1月9日(火)のラジオ第1「Nらじ」では、メディア・リテラシー教育とメディア・リテラシーかるた(NHK財団制作)が取り上げられました。
その放送の中から、電話出演されたゲストの 中橋雄さん(日本大学文理学部教授)、コメンテーター今井純子解説委員のコメントも交えながら、内容の一部を紹介します。

――今回の能登半島地震では激しい揺れの直後から、X(旧Twitter)で救助を求める投稿が多くありましたが、中には実際の被害とは異なる救助の要請や過去の災害の動画を使った偽情報なども多く含まれていました。
収益を得る目的で投稿しているケースもあるとして、専門家は注意を呼びかけています。

日本大学文理学部教授 中橋雄さん

【中橋さん】
悪意をもってそうした発信をする人がいることは許しがたいことですが、いまの社会やメディアの構造では、間違いや嘘の情報発信をなくすことはできません。受け止める側が判断することが重要になるのですが、真偽を確認できないことも多いです。

せめて確かでない情報を広めることがないように注意しなければならないと思います。たとえ善意であっても不確かな情報を広めることで人に迷惑をかけることがあると知っておいてもらえればと思います。

普段から、情報をそのまま鵜呑みにするのではなく「本当だろうか?」と自分で考え判断することが大事です。そして、有事の際には、そのことを普段よりも意識して、冷静に考え行動してもらえればと思います。有事の際、人は冷静に考え判断する力が弱まるものだからです。


――こうした時にも必要になる力が「メディア・リテラシー」です。中橋さんは、メディア・リテラシーについて学ぶことの大切さを伝えてきました。

【中橋さん】
大切なのは、メディアの特性について知ることです。
メディアは送り手の意図によって構成されているため、どうしてもある一面を切り取ったものになります。当然、切り取られたフレームの外側があります。そこに気づくと深く読み解けたり、うまく表現できたりするようになります。つまり、世界はある面を切り取ってしか伝えられないところに行きつきます。これは新聞やテレビなど従来のメディアでも、SNSなどの新しいメディアでも変わりません。

――NHK 財団では、メディア・リテラシーについて、子どもと一緒に楽しく学ぶきっかけにしてもらおうと、「メディア・リテラシーかるた」(推奨学年は小学校5年生以上)を開発しました。中橋さんにはその監修をお願いしました。

番組では、スタジオで実際にかるたを楽しみながらメディア・リテラシーについて考えました。


▼「決めつけず 見えない部分を想像しよう」

【中橋さん】
絵札には2頭のカンガルーが描かれていますが、カメラがとらえている映像を見ると、左のカンガルーが一方的に攻撃しているように見えます。しかし、カメラに写っていないところで右のカンガルーがキックを決めています。受け取った情報だけがすべてだと決めつけず、見えない部分を想像することの大切さを学べます。

このかるたは、このように絵札を取った後で、その内容についてみんなで学ぶことができる仕組みになっています。


▼「すぐに拡散!」それ大丈夫?

スマホで情報を拡散しようとしている人を、二人の人が「ちょっと待って!」と止めようとしている絵柄です。

【中橋さん】
その情報は誰が何のために発信した内容なのかを確認しないと、誤ったことやただのうわさを多くの人に伝え、だれかの迷惑になってしまうこともあるので、すぐに拡散せず、冷静に判断して行動することが重要です。


▼「イメージは 知らないうちにメディアから」

【中橋さん】
ステレオタイプなイメージを私たちは抱きがちです。時代劇を見た海外の人が、日本にはいまもサムライがいると思い込んだケースもあります。同じようにメディアで知った海外の人たちに対して勝手なイメージを作り上げていないか。偏見や差別が生じることのないようにしないといけません。


【今井純子解説委員】
私が専門にしている消費者問題についていえば、例えば、SNSで「子育て中のママです。この副業は安心で確実です」などと誘われて数十万円の投資の教材を売りつけられたり、お金をだまし取られたりといった悪質な事業者による被害がたいへん大きな問題になっています。
SNSで知り合った人を会ったこともないのに簡単に信じてしまう。このかるたはそうした被害を防ぐのにも役立ちそうだなと思いました。

【菊野理沙キャスター】
メディアによって“切り取られた外側”についてもイラストで載っているので視覚的にわかりやすいですし、みんなで遊べば自然と身につきそうだなと感じました。

【中橋さん】
考え方は人によって違います。何らかの決められた正解があるわけではなくて 、送り手と受け手が歩み寄っていくことが大事だということを学んでもらいたいです。
送り手と受け手のズレとか違いをかるたで遊びながら理解してもらえると嬉しいです。
学習用のかるたではありますが、大人も一緒に遊んでもらいたいなと思っています。実はメディアについて学ぶ機会は大人はこれまであまりなかったんです。ですから大人が見ても気づくことはたくさんあると思っています。ぜひみんなで楽しみながら学んでもらえればなと思っています。


関心がある方は、「ステラ net」の「メディア・リテラシーかるた」の記事をご覧ください。かるたの詳しい情報やお問い合わせ方法、ダウンロード方法も書いてあります。

※メディア・リテラシーかるた2024年度の無料頒布を開始しました。NHK財団のお問い合わせフォームからお申し込みください。また、ご自身でダウンロードして印刷しても使えます。(絵札のダウンロード読み札のダウンロード

(取材・文/NHK財団 ことばコミュニケーションセンター 伊藤源太)