テレビ局は、「多様性」にしっかりと向き合えているのか?

NHKのドラマ制作者たちのそんな疑問を起点に、障害のある方への取材で得たエピソードを反映した実録ドラマ、土曜ドラマ「パーセント」の制作が発表された。


【物語のあらすじ】
ローカルテレビ局「P テレ」で、バラエティ班のアシスタント・プロデューサーとして多忙な日々を送る吉澤未来(伊藤万理華)。彼女はいつかドラマ班に異動したいと、企画書を出し続けていた。
ある日、編成部長に呼び出された未来は、自身のドラマの企画が通ったことを告げられる。喜んだのもつかの間、部長は「この企画の主人公、障害者ってことにできへんか?」と未来に尋ねた。局をあげた「多様性月間」というキャンペーンの一貫として、登場人物に多様性を持たせたドラマが必要なのだと言う。
戸惑う未来をよそに、「障害のある俳優を起用する」という条件で企画は進んでいく。当初は、エンターテイメントに振り切った学園ドラマを作りたいと思っていた未来だが、とにかく企画を成立させねばと、取材を進める。
やがて彼女は車椅子に乗った女子高校生・宮島ハル(和合由依)と出会う。俳優を目指すハルに未来は不思議な魅力を感じ、「私たちのドラマに出てください」とオファー。ハルは「障害を利用されるんは嫌や」と拒否するが……。

憧れを抱いてドラマの世界に飛び込んだ、未来とハル。性別や障害で語られる自らの“価値”に何度も悩み、傷つきながらも、お互いの存在に力をもらって、少しずつ前に進んでいく。

本作のテーマの一つが「ポジティブ・アクション」。マイノリティが参加する%(割合)を増やし差別を是正することを意味する言葉で、数を合わせることが重要なのではなく、「意識改革」が目的です。
イギリスの公共放送BBCは、この「ポジティブ・アクション」にいち早く取り組み、性別や障害、人種による差別をなくし、出演機会を増やすため「出演者の○%にマイノリティを起用する」という目標を定め、実行しました。

翻ってNHKの制作現場はどうなのか。もっとアップデートできることがあるのではないか、という問いかけから制作が始まったといいます。
出演者オーディションでは「障害のある俳優」を排除することなく起用したいという思いから、年齢・性別等の枠を設けずに実施し、100名以上の俳優が応募。魅力あふれる表現者たちが集まりました。

劇中、「障害のある俳優を起用する」という局の方針に悩みながらも向き合う若手プロデューサー・役に、夜ドラ「ミワさんなりすます」への出演も記憶に新しい、伊藤万理華さん。
そして未来と出会い、ドラマ出演に挑戦する高校生・ハルを演じるのは、オーディションで抜てきされた和合由依さんです。

これからのテレビ局が「どうあるべきか」という自戒と、「こうしていきたい」という希望を込めたドラマ「パーセント」。多様性社会を生きる全ての人に向けたドラマの放送をお楽しみに。


【主なキャスト&登場人物】

吉澤未来みく役・伊藤万理華さん ★NHK ドラマ初主演

ローカルテレビ局「P テレ」の局員。自身が提案した学園ドラマの企画が採用され、プロデューサーとして制作のチャンスを得る。「ドラマの主人公を障害者に」という条件に悩みながらも、取材を始めることに。

「人との距離感に境界線がなくなればいいのに。
数年前から、物創りを通して考えていたタイミングで『パーセント』のお話をいただきました。
最初は好奇心と恐れで意気込み過ぎていましたが、それは杞憂でした。
ハルを演じたユイちゃんのまなざしに何度も胸を打たれ、引っ張られました。
頑なにならずもっとシンプルに、素直に対"人"、対"あなた"に精一杯言葉を尽くす。
ずっと大切にしてきたことを未来と重ねながら、少しの感情も逃さずに向き合った作品です。
ハルと未来の新鮮なきらめきが『パーセント』に詰まっています。
未来として『パーセント』を作ることができ幸せです!」

プロフィール
1996年生まれ、大阪府出身。主な出演作品にドラマ「お耳に合いましたら。」(TX)、「日常の絶景」(TX)、「時をかけるな、恋人たち」(KTV)など。初主演映画『サマーフィルムにのって』では TAMA 映画賞にて最優秀新進女優賞を受賞、第31回日本映画批評家大賞にて新人女優賞を受賞。NHKでは2023年10月放送の夜ドラ「ミワさんなりすます」(NHK 総合)、2024年4月放送のドラマ 10「燕は戻ってこない」に出演。


宮島ハル役・和合由依さん ★ドラマ初出演

俳優を目指す、車椅子の高校生。障害がある俳優たちが所属する劇団「S」のメンバーとして、放課後や休日に芝居の稽古をしている。未来と出会い「Pテレ」が制作するドラマの出演オファーを受ける。

宮島ハルに出会って、私はこれからを生きていくための力をもらえた気がします。
“自分を生きる”ってとても難しい。 何かにもがいてはまた 1 からスタートして、その度に自問自答を繰り返して、自分を見つめ直す。
人生ってそう簡単に進まない。 だからこそ人は生きれば生きるほど強くなる。
この作品を通して、宮島ハルを演じて、私は“生きる”ということについて考え直しました。
日々成長していくハルと一緒に私も成長できた気がします。
泥臭い部分を持ちながらも、一つ一つの出来事と向き合って一生懸命に生きる彼女の姿ものぞきながら、このドラマが誰かにとって“明日も頑張ろう“と思える、背中を押してくれる作品となりましたら幸いです」

プロフィール
2008年生まれ。東京2020パラリンピック開会式の「片翼の小さな飛行機」役として主役を務める。今回がドラマ初出演になる。


【脚本・大池容子のコメント】

『パーセント』を書くにあたって、プロデューサーの南野さんをはじめとするチームの皆さんと、一年以上、会議や取材を重ねてきました。その中で知ったこと、感じたこと、そして障害のある俳優の皆さんと出会い、「この人たちと作品をつくりたい!」という気持ちが湧き上がってきたことを、主人公・未来の視点を通してふんだんに、正直に台詞せりふの中に盛り込みました。アットホームな撮影現場で、スタッフさん、キャストさんがしんに試行錯誤を重ねて、その思いを具現化してくださいました。ドラマの現場、あるいは世間一般で常識や普通とされているものを疑うような投げかけができればなあ、と思っています」

プロフィール
1986 年、大阪府出身。2010年、劇団「うさぎストライプ」を結成し、全ての作品で作・演出をつとめる。2019年、1人の娘と2人の父親による“ありふれた”家族の姿を描いた舞台『バージン・ブルース』で「北海道戯曲賞」大賞を受賞。近年の脚本作品に、NHKの特集ドラマ「いないかもしれない」、土曜ドラマ「エンディングカット」、舞台『隅田川ヤングロード物語2〜嗚呼! 青春はマサラの香り!〜』など。


【制作・南野彩子プロデューサーのコメント】

「数年前、私は1人の俳優の履歴書を前に頭を抱えていました。その俳優は車椅子に乗っていました。私は思わず、『障害のある人って、撮影現場にお迎えできるんだっけ……』そんなことを考えてしまいました。私のその偏見こそ、彼のような俳優の活躍の場を狭めてきたんじゃないか。そんな思いから、障害のある俳優さんたちを拒むことのない撮影現場を作りたいと、企画を出しました。
けれど、撮影の準備を進める中で、何度も『これでいいんだろうか』と立ち止まってしまいました。例えば、障害のある俳優を起用するためオーディションを開催しようとすると、募集要項が書けないんです。『多様性のために』とか『こんな時代だから』とか言葉を並べるほど、なんだかきれい事を言いたくて人を利用しているような感覚になりました。『障害があるから』という理由で人を選ぼうとしている時点で何か間違っているんじゃないか。そもそもなぜ、障害者と健常者って線を引いているんだっけ……。『あなた』と『わたし』、ただ1対1の関係を築きたいのに、それを阻むものはなんだろう。考えれば考えるほど、自分がどう他者と向き合ったらいいかわからなくなってしまいました。
それを業界の話にとどめず、人が人と出会う尊さ、関係を築く難しさ、それでも対話することの大切さ……いまを生きる生身の人間の物語として、作り上げてくれたのが、脚本の大池容子さんです。そして主人公・未来を演じるのは伊藤万理華さん。未来は様々なモヤモヤを抱えてもがき続ける人物なのですが、そんな未来の気持ちを全身全霊で表現してくれました。さらに、未来に大きな影響を与える人物・ハルを演じるのは、ドラマ初出演の和合由依さんです。彼女の芝居をオーディションで見たとき、「この人と一緒にドラマを作りたい!!」と、心が震えました。未来とハル、2人の出会いから生まれた様々な感情を、是非お楽しみいただけたら幸いです」


土曜ドラマ「パーセント」(全4回)
放送:2024年5月11日(土)スタート
毎週土曜日 総合 午後10:00~10:45
      BSP4K 午前9:25~10:10ほか
作:大池容子
音楽:池永正二
出演:伊藤万理華、和合由依ほか
制作統括:櫻井賢、安達もじり
プロデューサー: 南野彩子、葛西勇也
演出:大嶋慧介、押田友太