「生きていくうえで必要なことだから」
メディア・リテラシーかるたを取り入れた、総合的な学習の時間の終わりに、子どもたちに感想を聞いたらこんな答えが返ってきた。
空気のようにメディアを感じて生きている子どもたち。彼らがメディア・リテラシーについて学ぶ授業を見せてもらった。
小学校の授業を覗いてみた
NHK財団が開発し、2023年夏から希望者(希望団体)への配布が始まった「メディア・リテラシーかるた」。教育現場ではどのように活用しているのか、小学校の授業を見せていただいた。
2学期が始まった9月。お邪魔したのは相模原市立鹿島台小学校6年1組。この日の2時限目、かるたを活用してメディア・リテラシーについて学ぶ授業が行われた。
担当するのは教務主任の井手哲先生。
子どもたちはこれまでに、メディア・リテラシーという言葉や、「受け手」「送り手」というキーワードは学んでいる。
先生が「今日はかるたを使って、もっとメディア・リテラシーについて考えます!」と言うと、子どもたちからは歓声が上がった。
小学生×「かるた」=“楽しい”
4人が1グループになって、ゲーム開始。
読み手は先生だ。
「読みま~す!」というと、教室が静まり返る。
「アップで撮った、笑顔の写真 どこへ旅行した時の?」
「はいっ!」「あった!」「え~見つかんないよぉ」
「これ、あたしのだよ。あたしの方が早かった!」「じゃっ。最初はグー、ジャンケンポン」「やった!あたしね」
教室はわっと賑やかになった。
絵札の裏には解説が書いてある。とった子どもはその解説に目を落とす。
「自分で取ったカードは持っててね~。ではつぎ、読みま~す!」
その瞬間、また子どもたちはさっと静まる。
「すぐに拡散!それ大丈夫?」
「はいっ」と、とりながら、「あ、これ、オレだ」と照れる子がいて、思わず笑った。聞いた話をすぐにしゃべっちゃう自分の行動に、自覚があるらしい。
「ノーチェックでいいの?ってことだよね」と札の裏を読みながらそれぞれ近くの子たちと確認しているグループもある。さすが、情報の海を泳ぐ子どもたち、札のポイントはちゃんとわかっている。
「国の発表がうそだったこともある」
この札はちょっとドキッとする。先生が
「これ、どういうことがあったか、知ってる人!」というとさっと手が挙がり
「えっと、戦争の時、負けてるのに、うそを言った」と子ども。
すかさず「そうだね、大本営発表って話、あったよね」と先生。
半分くらいの札をとったところで、先生から
「では、自分の取った札の中で、心に残ったもの、気になったものを選んで、ワークシートにその理由を書いて、班の中で発表してください」
子どもたちは真剣な顔で課題に取り組み始めた。
「メディア・リテラシーってなんのこと?」という札をとった子どもは
「この札をとったからには、もう、これで書くしかないでしょ」などとつぶやきながら、鉛筆を走らせる。
短い時間でそれぞれが、楽しみながら考えている様子が伝わってきた。
終わった子どもたちにかるたの感想を聞くと、みんな、ひとこと目は「おもしろかった」と笑顔になった。「かるた」と小学生は相性がいいらしい。
「いろいろ知れて、よかった」
「裏に書いてあることを理解するのは難しかった」
そして、最後に答えてくれた子どもから出た言葉が、
「勉強になった。生きていくうえで必要なことだから」
そうなのか!今の小学生って、すごいなぁ、そして大変だなぁと素直に感動した一言だった。
遊びの先へ
授業のあと、担当した井手先生に聞いた。
「かるたは面白くてとっつきやすいですけど(授業の時間の中で)裏の解説を読んで考える時間との、バランスが難しいですね。今回も全部は読んでないし。枚数を絞って、札の絵から内容を想像してもらって、考えながらとるとか、そんなこともやってみたいですね」
子どもたちにかるた遊びの先にある、メディア・リテラシーの考え方に、どうやって触れてもらえるのか、先生の試行錯誤は続きそうだ。
このかるたを監修していただいた日本大学文理学部の中橋雄教授は、次のように思いを語った。
「メディア・リテラシーは一回の授業で身につく能力ではないので、繰り返し学ぶことが重要です。その点この「かるた」は遊びの要素があり小学生が繰り返し取り組みたいと思えるものだと思います。遊びながら札の中の言葉に触れていく。そこにはいろんな要素があるので、大事だなと思った札が心に残っていけばいい。子どもたち、それぞれのタイミングで残っていけば……そして、その“いろんな要素”に教育実践の中で触れていくことが大切だと思う」。
メディア・リテラシーの中に含まれる要素は、本当に範囲も広くて多岐にわたる。未来にはきっと、新しい現象だって出てくるだろう。でも、子どもたちの言う通り「メディアがなければ生きていけない」時代だから、繰り返し、楽しみながら考え続ける。メディアをもっと楽しく、使いこなせるものにする。そのきっかけの一つに、このかるたが役に立ってくれたらうれしい、と思った。
一緒に楽しみながらメディアについて考えてみませんか?
(NHK財団 ステラnet編集部 阿部陽子)