2月5日、東京・渋谷のNHKで、2月18日放送スタートのプレミアムドラマ「舟を編む〜私、辞書つくります〜」の取材会が行われ、出演者の池田エライザさん、野田洋次郎さん、制作統括のこうさん、演出の塚本連平さんが出席した。

【物語のあらすじ】
大人気ファッション誌の編集部員・岸辺みどり(池田エライザ)。雑誌の廃刊が決まり、突如異動になった先は辞書編集部! そこは、ぼさぼさ頭で超がつくほどの生真面目上司・じめみつ(野田洋次郎)を筆頭に、くせ者ぞろい。みどりは彼らに翻弄されながらも、一冊の辞書を作るために十数年間に及ぶ時間と手間をかける根気と熱意に触発され、次第に自らも言葉の魅力を発見、辞書編纂へんさんの仕事にのめり込んでいく。辞書「だいかい」を完成させるまでの、辞書編集部員たちの奮闘物語。

「舟を編む」は2011年に刊行され、翌2012年に本屋大賞を受賞した、三浦しをんさんの小説。出版社「玄武書房」で営業部員だった馬締光也が、新しく刊行する辞書『大渡海』の編纂メンバーとして辞書編集部に加わり、個性豊かな編纂者や監修者などとともに、辞書の世界に没頭していく姿を描いた作品だ。

2013年に映画化、2016年にアニメ化され、長きにわたって人の心をつかんでいる本作が、今回、新たにドラマ化されることになった。原作の主人公は馬締だが、本作ではファッション誌編集者から異動で辞書編集部に来た若手社員・岸辺みどりの視点で物語が紡がれていく。

しかし、原作の発表から10年以上が過ぎ、すでに映画化されているこの物語が、なぜ今、ドラマ化されることになったのだろうか? 本作の制作統括である高さんが、すでに10年前に三浦しをんさんに、「みどりのドラマとして描きたい」と直談判していたと明かす。

「小説の初版を読んで感銘を受け、映像化したいとご連絡したんですが、もう映画化が決まっていて、その時は叶いませんでした。映画を観たらやっぱり面白かったんですけど、物語としてはすでに完結しているので、馬締の物語として描くという選択肢はなくなりました。原作の後半部分は『大渡海』の編纂が始まって13年後の話で、みどりの目線で辞書づくりが描かれているのですが、私は辞書のことを知らない人間だったので、同じような立場のみどりが言葉の魅力に感化されていく彼女の目線はどうだろう? と思ったんです。三浦先生の文体は軽妙で、笑えるところもあるのだけど、映画は2時間に収めるために重厚に作られていたので、ドラマで時間をかけることで、軽妙さやみどりから見える、辞書編纂の13年間の行間をもっと見せられるんじゃないかと思いました。なので、10年前、映画を観たあとでもあきらめきれなかった私は、『みどりの視点でドラマ化したい』とお伝えしたんです。しつこいんです、私(笑)」

辞書編集部に加わる岸辺みどりを演じるのが、池田エライザさんだ。会見前日に撮影が終了したばかりとのこと。

「昨日、無事撮影が完了しました。『明日は会見だから泣かないぞ』って決めていたんですけど、最後に挨拶して、家に帰ったあと、すごいぴえ〜っとなってしまって、今日はちょっと目が腫れていて大変申し訳ないんですけど……。毎日毎日、終わってほしくないと願っていた大好きな現場だったので、そんな作品について今日、お話できるのはうれしいです」(池田さん)

同じく、撮影が終了したばかりの野田洋次郎さんは、ロックバンド「RADWIMPS」のボーカル、ギター、ピアノ担当のミュージシャンでありながら、俳優として活動している。馬締光也役を演じたが、演技の仕事は約4年ぶりだったという。

「4年前、僕は演じることに向いていないのかなと思いながら、必死に音楽と向き合ってきたのですが、昨年、『舟を編む』のお話と脚本をいただいて、こんな面白い脚本があるんだ! と衝撃を受けました。俳優だろうが、音楽だろうが、どんな形であれこの作品の一部になりたいと強く思ったのを覚えています。昨日撮影が終わって、あの時の自分の直感は正しかったと思いましたし、一生忘れない体験になりました。一人でも多くの人にとってそういう作品になればうれしいですし、絶対に損はないというドラマができました」(野田さん)

池田さん、野田さんに自分の役柄について聞いてみると、池田さんはみどりと一緒に転んでは立ち上がりつつ、みどりの変化や吸収力に魅力を感じたという。

「みどりはすごく感情の幅が広くて、豊かな子。でも、自分のその感情や、人に対して抱く気持ちにどんな名称がつくのかはまだ知らない。だから私も、みどりちゃんは今きっとこんな気持ちを抱いているのかなと辞書で引いてみたりしました。誰かが誰かに自分の気持ちを伝えたくて、もっと正しく、自分の気持ちに一番近い言葉で伝えたくて言葉が生まれていったということを一緒に学ばせてもらえたので、撮影が終わって、みどりちゃんと自分をすごく近くに感じています。それに、彼女の吸収力もいいところで、『え、知らない、調べます!』というところは彼女の素敵なところだし、自分の美しくない気持ちも頑張って言語化しようともがいている姿は、本当に美しい瞬間だと思います」(池田さん)

以前に原作も読んでいたという野田さんは、ミュージシャンとして言葉を綴る立場として、他人事だと思えなかったという。

「言葉ってどうやったら人に届くんだろう、どうやったら自分の気持ちにもっと近い言葉として届けられるんだろう、ということを毎日考えながら歌詞を書いています。自分だけの言葉はどうすれば獲得できるんだろうと考えながら歌を紡いでいた20年なので、馬締の言葉に対する姿勢は自分の分身のように思えて、これは絶対僕がやりたい、って強く思わされました。だけど、辞書としての言葉を作るのは全く別の作業でした。セリフにもあるのですが、辞書は人々にとっての入り口でもあるので、自分だけのエゴで言葉を解釈してもだめだし、いろんな人がその言葉を使うきっかけになるべきもの。だから、言葉についていろいろ考えましたし、馬締のセリフにはいろんなことを気づかされました」(野田さん)

第1話は、みどりが編集者として在籍していたファッション誌の廃刊が決まり、突然、辞書編集部への異動を命じられるところからはじまる。知らない言葉にやたら食いついてくる馬締をはじめ、日本語学者の松本先生(柴田恭兵)、社外編集者の荒木(村松了)などとともに『大渡海』の編纂に携わっていくことになるのだが、辞書とは無縁だったみどりにとっては戸惑いの連続。さらには同棲中の恋人・昇平(鈴木伸之)との仲も雲行きが怪しくなり……、という展開で、みどりという人物を丁寧に描いている。

「第1話に出てくる、松本先生の『辞書はあなたを褒めもしませんし、責めもしません』と、馬締さんの『悪い言葉はありません』というセリフは、私が普段生活している中でも、頭の中にふとわいてくる言葉になっています。この二人にいただいた言葉が今の自分を健やかにしてくれているので、第1話ではぜひそのシーンを、心を緩めてみていただきたいなと思っています」(池田さん)

まだ第1話を見ていないという野田さんだが、1話だけでは馬締がどんな人物かわからないし、みどりもそう思っているかもしれないけど、それでいいと話す。

「みどりと同じように『はてな?』でいいと思っていて、第2話以降で一緒になって知っていってほしいですね。普段、僕らは毎日当たり前のように言葉を使っていますが、言葉というものにいま一度立ち返る瞬間が、このドラマの中にはたくさんあるので、その瞬間をぜひ体験してほしいと思っています」(野田さん)


プレミアムドラマ「舟を編む〜私、辞書つくります〜」(全10回)
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2024年2月18日(日)スタート
毎週日 BS P4K・BS 午後10:00〜10:49