かつてテレビの花形だった動物番組も、令和の今は激減しました。

2010年代後半あたりから、「テレビの動物番組がつまらなくなった」という声があがるようになり、現在民放ゴールデン・プライム帯でレギュラー放送されているのは、『嗚呼!!みんなのどうぶつ園』(日本テレビ系)と『坂上どうぶつ王国』(フジテレビ系)の2つのみ。しかも、両番組の放送内容は保護猫と保護犬が大半を占めています。

つまり、「動物番組ではなく、保護猫・保護犬番組になっている」ということ。だからこそ全国の動物園がさまざまな動物を紹介する『ウチのどうぶつえん』(NHK Eテレ)は、「“純・動物番組”として貴重な存在」と言っていいでしょう。


「Eテレならでは」の優しい世界観

『ウチのどうぶつえん』は、各回のテーマに合わせてさまざまな動物をピックアップ。全国各地の動物園で飼育員が撮影した映像を軸に構成しているため、とっておきのかわいい姿や、めったに見せない裏の顔などをのぞき見するような楽しさと、ほどよい学びがあります。

今年放送された各回のテーマには、その楽しさと学びがにじみ出ていました。

「京都で、ゴリラ尽くし」「コアラの偏食ライフ」「アリかナシかでいったら アリクイ。」などの生態をとらえたものや、もう少しまじめに掘り下げた「ゾウのふくちゃんが病気になって。」「障がいと、動物。」「どうぶつが、歳をとったら」。

あるいは、「閉園時間となりまして。」「『モフモフご長寿祭り』~わかやま冬のパンダ祭り~」「夜のサイとゾウ。じわる。」「赤ちゃんが尊いんだってば」「ネコ科ギャップ」「なぬ?こんなところにパンダ?」などの遊び心ある切り口のほうが、むしろ多いかもしれません。“動物のう○ち研究”がテーマの「集まれ!ころころりん」なんて民放ではまず見られない切り口ではないでしょうか。

動物のキュートな姿に癒やされたり、けなげな姿に感動して涙腺が潤んだり、「なるほど」と感心したりなどの優しい世界観は“Eテレの動物番組”ならでは。さらに、「全都道府県に放送局を持つNHKだからこそ、各地の動物園をフィーチャーしやすい」ことも強みの1つかもしれません。


悲壮感を抱かせない高齢動物特集

これまでの放送で、特にその癒し、感動、感心が詰まっていたのが、「どうぶつが、歳をとったら」「シニアさんをサポート」などの高齢動物特集。

たとえば、2005年に人気者となったレッサーパンダの風太は、現在20歳になって歯が抜けたため、笹は電動ミルでふりかけにして食べていました。さらに、その機械の資金はクラウドファンディングで2300万円以上が集まり購入したそうです。

白内障になったキングペンギン(推定27歳)のエピソードも泣き笑いを誘うものでした。目が見えなくなってしまったため、プールに飛び込むことすらままならないほか、仲間とぶつかって攻撃されてしまう機会が増えていましたが、高齢麻酔のリスク覚悟で手術にトライ。1年ぶりに仲間のいる運動場に戻り、何と繁殖のアピールをするほど回復するまでの姿がリポートされました。

その他で印象的だったのは、「51歳のボルネオオランウータンが、義母として横浜の動物園で人工保育された2歳児の子育てに挑戦する」という国内初のミッション。「子どもが好きだから、一緒に遊ぶことで若返り、長寿につながる」という狙いは、そのまま人間に当てはまるところがあり、高齢化社会のあり方を考えさせられました。

また、多くの人々でにぎわう動物園ですら、「動物のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を上げるための資金確保は難しい」という厳しい現実を見せながら、視聴者に悲壮感を抱かせないのも『ウチのどうぶつえん』のいいところ。脱力感あふれるナレーションとイラストを絡めつつ、各動物園の知恵、飼育員の愛情、市民のサポートなどの適度なポジティブ要素を重ねていく構成・演出に笑顔を誘われます。

この脱力感や適度なポジティブ要素も、「総合テレビやBSではなく、Eテレの動物番組だから」なのでしょう。ゆえに個人的な思いとしては、このままEテレでマイペースに放送し続けてほしいと感じています。


民放動物番組はクレームで路線変更

最後にふれておきたいのは、なぜ民放の動物番組が保護猫・保護犬ばかりになったのか。

かつて『わくわく動物ランド』『どうぶつ奇想天外!』などを手がけていたTBSは現在レギュラーの動物番組がありません。2018年秋に4年半放送された『トコトン掘り下げ隊!生き物にサンキュー!!』を終了させましたが、その理由は視聴率の低迷ではなく、「放送内容に対する『虐待ではないか』などのクレームだろう」と言われていました。

一方、日本テレビの『天才!志村どうぶつ園』と後継番組『I LOVE みんなのどうぶつ園』も、ネット上の批判だけでなく、動物園などから抗議されたことを週刊誌に報じられるなど、動物番組の難しさは増す一方。「ペットとして飼う人が多い猫と犬をベースにすれば一定の視聴率を得られる」「保護がテーマのコーナーならクレームを受けにくい」などの理由から、徐々に保護猫・保護犬のコーナーばかりになっていきました。

ちなみに民放の“動物特番”は、その大半が『笑える!泣ける!動物スクープ100連発』(TBS系)のようなショート動画を軸に据えた構成。世間の人々が撮ったショート動画で構成すれば「虐待」などのクレームを受けづらい上に、低予算で制作できるなどのメリットが得られます。しかし、世間の人々が撮った動画は、その大半がペットの猫や犬だけにこちらも“純・動物番組”とは言えません。

実は2022年4月に『サンドウィッチマンのどうぶつ園飼育員さんプレゼン合戦 ZOO-1グランプリ』(CBC制作・TBS系)という“純・動物番組”がスタートしていましたが、わずか10か月後の2023年2月で終了。この結果を受けて、さらに「民放の動物番組はやはり保護猫・保護犬でなければ難しい」という見方が強くなっていきました。

いずれにしても、相対的に“純・動物番組”である『ウチのどうぶつえん』の希少価値が上がったのは間違いないでしょう。

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。

「ウチのどうぶつえん」| Eテレ
【30分版】毎月最終金曜 午後7:25  
【10分版】毎週金曜 午後5:20