(一財)NHK財団が2021年から主催している「新・介護百人一首」。最新の2023年度の入選作の一部が、「ラジオ深夜便」で放送されます。俳優の市毛良枝さん、歌人で選者の桑原正紀さんのお二人をゲストにお招きして、司会は桜井洋子アンカー。その収録現場を取材しました。聴きどころをご紹介します。

「新・介護百人一首」は、介護にまつわる思いや体験を詠んだ短歌を広く募集し、歌人の方々の審査を経て選ばれた百首を、毎年11月末に発表する催しです。
毎年応募数は増えており、2023年度は6,855件、14,196首の応募がありました。応募者の年齢は13歳から103歳と幅広く、特に最近は若い世代の応募が増え、その多くは介護を学んでいる学生とのことです。

市毛良枝さん

今回の放送では、多彩な入選作の紹介も聞きどころですが、ゲストで介護経験者のお二人のお話も必聴です。市毛さんはお母さまを100歳で看取るまで、13年間介護を続けられました。現在は介護をテーマにした著作を準備中。桑原さんはご夫人の介護を19年間続けてこられ、『妻へ。千年待たむ』など、介護をテーマにした歌集も発表されています。

入選作を見渡すと、介護のさまざまな経験や思いが、さまざまな形で詠みこまれています。体験の辛さや悩み、介護される側・する側の心のふれあい、介護を巡るなにげない日常など……。涙をさそう作品もあれば、思わず微笑んでしまうユーモラスな作品もあり、ひと口に介護といっても、そこには大きな多様性があることがわかります。

番組では、作品を桑原さんの朗読で紹介し、市毛さんとのトークで進行します。桑原さんのごく自然体の朗読を体験すると、作品を声で聞くのと黙読するのとは、まったく味わいが違うことがあるとわかります。これもラジオの楽しみのひとつでしょう。

「とにかくすてきな歌ばかりで、(収録中)何度も涙ぐんでしまいました」とおっしゃる市毛さん。ご自分の介護体験から得た教訓を、こうお話しされます。
「悩みや苦しみを、自分独りで抱え込まないことですね。相談に乗ってくれたり、話を聞いてくれる人を見つけるのが一番大事。ためらわずに『助けを求める』、そのために『声をあげる』ことです」

桑原正紀さん

桑原さんは、介護を詠む短歌の効用について、こうお話しされます。
「日記などの記録では、その時々の気持ちは残りにくいんです。でも短歌の五七五七七に収めようとすると、言葉を自分なりに工夫しなければいけない。そういう自己表現に取り組めば、そのときの気持ちを歌にこめられる。そういう短歌は後で読んでもその時々の感情があざやかによみがえってきます。それが心を軽くしたり、救われた気分にしてくれるんです」

短歌作りがあったからこそ、ご夫人の介護を長年続けてこられたのかもしれませんね。

作品紹介が一段落したときの市毛さんの言葉です。
「『百人一首』といいますが、介護も『百人百様』なんですね。さきほど『声をあげる』のが大事と言いましたが、それが『短歌』の形に凝縮されると、思いの内容は別々でも、読んだり聞いたりするこちら側にしっかり伝わってきます。救われた気持ちにもなります。短歌っていいですね。私も作ってみようかな……(笑)」

厚生労働省によると、2021年度の「要介護人口」は690万人。日本の人口の5%を超えています。つまり介護は私たちにとって、すでに日常的な出来事になっているのです。

桜井洋子アンカー

自身も介護経験者である桜井アンカーは、収録後にこうコメントしています。「今年は1万4千首を超える応募をいただきましたが、この裏側には、介護の中で悩んでいて、でも声を上げられない方が数多くいらっしゃるんですね。そういう方々にも放送をお聴きいただき、『決して一人ではないんですよ』とお伝えできたらと願っています」

思い切って短歌づくりやってみようかな、と感じられた方に、桑原さんからひと言。
「審査をしていますと、短歌作りの経験が浅いか、あるいは初めて、という応募者が多いように感じます。でもその分、私に新鮮な驚きを与えてくれる作品にたくさん出会えているのですよ」

そうです!短歌作りの経験あるなしは関係ありません。介護を経験されている方は、ぜひ短歌作りにトライされて、次年度に応募されてはいかがでしょう。


※放送は2024年1月27日(土)午前4時台の予定です。(放送後でも、NHKラジオ「らじる★らじる」の「聞き逃し番組を探す」でお聞きいただけます)。
また、「新・介護百人一首」の入選作品一覧、応募時期、方法など催しの詳細は、NHK財団のサイト新・介護百人一首2023 をご覧ください。

(介護百人一首担当 展開・広報事業部 佐々木佐知子)