「ラジオ深夜便」アンカーのエッセーをステラnetでも。今回は迎康子アンカー。最新のエッセーは月刊誌『ラジオ深夜便』8月号で。

マスクがなかなか離せない。3月13日からマスクの着用は個人の判断になった。それでもこの文章を書いている3月末、街に出ると、電車の中はもちろん、道を歩いている人は少なからずマスク姿である。私もすっかりマスク顔が当たり前になってしまった。

コロナウイルスだけでなく、花粉症対策もあってマスクを外せない日が続いている。例年こじらせるとつらい風邪から免れているのもマスクのおかげかも知れない。街の人たちのインタビューでは、お化粧をしない素顔の暮らしに慣れてしまって外せないという声があった。また、マスクはやめたいが、とにかく常に用意し、つけている人が多いところではマスクという人もいた。皆がしているようにしたい、周りに合わせるという日本人特有の考え方である。

海外ではどうなのだろう? ニューヨークでは去年9月、公共交通機関でのマスク着用義務がなくなった。3月には市長が「マスクをして店に入る人が怖いのは、感染ではなく警察」と言った。背景にはマスク姿で白昼堂々店に入り、商品を強奪する事件が頻発していることがある。市長は、警察の目的は強盗犯を検挙することで、マスク着用自体を否定するものではない、入店の際顔がはっきり分かれば、店に入って再びマスクをつけるのは問題ないとも話している。

フランスでもコロナ前、マスクをつけるのはよほどのことであり、日本人が風邪でマスクをつけていると不審そうに道を避けられたという。自由を愛するフランス人にとって、マスクは不自由そのものだったのだ。マスクのイメージがあまりよくない欧米の人たちは、着用義務がなくなってほっとしていることだろう。そうした中でマスクをつけ続ける人たちは、案外勇気がある人なのかも知れない。

私自身はスギ花粉症も治まり暑くなってくるころが、マスクから離れる絶好のタイミングとも思う。マスクのヒモがかかっていた耳元に新しいイヤリングでもつけて、新緑の風を感じてみたい。

(むかい・やすこ 第5月・木・金曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2023年5月号に掲載されたものです。

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