久しぶりに会った兄が「おふくろが使っていたたんの奥からこんなものが出てきたぞ」とニヤッとしながら手渡してくれたのが、東京で下宿生活をしていた学生時代に私が書いた郷里の母への手紙でした。

母が亡くなってもう30年。書いたことさえすっかり忘れていました。そのとき、頭の中に流れてきたのはショーケンこと萩原健一さん主演のドラマ〈前略おふくろ様〉のナレーション。そういえば、前略おふくろ様……と一人語りする板前修業中の主人公の名は片島三郎。私と同じ〝サブチャン〞。

青春の痕跡に触れて少しは感傷的な気分になるのかなと思いつつ、端が赤茶けた紙を開くと、これがとんでもない。金送れ! の手紙じゃないですか。

「ノートの紙面にて失礼します」で手紙は始まります。まずここで、便箋ぐらい買えよと今の私。さらに読めば、 「また金の話かと危惧なされることと思いますが、まさにその通り」と。

何がその通りだと昔の自分の厚かましさが恥ずかしくなってくる。しかもお金の使い道がコロコロ変わっていきます。テープデッキを買いたい、合宿があるので、パンを求めてさまよう日々。さらに、アルバイト代が安いとか、授業は殺人的時間割だとか、入ゼミが決まったとか。

言い訳やさも真面目に学生生活を送っているような話を並べて、「(姉の) 結婚式を間近に控え、苦しき折とは」と気遣ってみせる文面は末っ子のざかしさ。読みながら甘ったれの昔の自分に腹が立ってしかたがありません。

母の顔が目に浮かんで、読み返す今の自分の胸がキューッと痛んできます。もう何十年もたっているのに。母が亡くなったとしになり、やっと手紙を読んでいる母の後ろ姿が見えるようになったからでしょうか。

手紙のあと、母からどんな助けがあったのかもハッキリとは覚えていない情けない私。でも、いつもいつもありがたかった。

前略おふくろ様、おかげでサブロウは今も元気に生きております。

(くどう・さぶろう 第1・3火曜担当)

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