも、途中でそう気づいていましたが。頭が固そうでいて柔軟だし、多様性への理解もある。

だから、最初のころも別に、女性陣に対して意地悪していたわけではなくて、彼なりの優しさをちゃんと持っているんです。誰とでも同じ目線で話せる人なのかなと思っています。

――第4週の初登場シーンでは、友人である花岡悟との対比もあって、かなり視聴者にインパクトを与えたと思います。轟を演じるうえで大事にされていることはありますか?

初登場で、ひとこと目のセリフが「笑止!」でしたからね(笑)。これまで生きてきて、ほぼ言ったことないですよ、「笑止」。あのセリフもですが、どんな場面でも常に声を張るようにしています。

日常会話ではありえない声量でしゃべろうというのは、最初の段階から意識していました。視聴者の方はきっと、轟が出てくるとテレビの音量を下げてるんじゃないでしょうか(笑)。

――声量はもちろんのこと、いでたちも他の学生たちと違います。扮装でも、轟らしさを出したい、というようなことはあったのでしょうか。

衣装については、衣装合わせのとき監督がボロボロの学生服を用意してくださっていたんです。「ああ、時代的に、みんな学生はそういう感じだったのかな」なんて思っていたのに、いざ撮影が始まったら、僕以外は普通のパリッとした制服で。あ、時代は関係ないんだ、あくまで轟太一というキャラクターがこうなんだ、と気づきました(笑)。

でも、別に轟が苦学生という設定でもないので、「もしかすると、轟はわざと制服をボロボロにしているんじゃないか?」と考え始めたら、なんだかすごくいとおしく感じられたんですよね。轟的な“男らしさ”を、ここで表現しているのかと思ったら、なんてわいいやつなんだ!って(笑)。

ヒゲ面で、制服はボロボロで、裸足はだしに下駄……という外見が定まってきたとき、轟の考える男らしさがどういうものかとか、実は可愛らしいところがあるなとか、中身の部分もどんどん自分の中で広がって、轟という役が出来上がっていったように思います。


轟にとって寅子たちは、友達というより“同志”

――轟と好対照なのが、花岡です。2人の関係をどうとらえて演じられていましたか?

全く違うタイプですが、地元の友達ということもあって、しっかりした友情、絆が2人の中にあると思います。ただ、東京で暮らし始めて、さらに寅子たちが編入して共学になる中で、花岡がどんどん都会に染まっていって……轟からすると「男らしくない」と思うことも増えてきた。

だから怒ったり、たしなめたりするんですけど、それは単純な怒りではなくて、自分が知っている花岡じゃなくなっていく寂しさもあるのかなと感じています。2人の関係性については、この後もぜひ注目してほしいです。

――今週は、花岡が婚約者を連れているところに遭遇して、寅子より轟のほうが怒り、「それでいいのか」と花岡を問い詰めるシーンがありました。

あれも、花岡を大事に思うからこその怒りですよね。幸せになってほしい人だから「それでおまえは本当にいいのか」と詰め寄った。轟にとっては、やっぱり花岡が特別な存在だし、大好きなんだと思います。

他にも同級生はたくさんいるのに、とにかく花岡のことしか見てないですから(笑)。仲間としても好きだし、これからの花岡に対してすごく期待もしている。ずっと見ていたい存在なんでしょうね。

――あれだけ怒るということは、寅子もまた、轟にとっては大きな存在になっているのでしょうか?

寅子だけでなく、女子部のメンバー全員を、同じ夢と目標を持った“同志”だと感じていると思います。信念でつながっているし、支えあっている存在なのかな。
学生時代は苦楽を共にした彼らだけど、高等試験に落ちたり受かったり、どこかに就職したりしなかったりする中で、別れと再会を繰り返していくと思うんです。

でもまた会えたときには、絶対に恥ずかしい姿を見せたくない相手――だから、轟にとって寅子たちは、友達というより“同志”という言葉がふさわしいように思います。

――ありがとうございます。最後に、視聴者の方に今後の見どころや、注目してほしい点などについてメッセージをお願いできますか?

登場人物みんなの人生が今後どうなっていくのか楽しみにしていただきたいし、そこがいちばんの見どころだと思います。こんなふうに、俳優が撮影に1年間かけて紡いでいく作品は本当に少ないし、視聴者の皆さんも、それぞれのキャラクターの人生を、まるでそばで見ているかような気分になっていただけるはずです。

「虎に翼」は一昔前の時代が舞台ですが、ストーリーは結構生々しくて、現代に置き換えられるようなことがたくさんある。何より全員、性格も、立場も、家族観も、価値観も、全く違うから、多分どなたでも誰かには共感できると思うんですよ。皆さんが共感できる人生を、これからも“のぞき見”してほしいです。

【プロフィール】
とづか・じゅんき
1992年7月22日生まれ、岩手県出身。NHKでは、ドラマ「PTAグランパ!」「いないかもしれない」「舟を編む〜私、辞書つくります〜」などに出演。近作に、ドラマ「マルス-ゼロの革命-」「となりのナースエイド」「肝臓を奪われた妻」、映画『翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜』『ある閉ざされた雪の山荘で』ほか。