高精細の災害絵地図を紐解き見えてきた防災への備えとは……。VR(バーチャルリアリティー)空間で過去の災害資料に触れることができるデジタルミュージアムが、7月10日(月)のラジオ第1「Nらじ」で取り上げられ、専門家と共に今につながる教訓について考えました。

「あいおいニッセイ同和損保―災害の記憶デジタルミュージアム」は、大手保険会社のあいおいニッセイ同和損保が開設し、同和火災海上保険の初代社長、廣瀬鉞太郎氏が収集した1460点の資料群の中から、水害と大地震の記録を中心に26点が展示されています。
18世紀から20世紀初頭に全国各地で起きた災害の記録を、インターネットに設けられたデジタル空間で見ることができるほか、資料に記された、むかしの人々が書いた文章を解読し音声化していて、展示をみながら音で聞くこともできます。高精細画像やAI合成音声などはNHK財団の持つ最新技術を駆使して制作されました。

ゲストの加納靖之さん(東京大学地震研究所准教授)、コメンテーター松本浩司解説委員のコメントも交えながら、内容の一部を紹介します。

加納さん
被災した方々から「こんなことは初めてだ」という声をよく聞くように、人が一生の間に経験する災害は多くはありません。しかし、歴史を振り返りどんな災害があったかを知ることで経験値を増やし、防災への意識を高めてもらうことができると思います。

ゲスト・加納靖之さん(東京大学地震研究所准教授)

番組では、具体的な展示の解説が行われました。
「安芸の国大水図(あきのくにのおおみずず)」は1850年、旧暦6月2日から5日にかけて、広島や岡山さらに島根などの地域が水害に襲われたことが大きな絵地図で表されています。

安芸国大水図
右端に「岡田」の地名

加納さん
旧暦の6月2日は、現在の7月10日にあたり、ちょうど今の時期です。中国地方の広い範囲が描かれています。大雨で洪水が発生するっていうのは過去に繰り返し起きているということですね。右端にある「岡田」というのは地名で、現在の岡山県倉敷市真備町付近に当たるんですね。
2018年5年前の西日本豪雨のことを皆さん覚えていらっしゃると思いますが、そのときのように、江戸時代にも洪水が発生したということです。

松本さん
西日本豪雨の被災地と重なりますね。一番左に鳥居がありますけどこれは宮島で、お城と城下町が描かれているのは広島です。石見(島根県)のことも書かれていて、相当広い範囲にわたる広域災害だったということがわかります。

続いて紹介されたのは、2枚の絵地図がセットになった資料です。
1枚目は、1847年、旧暦の3月に長野県を中心に発生した善光寺地震で発生した土砂災害で川がせき止められた様子で、2枚目は、そのおよそ半月後、せき止められた水、せき止め湖が決壊をして下流に大きな水害をもたらした様子が描かれています。

「弘化4年(1847)3月24日に信州から越後にかけて発生した大地震(善光寺地震)」の絵地図です。

弘化丁未春三月廿四日信州大地震山頽川塞湛水之図
弘化丁未夏四月十三日信州犀川崩激六郡漂蕩之図

加納さん
地震直後の絵地図には、地震で被害にあった村や火災があった村や町が描かれてます。また、強い地震の揺れによって土砂崩れが起きて、それによって川がせき止められた様子が描かれています。
2枚目は、地震の土砂崩れでせき止められていたダムが決壊して水が一気に平野に流れてきた、まさに水害が起きた様子なんです。善光寺の辺りで起きた地震で川中島平という平野の部分に洪水が発生しているという図です。 地震でいろんな災害が発生する。ダムせき止めであるとか、建物の被害、火災が発生するということが分かりますし、その2次的な災害も繰り返されているということも分かると思います。

松本さん
この図はすごく彩りが鮮やかで、浸水したところが水色、集落が丸で囲んであります。それから城下町や門前町が四角で囲んであります。一面細かい毛筆で記録が描かれていて、 ものすごく緻密な災害記録ですね。

コメンテーター・松本浩司解説委員

加納さん
実物は結構大きなもので実物も迫力がありますが、このデジタルミュージアムでも拡大してみていただくと、細かいところも読めるので、集落の名前であるとかあるいは善光寺の門前町が火事になったということとか、いろんなことが学べると思います。

加納さん
ハザードマップは、このぐらい雨が降ったらここは浸水するということを予想・想定して作られるものですけれども、過去の絵地図や資料をハザードマップのようにみていただき、「過去に浸水した地域なので将来も気を付けよう」などという形でみていただくのもいいかと思います。

左から、松本浩司解説委員、菊野理沙キャスター、加納靖之東京大学地震研究所准教授、眞下貴キャスター

その他、番組では、1854年旧暦11月の安政南海地震の際の瓦版も紹介されました。
瓦版には、地震が起きた時の防災に対する心得が書かれています。
「地震を感じたら火鉢に水をかけよう」「重要な書類は持ち出せるようにしておこう」など、びっしりとメモが書かれています。瓦版を購入した人が、自分なりの心得を書き留めたものだろうということです。
このように見ていくとこれらの資料は、先人が私たちに残してくれた防災へのメッセージのようにも感じられます。

「災害の記憶 デジタルミュージアム」は、展示内容を変えたり追加したりしながら、全国各地の災害資料を発信していく予定だということです。
皆さんもぜひこれらの貴重な資料を高精細の画像でご覧ください。

「災害の記憶 デジタルミュージアム」はこちらから
https://unpel.gallery/saigai-no-kioku/

NHKポッドキャストでは、9月8日(金)午後7時まで配信しています。
https://www.nhk.or.jp/podcasts/listen_nradi_sp.html