「ラジオ深夜便」アンカーのエッセーをステラnetでも。今回は須磨佳津江アンカー。最新のエッセーは月刊誌『ラジオ深夜便』8月号で。

今、放送している連続テレビ小説「らんまん」は、植物が好きなまき万太郎が主人公。モデルは日本の植物学の父といわれる牧野富太郎で、植物がたくさん登場しています。

植物仲間たちはどんな植物が出てくるのか興味津々。初回から、富太郎が名付けたヤマトグサが出たと喜んでいました。万太郎のお母さんが好きだったバイカオウレンは、高知にある牧野植物園のロゴマーク。花も種もかわいくて、我が家にもひっそりと咲いています。万太郎がバイカオウレンと間違って摘み、「違う!」と叫んだ花を見て、「セツブンソウだわ!」とテレビに向かって叫んだ私。ただそれだけのことなのに、万太郎と同化し、すっかりドラマに入り込んでしまいました。

その後もネジバナ、ジョウロウホトトギスなど、知っている花の名前が出てくるたびに、なんだかうれしくなるのはなぜなのでしょう。万太郎は花に向かって「おまんは誰じゃ」と語りかけています。まずは、名前を知るところから始まるのですね。名前は、相手を認める最初の一歩なのかもしれません。富太郎は、「植物に会いに行くのは恋人に会いに行くのと同じ」と、山に行くにも正装でちょうネクタイをして出かけていたそうです。そして、名前のなかったたくさんの植物に、名前をつけ、ただの草を植物へと昇格させました。

ところで、富太郎のふるさと・高知には珍しい植物が多いと聞き、案内していただいたことがあります。そのときに見たのが、キイレツチトリモチとヤッコソウです。木の下の枯葉をどけると、色や形は多少違いますが、肌色に近い指の先端のようなものが、ニョキニョキと突き出していて、「何これ!」と、目が点! 以来、その名前と姿がしっかり頭に刻まれました。

それにしても名前って不思議なものですね。「『深夜便』のアンカーさんですね」と言われるより、「『深夜便』の須磨さんですね!」と言われる方がうれしいですし……。どんなものにも名前があり、どの命も大事と説いた牧野富太郎の言葉に共感しています。

(すま・かつえ 第2・4火曜担当)

※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2023年6月号に掲載されたものです。

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