「メディア・リテラシーかるた」が誕生して間もなく2年。
NHK財団では、これまでおよそ1,400部のかるたを、ご希望いただいた学校や教育関係者、個人に無料で配布しました。また、このかるたを監修した中橋雄教授(日本大学文理学部)がD-project(デジタル表現研究会)で周知してくださり、そこで情報を知った方からもお申込みいただきました。
その中から、特別支援学校の授業で学ぶ生徒の様子をご紹介します。


前半は、みんなで「かるた体験」

訪れたのは東京都東久留米市の東京学芸大学附属特別支援学校。3学期末、特別に私たちがお邪魔する機会をいただきました。かるたを使ってメディア・リテラシーについて学ぶ授業はこの日の2時限目(10:20~12:00)に行われました。

参加したのは高等部3年の生徒8名。まず担当の岩井祐一先生から、「前半は楽しみながらかるたで学ぶ体験をしていただきます、後半はかるたの裏面に書かれた内容を一緒に学んでいきます」と授業の流れについてお話がありました。

まず、生徒の中から札を読み上げる係をふたり選んでかるたを開始。先に10枚札を取った人が、読み上げる係を交替していきます。生徒たちは教室内の机を組み合わせて大きなテーブルを作り、かるたを全体に並べてスタンバイ。テーブルを囲むように和気あいあいとした雰囲気で、さぁ、スタートです!

読み札を読み上げる生徒の「次、読みま~す」の声を聞くと、1人1人が真剣なまなしに変わります。1枚のかるたに何人もの手が重なり合う白熱した場面もありました。そんな時は、審判役の生徒が「〇〇さんの方が早かったです」と厳格な判断をして進めていました。

残りの枚数が少なくなってきたところでは、先生から「読み上げる言葉をよく聞いてほしい」ということで、わざと既に取られた札を、係の生徒に読み上げさせる場面も。

全ての札が取り終わったところで先生から、取った絵札の裏面にそれぞれのポイントが書かれていることが紹介され、生徒たちは、自分で取った札の裏面に書かれた説明をじっくり眺めていました。


後半は、「みんなで一緒にワークショップ」

続いて絵札の中から先生が1枚選び、考えを深めていきます。
今回は、「お」の札について考えました。

「同じことを伝えても みんなに同じように 伝わるとはかぎらない」 

それでは、実際にどういうことなのか、体験してみましょう!
先生から生徒全員に白紙を配り、伝えた内容を周囲と相談しないで、紙に書いてもらいます。

【先生から伝えた内容】 
記入する内容は、全部で6つあります。
A4の白い紙を縦形に使います。
1)白い紙の右上に大きな太陽を描いてください。
2)その太陽の左側に星が3つ輝いています。描いてください。
3)その星の下の方に、原っぱを描いてください。
4)その原っぱの左の方にベンチを1つ描いてください。
5)ベンチの近くに木が1本立っています。描いてください。
6)その木の右側に2人の人を描いてください。

さて、それぞれがどのような絵を描いたのでしょうか。みなさんも想像してみてください!

生徒全員に同じ内容を伝えた絵が出揃いました。

生徒が描いた絵をみていくと、太陽1つとっても人それぞれ表現が違いました。太陽を文字で書く人もいました。紙全体に描く人もいました。聞いたことを絵で表現するのが難しかった人もいました。
生徒が描いた絵を黒板に並べてみることで、どれ1つ同じ絵がないことに気付かされます。

それでは、この「お」札の絵札は、どんなデザインが描いてあったと思いますか。

テレビのニュースをそれぞれの世代が見ている絵です。先生は生徒たちに「例えば『東久留米駅(学校の最寄り駅)で男が暴れる。3人が軽いけが』と聞いたら、どう思いますか?」 と生徒たちに尋ねました。

生徒からは受け手として
「危ないと感じた」
「なんで暴れたのかな?」
「暴れたところにいなくて良かった」
「けがが軽くてよかった」
それぞれ違う意見が出てきました。

ニュースで伝えられたことや自分が伝えたことが、受け取り手によって同じように伝わるとは限らないことを覚えておいてください、と先生がまとめました。


体験したあとの生徒たちの声

授業のあと、生徒たちに感想を聞きしました。

Aさん:SNSなど、かるたの内容に興味をもてた。みんなで体験することが、とても楽しかったです。

Bさん:かるたは他ジャンルのものをやったことがあったので、親しみをもって取り組むことができました。

Cさん:(先生の指示で絵を描くときに)先生が伝えたことを理解して、絵で表現することは難しかったです。

東京学芸大学附属特別支援学校 岩井祐一先生

担当した、岩井先生からもコメントをいただきました。

「生徒によっては、学習によって得た知識や技能が断片的になりやすく、実際の生活の場面の中で生かすことが難しい傾向が見られます。どうしたら実生活につなげられるのかが大きな課題です。

そのような中で、ゲーム感覚で楽しく学べる「かるた」を導入として利用しています。聞きなじみのない言葉も自然と覚える機会になり、身近な話題(テーマ)から実生活に近い形で落とし込むことで知識を増やしてほしいです。

現代は、SNSやインターネットを通じて誰でも情報を発信できる時代です。特別支援学校の生徒たちも、SNSやチャットなどを使う機会は増えています。メディア・リテラシーは特別な知識ではなく、毎日の生活の中で必要な力だと思っています。広告を見る、ニュースを読む、SNSで誰かとやりとりする、これらはすべて情報を扱う場面です。かるたで学んだことが、買い物やニュースの選び方、人とのコミュニケーションにも役立つことを伝え、生徒たちが“自分ごと”としてとらえ、人生の主人公として歩んでいってもらいたいと考えています」


関心がある方は、「ステラ net」の「メディア・リテラシーかるた」の記事をご覧ください。
かるたの詳しい情報やダウンロード方法も書いてあります。

(取材・文/NHK財団 展示・広報事業部 佐藤 紘司)