地域の防災力向上を目指し、NHK財団が企画する防災ワークショップ。3回目の会場は、去年8月、記録的な大雨に見舞われた石川県小松市です。
「前編」に続き、運営にお力添えを頂いた「小松防災士の会」副会長の高野明美さんとの「やりとり」を振り返りながら、ワークショップの模様をお伝えします。
(文/NHK財団 星野豊)
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✉️2023/5/22 高野明美さん ⇒ 私
「先日の大雨では、梯川の水量が一気に増え、あっという間に氾濫危険水位に達しました。去年よりリスクが高まっていると感じます。だからこそ、今回のワークショップには、出来るだけだけ多くの方に来て頂きたいのです。自分の住む町を市を守るために、今、出来ることに全力を注ぎたいと思います」
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5月28日(日)、会場の石川県小松市「團十郎芸術劇場うらら」大ホールには、凡そ350人の方々が詰めかけました。高野さんの願いが通じ、小松市民を始め、周辺の地域からも多くの皆さんが訪れました。
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午後1時、会場の照明が落とされ、場内は暗闇に。一瞬の静寂の後、光の中にピアノが浮かび上がりました。やがて語りかけるように、演奏が始まりました。
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ピアニストの松本俊明さんです。曲は「月という名の雫」。松本さんは、創作拠点のひとつとして、度々、石川県を訪れています。
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司会進行の滝島雅子アナウンサーから石川県の魅力を問われると「自然に恵まれ、文化が根付いている地域なので、音楽的なインスピレーションが湧くのです」と語って下さいました。
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続いて金沢大学の谷口健司教授が登場。谷口教授は「水工学研究室」に所属し、水害から人と街を守る研究に取り組んでいます。今回のワークショップの監修役であり、コメンテーターでもあります。
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ワークショップは3部構成です。第1部は「避難シミュレーション」。去年8月の記録的な大雨を題材に、事態が深刻化していく過程を「4段階」に分け、気象警報や河川情報、避難指示が発表される度に、会場の皆さんに「避難する」「避難しない」を判断してもらいます。
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ステージには、小松市民を代表して3組のご家族に登場して頂きました。
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山崎恵一さんは、母と長女と共に参加。去年の大雨では、住宅が床上浸水し、消防のボートで救助された経験をお持ちです。
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福田恵美子さんは、息子さん、お孫さんと一緒に参加。福田さんは、去年、周囲の道路が冠水し、自宅から外に出られなくなったと言います。
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竹田裕司さんは息子さんと参加。お住まいは、梯川の近くにあり、周辺の住宅の半数が水に浸かりました。竹田さんのお宅は、浸水は免れたものの、水は玄関先に迫り、大事な家財を2階に運び上げたそうです。
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「避難シミュレーション」開始。第1段階は、去年8月4日の早朝にさかのぼります。石川県の上空に1時間に80ミリ前後の猛烈な雨を降らせる雨雲(レーダーの赤い部分)がかかっています。
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午前4時18分「大雨警報」。午前5時を過ぎると「土砂災害警戒情報」「洪水警報」、更に小松市の山沿いで1時間に凡そ100ミリの雨が観測され「記録的短時間大雨情報」が発表されます。
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ここで「避難する」「避難しない」を判断。3家族の選択は、いずれも「避難しない」。「差し迫った危険を感じない」というのが、共通の理由でした。
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第2段階は、午前6時台から7時台の状況です。雨雲の範囲が広がってきました。
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午前6時15分「避難指示」。対象は小松市内の「国府」と「中海」という2つの地域です。この時点で再び判断。3家族とも「避難しない」を選択。山崎さんは「去年、この時点で近くを流れる梯川の水位を見たが、まだ大丈夫だろうと思った」。福田さんは「雨の降り方はいつもよりひどいと思ったが、情報も少なく、避難には至らなかった」。竹田さんは「避難指示の対象地域からは離れたところに住んでいるので、様子を見ようと思った」と理由を語りました。
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会場の皆さんは、どうでしょうか。
赤い紙を掲げる人が少なからずいらっしゃいます。
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「避難をする」と判断した人に理由を訊ねると「去年の災害ボランティアに参加して、被災された方々から早めの行動の大切さを聞いていたので、避難指示が出たら逃げた方が良いと考えました」と答えて下さいました。
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「避難シミュレーション」は第3段階。1時間に80ミリ前後の猛烈な雨を降らせる雨雲が増えています。
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午前9時45分、新たな「土砂災害警戒情報」が、小松市内の「波佐谷」「那谷」などに。午前10時台には「記録的短時間大雨情報」の発表が相次ぎます。1時間に凡そ100ミリの雨が小松市の平野部でも観測されます。午前10時40分には新たな「避難指示」。「波佐谷」「西尾」など5つの地域が対象です。
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ここで山崎さんは「避難する」を選択。「避難指示が出たからです。去年は、この時点で避難せず、その結果、午前11時過ぎから床上浸水が始まってしまいました」と、去年の教訓を生かした判断であることを明かしました。
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福田さんは「避難しない」。恵美子さんは「去年、この時点で勤務先から周囲を見渡した時、まだ浸水が始まっていなかったので、大丈夫かなと思いました」。これに対して長男の宜之さんは「僕は避難した方が良いという考えで、母とは意見が分かれました。避難指示の出た地域の中に地形の似た地域があり、不安を感じたからです」と心境を語りました。
竹田さんは「避難しない」。「自分の家の周囲は、まだ大丈夫かなと思ったからです」と説明しました。
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会場の皆さんに訊ねると…
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凡そ半分の方々が「避難する」を選択。その理由を伺うと…
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「去年は、あっという間に住まいの周辺が水浸しになり、逃げるにも逃げられない状況になりました。そうした教訓を生かして、避難指示が出たら、すぐに避難しないといけないと考えました」と話して下さいました。
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最終の第4段階。小松市内を流れる一級河川の梯川の水位が上昇し、午前11時10分「梯川氾濫警戒情報」。午前11時30分には、小松市内の西尾地区に最高度(レベル5)の呼びかけ「緊急安全確保」、その10分後には「避難指示」、更に10分後には「梯川氾濫危険情報」と、危険を知らせる発表が相次ぎます。
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ここで福田さん、竹田さんも「避難する」を選択。福田さんは「このタイミングを逃したら冠水した道路が水位を増し、動けなくなると思ったからです」と説明しました。
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竹田さんは「自分の住む地域に避難指示が出たからです。ただ、避難所になっている学校へ行くには梯川を渡る必要があり、リスクがあるので、自宅の2階に避難します」と語りました。
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最終の第4段階では、会場の皆さんも、ほとんどの人が「避難する」を選択。「避難しない」を選んだ人に理由を訊ねると「住宅のある場所が地形的に浸水のリスクが低いため」とのことでした。
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去年の大雨では、このあと正午に、最高度(レベル5)の命を守る呼びかけ「緊急安全確保」が、小松市の全域に発表されます。一級河川の梯川を始め、複数の河川が氾濫、排水用の水路が溢れる「内水氾濫」もあり、小松市を中心に1492棟の住宅が水に浸かりました。
いつ、どのタイミングで避難するか。住んでいる地域や家族構成など、それぞれの事情を踏まえると、一概に「正解」はありません。しかし、去年、被災した経験を持つ人が共通して話していたのは「早めの避難が大切」ということでした。1時間余りに及んだ「避難シミュレーション」では、会場に集まった凡そ350人全員が去年の大雨を追体験し、避難行動を見つめ直す「貴重な機会」になりました。
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休憩を挟んで第2部は、この女の子が会場を盛り上げてくれました(^_^)
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「チコちゃんと学ぶ防災クイズショー」です。お馴染みのチコちゃんが、防災にまつわる知識をユーモラスに教えてくれるワークショップの新企画。
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今回は「記録的短時間大雨情報」と「緊急安全確保」という、気象災害に関わる重要な用語を学びました。
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これまでに開催したワークショップに比べて、会場には家族連れの姿が目立ち、幅広い世代の皆さんと一緒に防災について考え、大切な知識を身に付けて頂く機会になりました。
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第3部では、水害から人と街を守る研究に取り組んでいる金沢大学の谷口健司教授から、豪雨災害に備える心構えについてアドバイスがありました。
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谷口教授が強調したのは、以下の3点です。
1) 身のまわりの危険を知る(ハザードマップは強い味方)
2) リアルタイムの情報を活用(何が起きているかを知る)
3) 避難は恥ずかしくない(早めの避難)
平穏な時にハザードマップを調べ、自分の暮らす地域は大雨が降るとどうなるのか知っておくこと。非常時には、テレビやラジオ、インターネットを通じて最新の情報を集め、これから起こりそうなことに備えること。そして、避難することをためらわず、早めに行動すること。
こうした心構えを大切に、雨の季節を安全に過ごして欲しいと呼びかけました。
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記録的な大雨から、まもなく1年。「人々の記憶が色褪せぬうちに」と開催した今回のワークショップは、有事の際の「早めの避難」と、平時の「心構え」を確認して、終演を迎えました。
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✉️ 2023/5/29 高野明美さん ⇒ 私
「本当にお世話になりました。本当に勉強になりました。たくさんの方にお会い出来、支えて頂き、学ばせて頂き、今は感謝しかありません。無事に開催された瞬間、ご家族3組が舞台に出られた瞬間、観客席に青と赤の画用紙が一面に広がった瞬間、本当に嬉しく思いました(涙、涙、涙…)
今、防災講座の準備をしています。講座が終わったら、今回のワークショップで防災士の会で話題となった滝島アナウンサーのマジック…神対応…のこともお伝えしたいです」
✉️2023/5/30 私 ⇒ 高野明美さん
「高野さん、お力添え、ありがとうございました。終わってしまうと、なんだか寂しいですね。高野さんのメールにあった『滝島アナの神対応』、ぜひ、タネあかしをお願いします」
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✉️ 2023/6/2 高野明美さん ⇒ 私
「滝島アナの神対応…感動しまくっていました。会場インタビューの際、小松豪雨のときにキーパーソンとなった人たちを、滝島アナは次々に当てていったんですよ。そのセンサー!?勘!?の凄さに、もう、びっくりというか、本当に感動しました。一番被害の大きかった中海町の町内会長さんを当てた時には鳥肌が立ちました。避難所になった高校で200人を超える避難者の陣頭指揮をとって下さった事務局長さん、小松防災士の会の事務局長補佐、事務局長も当ててくれました。あれだけ多くのお客さんがいる中で、次々に・・・すごすぎると思いました。防災士の会のスタッフも驚いていました。滝島アナにも『たくさんの感動をありがとうございました』とお伝えくださいね」
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「地域の防災力向上のために」。そう願って、私たちNHK財団では、全国各地でワークショップを続けています。今回は、小松防災士の会の副会長、高野明美さんの地域を思う気持ちが私たちを後押しして「去年の教訓を生かし、どう備えれば良いのか」を、多くの皆さんに知って頂く機会になりました。
文末になりましたが、開催にお力添え頂いた小松市(共催)、小松市自主防災組織連絡協議会(協力)、小松防災士の会(協力)、国土交通省金沢河川国道事務所(後援)、石川県(後援)の皆さまに、深く感謝申し上げます。主催のNHK金沢放送局の皆さんも、ありがとうございました。
※ワークショップの模様は「明日をまもるナビ」で詳しく紹介されました。
「NHKプラス」では7/9(日)午前10時50分まで視聴できます。
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2023070215263
※「明日をまもるナビ」ホームページにも掲載されています。
https://www.nhk.or.jp/ashitanavi/article/15503.html
(文/ことばコミュニケーションセンター 星野豊)