これまでにない音楽体験を子どもたちに……。
NHK交響楽団(N響)が今、新しい音楽プログラム(ワークショップ)を開発しています。
その初の試みが9月末に行われました。
参加してくれたのは流通経済大学付属柏中学校1年生の有志、22人です。


ワークショップ参加にあたって、子どもたちには夏休みの宿題がありました。

夏休みのミッションは、なんと「作曲⁈」

「あなたが感じた「田園」をあらわす写真1枚を撮って、
それに5秒間のメロディーをつけてみてください」

お~!なかなか斬新な「夏休みの宿題」!
写真も音も、ネットで普通にやり取りできる、今の子どもたちならではの課題、とも言えます。
「楽器で弾いても、鼻歌を歌っても、クラップ(手拍子)でリズムを作っても、OKですよ」
さて、子どもたち、どうする???

ワークショップでは、子どもたちの作曲した「ピース」をもとに、N響のメンバーが「柏中の田園」を作曲・編曲してくれることになっています。
ベートーヴェンの向こうを張った(?)みんなの「田園」。どんな音楽になるんだろう?
夏休みが終わり、課題を提出した子どもたちはその曲を期待して待つことになりました。


子どもたちのフューチャーラボ 
音楽ワークショップ with N響

ワークショップが行われたのは9月29日(金)の午後。
学校に現れたN響メンバーはこの人たちです。

第1コンサートマスター(現・特別コンサートマスター)として長年にわたってN響団員をリードしてきた、ヴァイオリニスト、篠崎史紀さん(通称:マロさん)や、今回、子どもたちのメロディーから作曲・編曲を手掛けたヴィオラ、御法川雄矢さん(通称:ミノさん)、宮川奈々さん、藤村俊介さん、梶川真歩さん、黒田英実さんの6人。

柏中、1年生たちはちょっと緊張気味。そうだよね、クラシックって、ちゃんとして聞かないといけないしね、と見ているこちらもドキドキしてきます。
まず、6人の演奏から。曲はもちろん、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」。
第一楽章を6人の編成で演奏です。
超近距離での演奏を見る子どもたちの顔は、ワクワク半分、緊張半分といったところかな。

その後、司会のフルート・梶川真歩さんに促されてマロさんがひと言。
「音楽っていうのはね、音を楽しむものです。音を学ぶ「音学」とも、苦しむ「音我苦」とも違う。楽しみましょう」とあいさつしました。

続いては、いよいよお楽しみ、子どもたちの宿題をもとにミノさん(御法川雄矢さん)が編曲した“柏中の「田園」”。
4分ほどの小品ながら、厚みのある、変化に富んだ楽曲でした。
正面のスクリーンには「その時演奏されているメロディー」を作った子どもの写真が投影されます。

自分の作ったメロディーは作品の中でどのように取り入れられているのか、子どもたちは移り変わっていく写真を見て、耳を澄ませて自分のメロディーを探しながら聞いていました。途中、笑顔になる子もいて、どうやらみんな、作品の中に無事見つけられたようでした。

演奏のあとで編曲を担当したミノさんが、子どもたちが提出してくれた写真と「曲」、そして提出した本人の話とを、いくつか紹介してくれました。蝉の写真には、ツクツクホウシの「オーシンツクツク」の“聞きなし”が男子の声で。また、夏休みの旅行中撮影したという、牛が草をはむ高原の写真には、手拍子でリズムを刻む音が入っていました。ほかに、ピアノやリコーダーなど、楽器を使ったものもあったとか。様々なリズムや声、メロディーを入れ込んで一つの世界にしていたんですね。

自分の作った音が聞こえてきた、子どもたちの感想です。
「自分の作ったメロディー、楽器でやるとこうなるんだな、って嬉しかった」
「自分の音がこんなに響く音になると思ってなくて、びっくりした」
「私は一つの楽器で(課題を)提出したけど、ここではいろいろ使われていて面白かった」
「たくさん重なって、すごくきれいな音色になっていた。CDデビューできそう」


音楽は何でできているの?

続いて、ベートーヴェンの田園をみんなで演奏してみよう!というコーナー。
音楽を分解してみると、さまざまな楽器がパートを担い、それぞれのメロディーが組み合わさって一つの曲になっている、ということが紹介されました。
マロさんは、
「簡単に言うと、ジャガイモ、玉ねぎ、にんじん、ライスで、カレーライスになる。カツカレーもエビカレーもあるし、全部載せもあるよね?それと一緒。いろんなパーツを知らないと!」

というわけで、パートに分かれて実習が始まりました。

歌でメロディーを歌うチーム、鍵盤ハーモニカのチーム、リコーダーのチーム。それぞれ楽譜を見ながら短いフレーズを練習。打楽器のチームは木琴・鉄琴・鐘(のど自慢に登場する、あの鐘ですよ)などを練習していました。そんな子どもたちの脇に……あれ?何か遊んでる子がいる?

いえいえ、立派な音づくり。
コップの水をバケツにチャーっと落とす音。下敷きや紙やすりをこすり合わせる音。これも「打楽器」の守備範囲です。
なるほど、音「楽」ってこんなふうにできているんですね。


自分のパートが早めに仕上がった子どもたちが、マロさんを囲んで話し始めました。マロさんはやっぱり大人気。どんな話をしているのか、ちょっと覗いてみたら……

なんとカレーの話。
スープカレーやスパイスカレー、どんなカレーが好き?など、気さくに話してくれるマロさんにみんなすっかり魅了されていました。


パート練習が終わったところでいよいよ合奏。一風変わった、柏中だけの「田園」が生まれた瞬間でした。一回目は、ちょっと出るのが遅れてしまったパートなどあって、演奏は「もう一度」。2回目の演奏は上手くいって、みんな満足そうでした。

「うん、2回目は、できた」
「いろいろ(失敗も)あったけど、楽しかったから、ま、いっかなって」
「こんな近くで演奏を聴いたのは初めてで、すごかった。ふつう、ホールで聴くと遠いじゃないですか。感動しました」

音楽って、ステキ!時間と空間をともにする喜び

マロさんはみんなに向かって、こんな話をしました。
「こうして、違う人生を歩いてきた人たちが一つになれる、それが音楽です。
一緒にやることが大事です。音楽は世界平和につながります。そして次の人に 何かを伝えることができる。また音楽は時間を共有することができます。
さらに楽しむだけでなく、人知を超えた何かが存在すると思います。
信じるか、信じないかは、あなた次第」
ちょっと茶目っ気のある笑顔で、締めくくりました。

2時間近く、N響メンバーと一緒にいて、心も体もほぐれてきた子どもたち。最後はすっかりリラックスした子どもたちと記念撮影でした。

即興の“青オケ”が目の前に!

楽器をしまい始めたマロさんに、一人の少年が近づきました。
「一緒に演奏してもらえませんか」
3歳からヴァイオリンを習ってきたという、中学一年生。
二人の演奏が始まりました。

曲はバッハの「二つのヴァイオリンのための協奏曲」
もちろん、二人とも譜面なんて見ていません。二人のヴァイオリンから紡ぎ出される音が、空気を作ります。

その時の演奏の、一場面をどうぞ。↓

「うわぁ、青オケ(アニメ「青のオーケストラ」)、生で見てる!」

という気分になったのは私だけではなかったはず。
マロさんの「人知を超えた何か」はここで確かに存在していたのです。


子どもたちの気持ちの中で舞い上がった「音楽体験」は、このあときっと静かに沈殿して結晶化していく……そんな風に思えた時間でした。

今回のワークショップの様子は、10月17日(火)のNHK総合「ひるまえほっと」で放送されました。
10/24(火) 午前11:54 まで、NHKプラスで配信中です(13分40秒あたりから)。

NHK財団 阿部陽子

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