こんな行きつけの店があったらなぁ。「季刊深夜便」でゲストの中江有里さんが紹介した本を読みながら思いました。東京・三軒茶屋の 路地裏にある小さなビアバー「香菜里屋」。店を舞台にした北森鴻さんの短編シリーズは、登場するお酒もつまみも実においしそう。もし近所にあったら重宝しそうです。
通い慣れた店があるのは心強いものですよね。米屋さん、魚屋さん、和菓子店、写真屋さん。小学生のころ、おつかいに行った店先の風景は今でも目に浮かびます。最近では静岡赴任中に通った八百屋さん。旬の野菜の調理法も教えてくれました。すぐ売り切れてしまう焼き芋も思い出の味です。
このところの「行きつけ」は、美容院、歯科医院、そして古書店です。鏡の前で白髪が気になると、もう居ても立ってもいられない。そんな時に夜遅くまで営業する美容院のありがたいこと。ズキズキ痛み出した奥歯に悲鳴をあげて電話すると「多少、待たせるけどどうぞ」と言ってくれる歯科医院はまさに地獄にホトケ。散歩の途中で見つけた小さな古本屋さんでは、数年前の話題作によく出会います。あ、これまだ読んでなかった。未読小説との遭遇率が高くて、つい買い込むことに。
4月から、毎月第3日曜日の午後11時台「本の国から」で様々な本を紹介してくれる辻山良雄さん。放送を聞いて、辻山さんの店を訪ねてみました。こぢんまりした店内は、大型書店とはちょっと異なる品ぞろえのような気がします。くるりと見渡すと、やった!気になっていた新刊書を二冊発見。手に取りパラパラと確認してから購入。本を包んでくれた辻山さんにレジで話しかけたら (おそらくは、この人、誰? と驚いたはずですが)にこやかに応じてくれました。
食品も日用品も書籍も、ネット注文して宅配してもらうことが増えました。重い買い物袋をいくつもぶら下げて歩くより快適です。それでもやっぱり行きつけの店があるといい。思いがけない出会いや会話がありますもの。皆さんの「行きつけの店」はなんですか。
(しばた・ゆきこ 第4土曜担当)
※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2023年8月号に掲載されたものです。
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