地域のケーブルテレビ局から、自治体のYouTube発信担当者まで、いま、「アナウンサーの技術を習得したい!」と思っている人は大勢います。そこで人気なのが、NHK財団放送研修センターで行っている「アナウンス1人5役研修」。「読む」だけでなく、「構成を作る」「取材する」「原稿を書く」「ナレーション」「インタビュー」と、NHKアナウンサーがこれまで培ってきた技術を幅広くお伝えする研修です。
今回は、NHK財団放送研修センターで行われている研修の中から、7月に開催したこの研修の様子をご紹介します。

東京・世田谷区にあるNHK財団放送研修センター。日夜、NHK職員のみならず、民間放送局やケーブルテレビの職員、社会人や大学生など「放送を志す」「放送のスキルを学びたい」という方々が、専門性の高い知識やノウハウ獲得に励んでいます。

NHK財団放送研修センター・ことばコミュニケーションセンターhttps://www.nhk-cti.jp/

7月に開催した「アナウンス1人5役研修」には北は青森から南は沖縄まで、全国各地のケーブルテレビや自治体の広報担当者など、2回の研修であわせて29人が参加しました。研修では「ニュース原稿やコメントを読む」ことをはじめ、「構成表作成」「取材」「原稿作成」「ナレーション」「インタビュー」といった、映像と表現にかかわる仕事について、3日間にわたって、NHKアナウンサーのノウハウから学びます。

今回の研修は申込締切を待たず満員となり、急遽追加開催も決定。人気を集めました。その理由はどこにあるのか、受講生に尋ねてみました。

ケーブルテレビ局では少ない人数でアナウンサーや記者、カメラマン、ディレクター、中には経理の仕事を掛け持ちしながら業務を担当しています。そのため、アナウンス業務について専門的に学べる機会があまりない、という悩みを抱えている方が多くいらっしゃいました。また自治体のYoutubeで情報発信を担当することになり、動画制作スキルを身に着けたい、と考えている受講生もいました。動画サイトに誰もが投稿できるようになり、制作スキルへの関心も高まっているようです。

1日目、まずはアナウンスの基本です。講師のNHK財団放送研修センター栗田晴行エグゼクティブアナウンサーは「声を届ける相手との距離が変わると、声の出し方が変化する。4~5m先にいる人に届くように話すと、画面を見ている人に届きやすい声が出せる」とポイントを伝えました。また「腹式呼吸」「無声化」など発音・発声の基本についても伝え、受講生は実際に声に出して、発声の違いを学んでいました。

2日目は、実習です。放送研修センターの近くの公園に移動し、天気中継の構成やコメントを検討しました。当日は33度を超える炎天下。実際に公園の様々な場所に足を運び、何を映像で取り上げたら暑さが伝わるのか、カメラをどのように動かして撮影すればいいのか、など3~4人のグループで意見交換しながら模擬中継を収録。その後研修室に戻り、収録した映像の視聴・検討を行いました。また、佐藤淳エグゼクティブアナウンサーによる「放送のことば」の講義では、放送でアナウンサーが使うことば選びの重要性を学びました。

3日目。ナレーション実習では課題の動画を見て、どんなコメントをつければより魅力的に伝えられるのか、検討しました。記者出身の桑代百合子講師からは「コメント作成では、映像や音をどう生かすか、がポイント。映像を見てわかることと、コメントとのバランスが重要です。情緒的なあいまいな表現、使い古しの表現は避けた方がよく、新しい表現を自分で見つけてほしい」と映像に合わせて効果的なコメントを作るコツを伝えました。

↑課題は「朝採れ野菜販売で人気の農家」を取り上げたリポート動画

またインタビュー実習では「私の目指すこと」をテーマに、聞き手と取材相手に分かれてインタビューを収録。講師からは「今の仕事を目指したきっかけ・苦労していること・今後の抱負、これらの話が引き出せるとインタビューの骨格ができますが、この言葉を使わずに、質問を工夫してみてください」と、難易度の高い課題が示されました。受講生たちは悩みながら、一生懸命質問を考えていました。

Youtubeでの情報発信を担当している受講生からは「地域の飲食店を紹介する動画制作のためにインタビューをする機会が多いが、質問を準備していてもうまく話を引き出せないことが多い」という悩みが寄せられました。これに対し講師から「質問が長すぎると聞かれた人は何を答えたらいいかわからなくなる。質問は短く聞いた方がいい」「抽象的な答えが出たときには、そこから具体的な質問を重ねると答えを引き出しやすい」などと実践的なアドバイスを伝えていました。

研修では休憩時間も活用して講師に質問し、少しでも得た知識を今後の業務に活かしたいという熱心な受講生も。3日間の限られた時間の中、「アナウンス」の仕事の楽しさ、奥深さを、感じていたようでした。

誰でも映像と音声を使って発信できる時代です。NHK財団の研修で放送のノウハウを知って、もっと魅力的な発信につながったら、嬉しいですね。