「冬は寒くて苦手ですが、夏はいくら暑くても平気なんです」などと、長年、言ってきました。周囲の人が「暑い、暑い」とあえいでいても涼しい顔。が、しかし。今夏の猛暑には降参しました。どこにも行きたくない。動きたくない。家にいても、アイロンがけや台所仕事など「熱」を感じるものからは極力距離を取りたい。人生初の夏バテでした。

食欲がない中、何年かぶりにすいかを丸ごと買いました。かぶりつくと体の隅々まで水分と糖分が補充された気分に。旬の味は偉大です。ほかにも夏の味覚の代表選手たち、とうもろこし、枝豆、きゅうり、なす、オクラ、そしておまけのカップアイスが、食欲喪失、料理意欲ゼロの中で心強い味方となりました。

そんな夏のお楽しみの一つが読書でした。デビュー作『鴨川ホルモー』は、京都を舞台にした青春たんだったまなぶさん。16年ぶりに京都を舞台に青春を描いたと聞いて手に取った一冊が『八月の御所グラウンド』です。

表題作の冒頭の一節に《八月を迎え、京都盆地は丸ごと地獄の釜となって、大地をで上がらせていた》とありました。ううむ。暑さや熱気から距離を取りたかったのに、もしや、ど真ん中の作品なのか?

炎天下の御所グラウンドで草野球大会に参加することになった主人公は、メンバー集めにも苦労します。しかし助っ人としてチームに加わった「えーちゃん」がまさかの大活躍。その「えーちゃん」が草野球に出た理由が分かるころ、汗はすっかり落ち着き、代わりに涙が頰をぬらしていました。

主人公が、留学生のシャオさんに老舗パスタ店でごちそうするシーンがあります。冷房の効いた店で彼女が頼むのは、湯気がもうもうと立つ「きのこあさり」のパスタ。食後にはコーヒーとキャロットケーキ。京都で5年間の学生生活を送った万城目さんの思い出の味なのでしょうか。今度、訪ねる機会があったら「きのこあさり」のパスタを探して街を歩いてみよう。涼しくなったらしたいことを一つ見つけた夏の読書でした。

(しばた・ゆきこ 第4土曜担当)

この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2023年10月号に掲載されたものです。
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