調理師の資格を持つ渡貫淳子さん(49歳)は、第57次南極地域観測隊の調理隊員として南極に渡り、2015年12月から1年4か月間活動しました。
アイデアを駆使して日々の食事を作り、隊員たちの胃袋と心を満たした経験は、フードロスの軽減にもつながっているといいます。南極での活動の様子や、そこから学んだことについて伺いました。
聞き手/後藤繁榮
この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2024年2月号(1/18発売)より抜粋して紹介しています。
――1年以上にわたって、1日3食、30人分の料理を作るのは大変でしょう。
渡貫 そうですね。基本的には3食と、さらには夜食やおやつなど、隊員の口に入るものはすべて作ります。南極にはお店も自動販売機もないので、私たち調理隊員が作るものしか食べるものはありません。もちろん冷蔵庫や冷凍庫に食材は入っていますが、そのままでは食べられないものが多いので、私たちの手が必要になります。
――南極では近くのスーパーで追加の食材を、というわけにはいかないですもんね。
渡貫 はい。しょうゆを借りに行きたくても、隣の基地まで片道3週間くらいかかるようなところです。隣は日本の基地ではないので、しょうゆはないと思いますし(笑)。でも食材を買い足せない、あるものでやりくりしなければならないとなると、かえって腹がくくれましたね。
――リメーク料理も、工夫の一つですね。
渡貫 そうです。私だけではなく歴代の調理隊員がしてきたことですが、材料を最後まで使い切りたいという思いと、生ごみを極力出さないようにしたいという思いで、外食産業なら残り物として廃棄されるものを、もう一回別の料理に作り変えるという工夫をしていました。
南極で出たごみは、すべて日本に持ち帰ります。生ごみの場合は、生ごみ処理機で乾燥させて軽く小さくしたものを焼却し、その灰をドラム缶に詰めて運ぶんです。手間も時間もかかる作業なので、極力ごみを出さないように料理をします。ただ、食べ足りないでは困るわけです。だからどうしても多めに作ってしまう。多めに作れば残る。その残ったものをどう次の料理に変化させるかがいちばんの課題でした。
――そんなリメーク料理の中から、伝説的なおにぎりが誕生したそうですね。
渡貫 〝悪魔のおにぎり〟ですね。昼食の天ぷらうどんで余った天かすを見て、たまたま思いついて作ったおにぎりです。夜食として好評だったのですが、おにぎりを出す時間がまずかった(笑)。私が仕事を終えてから出すので、夜の11時ごろになってしまうんです。そんな夜更けに高カロリーなおにぎりを食べてはいけないと思いながら、ついつい食べてしまう。そこが〝悪魔的〟ということで、この名が付けられました(笑)。
※この記事は2023年7月16日放送「南極で培った食の知恵」を再構成したものです。
「“美味しい”仕事人」渡貫淳子さんのお話の続きは月刊誌『ラジオ深夜便』2月号をご覧ください。
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