常に男装で、不愛想だけれど法律を学ぶ情熱は人一倍。つらい過去を背負いつつも前を向いて“闘う女性”、それがとも(伊藤沙莉)の同級生、山田よねです。
多くの女性たちが、現状を受け入れ「スン」とする中、絶対に「スン」としない よねの姿は清々しいほど。

よね役の土居志央梨さんに、演じる中で感じたことや、女子部の同級生たちへの思いなどを、たっぷりと聞きました。


「よねってとんでもなく不器用なんだ」と分かってきたんです

――第3週では、あまり自分のことを話さないよねが、悲しい過去を明かしました。土居さんは、よねの生い立ちや背景についてどう感じましたか?

よねは「なんてことない話だ」くらいのトーンで自分の過去を語りますが、当時にしてもかなり覚悟が決まった子どもだったと思います。自分で髪を切って、あんなに怖い父親に対して「女をやめる」って歯向かったわけですから。心の支えのお姉さんがいたとはいえ、本当に1人でずっと頑張ってきたんですよね。

――よねが男装している理由も明らかになりました。

そのことは私も撮影に入る前から気になっていて、監督の皆さんに理由を伺ったんです。よねがどう自分を捉えているのかを知りたくて。そのときの皆さんのお答えは「生きていくための武装というか、められないために男装しているイメージです」というものでした。

なるほど、と思って、そこから髪を切ったり、実際に衣装のスーツを着たりして役作りをしていく中で、最初は「武装」としての男装だったとしても、じゃあ本音ではスカートを履きたいか?というとそうではなくて、髪が短くてズボンを履いている自分が「一番自分らしい」と感じているんじゃないかと考えるようになりました。

よねは男になりたいわけではなくて、自分や姉が“女だから”受けてきた仕打ちに悲しんで、憤っている。性格や格好で判断されるのではなくて、よねはとにかく、ただの「山田よね」という一人の人間として認められたいんだと思います。

でも、「よねはこういう人だ」と決めてしまうと、役が広がらずに縮こまってしまいそうな気もして。ですから今は、よねがこれからいろんなことを経験して、環境もどんどん変わっていく中で、私自身も一緒に経験して、感じたことを表現していくのがいいのかなという気持ちで演じています。

――劇中でも、男装をからかわれるシーンが出てきます。当時その姿勢を貫くのは大変だったろうなと感じました。

あの時代に周囲と違う格好や振る舞いをすることは、きっと信じられないぐらい孤独だったでしょうね。ただ、当時も絶対によねのような思いを抱えた方はいたはずなので、その気持ちを勝手に背負ってやっているようなところがあります。

今も、自分の“居方”や生き方に違和感がある人がいるなら、皆さんに届けばいいな、一緒に頑張りたいなと。

――よねの、ぶっきらぼうな態度、言葉遣いは「誰もわかってくれない」という孤独から生まれているのでしょうか。

それもありますし、怒りをエネルギーにして生きているから、という気もします。演じながら、「よねってとんでもなく不器用なんだ」と分かってきたんですよね。決して周囲に当たり散らしたいわけではなくて、仲よくする方法が分からないのかもしれません。

そんな中で女子部のメンバーに出会って、トラコ(寅子)から「そのままのあなたでいい」と言われたことは、態度には出さずとも、すごく嬉しかったんじゃないでしょうか。

実は私のクランクインは、そのシーンだったんですよ。第3週で、よねが女子部のメンバーや花江(森田望智)に「どいつもこいつも生ぬるい」と怒った帰り道、寅子が「よねさんは、そのまま、嫌な感じでいいから。怒り続けることも、弱音を吐くのと同じくらい大事だって。だから私たちの前では、好きなだけ嫌な感じでいて」と言う場面。

最初は「ここから撮るのは難しいな」と悩みましたが、今はよかったと思っています。あの一言は、よねにとって、とても大きかったはずなので。これまで周囲から「なんでそんな格好してるんだ」「なんでそんな言い方をするんだ」と、さんざん否定され続けてきたのが、初めて肯定された瞬間。そこで、やっとよねは女子部の「仲間」になれたのかなと捉えています。


トラコとよねの今後の関係に注目していただけたら

――演じていても、あれだけ気を張っている役は大変ではないかと感じます。演じるうえで、気を付けている点はありますか?

たしかに、疲れる役ではあります(笑)。自分にとってのフラットな状態でいると、よねとしてはちょっと気が抜けすぎている感覚があって、常に一段階「フン!」と力を入れたところがスタートなので。

でも最近はなじんできたのか、意識しなくても眉間にしわが寄るようになってきました(笑)。ただ、あんまり嫌な人に見えすぎないように気をつけたいなとも思っています。

――怒りは、よねの原動力というようなお話もありましたが、第2週で初登場したあたりの、寅子たちに対するイライラは相当なものでした。

当然、反抗心はありましたよね。自分は「法律を学ぼう、弁護士になろう」という強い覚悟をもって大学に入っているから、同じように骨のある人がいるんじゃないかという期待を持っていたはずなんです。

それが、どうもそうではない。トラコはへらへらしてうっとうしいし(笑)、裕福な子も多くて……。トラコの家でおまんじゅうを作るシーンで、豪華なセットの中に入ったときは「そりゃ腹立つだろうな」と私も思いました(笑)。こんなところで暮らしているのか、って。

よく考えれば、大学はお金がかかりますから、本来恵まれている人が行く場所なんですよね。だから殴り込みじゃないですけど、「負けねえぞ!」っていうプライド、雑草魂みたいなものもあったんじゃないでしょうか。

――そこからの、よねの変化は、演じてみていかがですか?

最初は「自分が一番頑張ってる」「自分が一番偉い」と思っていたのが、みんなにもそれぞれ事情があるんだと気づいてから、だんだん変わっていっているな、という感覚があります。今後も、何かあればワーッと言っちゃうんですけど、あとで家に帰って「言い過ぎたかな」と反省してそう、みたいな(笑)。

よね自身が、まだまだ未熟なんです。それでも本当にちょっとずつですが、気持ちが変化していますし、よねが人に寄り添おうと努力する過程が、演じていても面白いです。

――最後に、土居さんが感じるこのドラマの魅力や、今後の見どころをお願いします。

登場するキャラクターがすごく多様なところが魅力的だと思いますね。女子部メンバーはもちろん、花江とか、いろんな立場や考え方の女性が出てきますし、第4週以降に登場する男性たちも、みんな自分なりに闘っている人なんです。

きっと誰かに共感できると思いますし、また、みんなどこかしらかわいいキャラクターばかり。とってもいとおしい、人間臭い人たちなので、ツッコミつつも「わかるな」と思いながら見てもらえるんじゃないでしょうか。

あとは、トラコとよねの今後の関係に注目していただけたらうれしいですね。犬猿の仲から、少しずつ心を許してきてはいますけど、どれだけ経っても慣れ合う関係にはならないと思っていて。2人の関係がどうなっていくのか、私自身が一番、楽しみにしています(笑)。

【プロフィール】
どい・しおり
1992年7月23日生まれ、福岡県出身。NHKでは、連続テレビ小説「おちょやん」、大河ドラマ「青天をけ」、「太陽の子」など。近作に、映画『二人ノ世界』『世の中にたえて桜のなかりせば』、ドラマ「初恋の悪魔」「姪のメイ」、舞台『広島ジャンゴ2022』『アンナ・カレーニナ』ほか。